第2話:美人だけど適当な召喚師

「いつまで寝てるんだい。起きなよ!」


 女性の怒鳴り声が聞こえる。

 はっと目を覚ますと、俺はテーブルにつっぷしていた。


「ここは? 君は? 俺はどうなった?」

「質問が多いなあ。まあ、いきなり連れてこられたら無理もないか」


 美女がテーブルに肘をついて手に顎を乗せ、ニヤリと笑いながら俺を見ている。


「ここは君の世界で言うところの異世界って場所。私はレミ。この世界の住人。隣にいるのは妹のソラ。で、君は私たちが召喚した異界人ってところだね」

「召喚? ……言葉が片言じゃなくなってる?」


 俺はとっさに腰を浮かせて少し椅子を引いた。

 無意味かもしれないが、少しでも距離をとった方が良いような気がしたのだ。


「また質問かー。面倒だなあ」

「お姉ちゃん。私たちの都合で召喚したんだから、ちゃんと説明しないと失礼ですよ」

「まあそうだけどさ」

「適当な姉ですみません。召喚っていうのは……」


 ソラちゃんという少女の説明によると、俺はこの姉妹に召喚されたそうだ。

 詳しい方法は聞いても理解できなかったけど、俺が電車に乗っていたときにこちらの世界に強制的に連れてこられたらしい。

 先ほどまであった体の痛みは、俺がこの世界では異物であるからだそうだ。

 違う世界の物質で構成されたものはこの世界の理から外れているので、うまく機能できないらしい。なので、放置していると、そのうち体が崩れて塵になるそうだ。

 あのままサインを拒否していたら、さらなる苦痛を感じながら肉体が徐々に崩れていく様を見続けることになっていた。

 想像するだけでも恐ろしい。


「そうならないための処置が契約なのさ!」


 ソラちゃんの説明の途中でレミさんが声をあげた。

 どうやら面倒な説明が終わったから、自分が会話の主導権を取ろうとしているようだ。会社の上司にもそんな奴がいるのでなんとなくそう察した。


「契約書にサインしたら、どうして体が楽になったんですか?」

「この世界の召喚術はアフターケアがしっかりしてるんだよ。契約を結ぶと召喚されたモノの構造をこの世界の理に合わせて変換させることができるんだ」

「はあ」

「なんかよくわかってない感じだね。端的に言うと君の血肉はこの世界を構成する物質になった。だから、異物としての拒否反応はなくなった。以上!」

「まあ、なんとなくわかりましたけど、それでなんであなたたちの言葉がわかるようになったんですか? 物質と知識は別だと思うんですが」

「小賢しいな君は。言語うんぬん言う前に、自分の姿を見てごらんよ」


 レミさんはそう言って、俺に手鏡を差し出した。

 意図が理解できないまま、鏡を見るとそこに映っていたのは高校生時代の俺だった。

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