第5話:ドヤ顔で言い切った
「ちょっと来てくれ! 結界が弱くなっているようだ!!」
男性の低い大声が遠くから聞こえた。
この建物の外からレミさんたちを呼んでいるようだ。
いきなりのことで俺は警戒したが、この姉妹は特に驚く様子を見せていないので、お互いに知った仲なのだろう。
「もう、いいところなのに。しょうがないなあ。ソラ、結界を張りに行くよ。ポチ君も外の様子を見たいでしょ? 一緒に来るといい」
レミさんは席を立つと、ソラちゃんと俺についてくるように促した。
そういえば、ここは異世界。外の様子はどうなっているのだろうか。
俺は召喚や聖異物といった直近の疑問にばかり意識が向いていて、レミさんに言われるまで外の世界について考えていなかった。
異世界に興味が出てきた俺は、レミさんとソラちゃんのあとについて部屋を出る。
レミさんが玄関のドアを開けると、そこには頭部が禿げ上がった大柄の男が立っていた。
年齢は40代後半くらいだろうか。白いYシャツとチノパンという衣服だが、腰には短剣を収めた鞘が下げられていた。帯刀しているのが、なんか異世界っぽいな。
「村はずれの北の森にまた怨霊が出たらしい。猟をしていたホッチンズが慌てて逃げてきた。すまないが、今から結界の強化を頼みたい」
「あらら、怨霊が出る頻度が増えてるようだね。これは急いだ方がよさそうだ。でも、その前に結界を貼り直しますかね」
「よろしく頼む」
レミさんたちと一緒に建物の外に出る。
初めて見る異世界はどんなところなのかと期待と恐怖を抱きながら見回したが、そこは俺の住む世界とほとんど変わりなかった。
冷静に考えると、レミさんたちは俺と同じ人間の姿だし、召喚された部屋の家具や本も俺の世界と同じようなものだった。
外の世界の様子もあまり差異がなくても不思議じゃない。
空に島が浮いていたり、太陽が2つあったり、ひと目で「これぞ異世界!」っていう景色を期待していたので少しがっかりだ。
レミさんたちの後を歩いていくと、村の中心地らしい場所についた。
そこは円形の広場で、そこから放射線状にいくつかの通路が伸びていた。
広場や道路は石畳。建物は石造りや木造など様々。
異世界の村といえば、もっとこうなんていうのか、地面は土で建物はまばら、森の中にあるようなイメージだったんだけどなぁ。
村という規模を考えるとある程度のインフラや職種が揃っていないと生活ができないので、これくらい拓けているのが当たり前なのかもしれないけど。
「じゃあ、結界を張り直すね」
そう言うとレミさんが広場の中央にある街灯のような柱に右手を添え、左手をソラちゃんの頭に乗せた。
そして、俺には聞き取れないくらい小さな声で何かをささやく。
すると右手がぼんやり輝き、その光が柱の上へと伸びていく。
その光が柱の頂点にある街灯のようなガラスの容器まで達すると、ガラスの容器からいきなり突風のような圧が全方位に広がっていった。
突然のことだったので、俺はよろけて大柄の男によりかかってしまった。
「ふぅ。これで大丈夫。前回よりも強めの結界にしたから、怨霊は村に入れないと思うよ。でも、そろそろ怨霊の元凶を対処しないと、私たちが村の外に出られなくなっちゃうね」
大きく伸びをしながら、レミさんが振り返って大柄の男にそう話した。
「そうか。それより、コイツは何者なんだ? お前さんたちの家からずっと一緒にいるが」
大男は自分に寄りかかっている俺の頭にごつい手を乗せてレミさんに尋ねた。
俺もこの大男が何者なのか知りたい。
家を出るときに紹介されると思ったが、スルーされてちょっとショックだった。
急を要することだったので、後回しにされたのだろうけど。
「あー彼? 彼は怨霊を退治するために、私とソラが召喚した異世界の住人! 彼にかかれば悪霊の元凶なんて、ばばーんと退治できちゃうよ!」
レミさんが親指をぐっと立てて、ドヤ顔で言い切った。
その言葉に「おおー!」と歓声が上がる。はっとして、背後を見るといつの間にか村の住人らしい人たちが広場に集まっていた。その数はざっと見ても30人以上はいるだろうか。
いや、今はそんなことより、レミさんが言ってのけた言葉だ。
俺が怨霊の元凶を退治するってどういうことだ?
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