第3話:俺の身体の変更点は3つ

「俺、若返ってる!」


 鏡を見ながら顔に手を当ててみる。

 最近失われてしまった水分を含んだつるつるの肌の感触があった。

 なんとなく体も軽い気がする。最近悩んでいた肩こりも感じない。


「いちいち面倒だな、君は。召喚のくだりが長いと飽きちゃうよ」

「そんな投げやりな態度をされても……」

「お姉ちゃん、さすがに失礼ですよ。これはですね……」


 またしてもソラちゃんが詳しく説明してくれた。

 その説明によると、この世界の理に合わせて体を変換するとき、契約書に書かれた条項に合わせた容姿や言語、能力にカスタマイズできるらしい。

 ただ、元の体から大きな変更を加えるとそれなりの副作用があるそうだ。

 俺に加えられた変更点は大きくまとめると3つ。

 

 1つ、この世界で平均よりやや上の身体能力をもつ、18歳の肉体

 2つ、言語や味覚、呼吸する大気成分など、生存に必要なものは召喚師と同一とする

 3つ、所持していた物のひとつを聖異物とし、その使い手とする

 

 1と2のおかげで俺はこの世界で生きているし、彼女たちと会話ができているらしい。

 知識も同じにしてもらえたら、こんな面倒なくだりは必要なかったのに。

 そして、気になるのは3つ目だ。


「『せいいぶつ』ってなんですか?」

「それはですね。あなたが……あの今さらですが、お名前を伺ってもいいですか? 契約書に書いていただいた文字は私もお姉ちゃんも読めなくて」

「保地、保地健一って言います」

「ほ…ち…」


 俺の名前を言いかけて、顔を真っ赤にするソラちゃん。

 なに? なんかまずいこと言った?


「君はなんていやらしい男なんだ! この世界ではその言葉は下ネタだぞ!」

「えーー!」

「しょうがない! この世界での君の名前はポチ。君の世界ではどうか知らないが、この世界では伝統的な焼き菓子に付けられるスイートな名前だぞ。元の名前にも似てるから違和感もないだろう!」


 下ネタはダメだけど、人に焼き菓子で使われる名前を付けるのもどうかしてる。

 ここは断固拒否して、大好きな漫画の主人公の名前にしてもらいたい。


「では、ポチさん。聖異物についてですけど」


 すんなり姉の提案を受け入れたソラちゃんが説明の続きを始めた。

 俺は抗議の言葉を出せなくなり、空しく口をパクパクさせるだけだった。


「聖異物。異世界から持ち込まれた物を私たちの世界ではそう呼んでいます。所持者がその物に愛着や怨念、願望などといった強い思いを持っていると、特殊な効力を発揮することがあるんです」

「ポチ君の場合はコレみたいだね」


 レミさんがテーブルの上に置いたのは、俺が毎週会社帰りの電車で読んでいる週刊少年JMピー!だった。

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