第4話:週刊少年JUピー!、チートになる

 『週刊少年JUピー!』

 小学生の頃から毎号欠かさずに読んでいる漫画雑誌だ。

 王道バトル、ダークファンタジー、定番ギャグ、エッチなラブコメディと多ジャンルの連載作品を掲載している。

 子供の頃は、バトル漫画にドキドキして早く続きが読みたいと次号の発売を待ち望み、クラスの友達と主人公の必殺技を真似して遊んだものだ。

 大人になってからはさすがにそこまでの熱量はなくなったが、仕事帰りに電車で読むのが密かな楽しみだった。


「どうやら魔術書の一種みたいだね」


 レミさんが表紙に描かれた少年――『突風戦記FUMA』の主人公・風真の頭に人差し指を乗せて言った。


「これ、ただの漫画雑誌ですけど」

「漫画っていうのがよくわかんないけど、この書物は聖異物になって魔術書になった。どうやら描かれている内容を実現できるようだよ。ポチ君のこの書物に対する愛着や願望がそういった力を与えたみたい」


 信じられないが、自分の身に起こった変化を思うとレミさんの言う通りなんだろう。

 ただ、「描かれた内容を実現できる」が自分の願望というのは普通に考えて恥ずかしい。

 それは子供の頃の願望であって、今は必殺技を真似したりはしていない。

 酔ったときに「疾風手裏剣!」と言ってコンビニ弁当の容器をゴミ箱に投げたりはしてるけど……。


「でも、なんで見ただけでそんなことがわかるんですか? 俺には聖異物になったJUピー!も普通の雑誌にしか見えないですけど」

「ふふーん。それはコレのおかげだよ!」


 すごいドヤ顔でレミさんが眼鏡のツルに指を添えてクイっと上に動かした。


「眼鏡……ですか?」

「これも聖異物なんだよ。ちょっと前に行商人と『ザ☆ストリップ勝負』をして戦利品としていただいたものなんだ。いやーあの勝負は熱かったよ。まさか、あの場面であんなラッキーカードを引けるなんて。だいたい……」

「お姉ちゃん。勝負の話じゃなくて眼鏡の話ですよ。ポチさん。姉の眼鏡は見た物の本質まで見ることができるんです。どうやら元の所持者が異世界の学者だったみたいです」

「はあ」

「納得言ってないって返事の仕方だね。これはすごい眼鏡だよ。まあ、かけた人が興味を持っていない物を見ても効果はないし、フレームの色が私好みじゃないけどさ」


 フレームの色はどうでもよくないか?

 それを指摘するとさらに話題が脱線しそうだったのでとりあえず頷くだけにしておいた。


「じゃあ、魔術書の使い方を見てみようか」

「そうですね。お願いします」


 実は内心では結構わくわくしていた。

 だって、好きな漫画の内容を実現できるんだ。

 主人公をこの世界に呼び出したり、可愛いヒロインとリアルにラッキースケベなことができたり、グルメ漫画の料理を食べたり、やってみたいことは山ほどある。


「ありゃ、魔力切れだね。ソラ、悪いけど充填して」

「はい。お姉ちゃん」


 レミさんは眼鏡をケースに入れると、それをソラちゃんに手渡した。

 ソラちゃんはそれを両手に乗せて目を閉じている。

 その動作が魔力の充填になっているようだ。


「魔力切れって何ですか?」

「この眼鏡は魔力を込めていないとただの眼鏡なんだ。最近使ってなかったから、魔力の残量が減ってたみたい。だから、ソラに魔力を充填してもらってるのさ。ソラの魔力量は並みの術師の10倍はあるからね」

「でも、術式は苦手なので、魔術はほとんど使えないんですけどね」


 目を閉じたまま、しょんぼりした表情のソラちゃん。


「レミさんはどうなんですか? 自分で充填ってできないんですか?」

「私? 無理無理! 私は術式の構成や聖異物の扱いは得意だけど、魔力がほとんどないから。眼鏡に魔力の充填なんてしようとしたら数十日はかかるよ」


 ケラケラと笑いながらそう返すレミさん。この姉妹は性格が正反対だな。


「お姉ちゃん。充填終わったよ」

「さっすがソラ! あっという間だね」


 ソラちゃんからケースを受け取ると、眼鏡を取り出して「シャキーン!」と芝居がかった手つきで装着する。


「それじゃあ、魔術書の使い方を見てみますか!」


 レミさんは雑誌を両手で持ち、じっと見つめる。

 どういう理屈で見えるのか、どんな感じに見えるのか。

 聞きたいことがあるけれど、真剣な表情なので、なんとなく声をかけられない。

 数分経過しただろうか。ふうと短く息を吐くと雑誌をテーブルに戻したレミさんがこちらを向いた。


「この魔術書の使い方は――」


 レミさんがそこまで言ったとき、外のドアを強く叩く音が聞こえてきた。

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