第33話 可愛いうさぎに殺意を覚える動画

 俺にとって宝箱は苦楽を共にした要石さんともう一人相棒というポジションに居た。

 新しい機能というか【+1】にのみ見せる素顔。

 それが宝箱の拡張機能。


 そして俺に見えたのは取手。

 そこを掴むだけで能力値がアクセル武器以上の信頼性が感じられた。



 <宝箱>

 飯狗頼忠専用武装。

 攻撃力は宝箱のグレードによって依存。

 運任せな者にのみその真の姿を見せる。

 グレードによって装備に求められる幸運値が高い。


 <グレード  /  基礎攻撃力   /  必須幸運値>

 ウッドボックス  <物攻:50〜>   【100】

 アイアンボックス <物攻:150〜>  【200】

 シルバーボックス <物攻:300〜>  【500】

 ゴールドボックス <物攻:1万〜>   【1000】

 レインボーボックス<物攻:10万〜>  【10000】

 プラチナボックス <物攻:50万〜>  【30000】

 ミスリルボックス <物攻:100万〜> 【50000】

 オリハルボックス <物攻:1000万〜>【70000】


 ずらずらとそんなのが出てきて、驚いた。

 いや、幸運依存なのは知ってたけど。ここまで幸運を求められるの? しかもやたらと物騒な宝箱まで続々と。


 これ、人が手をつけちゃダメなやつでしょ。

 なんだよ攻撃力1000万って。

 そもそもそんな耐久力持つモンスターがこの世に居るの?

 出てきちゃやばいやつでしょ。

 ずっと見つかんないままで居てくれ!



「どうしたのダーリン?」


「いや、こいつが俺の専用武器なんだって語りかけてきて。めちゃくちゃビビってた。ちなみにレインボーボックスを扱うのに必要な幸運は1万だってさ」



:草

:先駆者さんなら足りてるやん

:攻撃力は?



「10万★」



:ぶっ壊れ過ぎだろ

:それで不壊属性あるとかやばい

:なお、叩くよりも箱のトラップが本体の模様

:近距離なのに広範囲に効果があるのヤバすぎンゴ

:でも実際、持ってかれる幸運もずば抜けてる

:【+1】でもLV100行かなきゃ無理だもんな

:その為のうさぎ

:ステータス2割アップだっけ?

:うさぎの性能がな

:武神や天使はスキルの拡張とかだよ

:ステアップ系、スキル加速系、スキル拡張系があるっぽい

:ステータスアップ系は有能だって先駆者さんが物語ってる



「そりゃ今の時代は霊獣が居てなんぼでしょ。こいつが今後の常識になると思うぜ?」



:誰かが安く売ってくれない限り無理でしょ

:オークションでついた値段だから誰も安売りしないぞ?

:金の鍵ですら未だにオークション販売です

:先駆者さんの配信でボロボロ出てるのに



「実はSになる前のAの段階で政府に目をつけられちゃってさ。Aになりたきゃ金の鍵寄越せって言われてお布施してんの」



:悪徳政治家で草

:そりゃ顎で使いたがってましたもん

:誰もが無罪放免のSになんて上げたくないわけで

:目論見が俺らの数倍厄介で草



「ダーリンはそれでいいの?」


「最終的に俺のためになる方に投げてる。視聴者に投げたら奪い合いが起きるじゃん? 俺は満足するけど次も次もっていうじゃん?」



:そりゃ

:貰えない人は次も求めるもんな



「でも国は世界と張り合う為の切り札として提供して欲しいと来た。俺が今まで生きてこれたのはなんだかんだ国が匿ってくれたからだよ。だから国が維持できるんなら金の鍵くらいどうぞどうぞって上げてる」



:でも顎で使われるのは?



「誰が好き好んで顎で使われたいって思うんだよ。自由時間ないとか拷問じゃね? なら金の鍵を提供した方がマシよ」


「それを言えるのはダーリンくらいなのよ」



 そんな事ないだろ。



「え、みんなドロップ品に【+1】とか発動しねーの?」


「エダはまだ一回もないよ。どっちかと言えば攻撃の方に過剰に乗る感じかな?」


「あれー?」



:やはり先駆者は特殊個体

:これ、【+1】を育てたからこそわかる事実じゃね?

:政府の目論見破綻してて草

:今明かされる、先駆者の秘密

:いや、一人くらいは生まれるはずだ!

:諦めの悪い人がいますね



「まぁいいや。ドロップ無双は俺の特権ってこったな?」



:事実世界一位やで

:世界からのオファーが凄まじいと聞きます

:日本の誇るSランク様やぞ

:それなー

:本人がフランク過ぎてSランクのオーラないのが

:それが持ち味だよな



「それよりダーリン、ボスはエダにやらせて」


「オッケー、じゃあ二週目は俺な?」


「連戦してくれるの?」


「飽きるまでいくぞ!」


「凄い! ダーリン最高!」



:ロリエッタちゃんのこの笑顔よ

:脳筋なんだよなぁ

:守りたい、この笑顔

:普通【+1】二人でボス行くって発想がない

:方や戦闘狂で方やラッキーオタクだからな

:言 い 方www

:ラッキーの使者はマジなんよ



 一戦目は、エダの手数の多さと中距離での宝箱のの扱い方が上手くハマって被弾する事なく撃破に至る。

 道中までの茶化すようなコメントも、息を呑むように見守って。

 討伐と同時に爆発的に増えた。


 本来攻略型のダンジョンチューバーの華なんだろうなと。

 


:うぉおおおおおおおお!!

:ロリエッタちゃんつおい!

:今の動き見たか!?

:くっそカッケェええ!

:被弾したら死ぬオワタ式であの動きは真似できない!

:絶対忍者の生まれでしょ、ロリエッタちゃん

:カッケェええええ!

:ラック氏の配信目的で来たけど、一目惚れしたわロリエッタちゃん

:ラック氏のファンやめてロリエッタちゃんに行くわwww

:乞食すら圧倒する戦闘センスwww

:こんな子でも【+1】手に入れちゃうと雑魚扱いする風潮が解せない



 何故か俺の方に飛び火した件。

 解せぬ。



「次はダーリンの番よ?」


「タイムアタックで俺を上回れる【+1】は居ねぇ!」



:Sランク、Eランク相手に本気出すとかwww

:正直勝負にならないんよ

:でもロリエッタちゃんは楽しそう

:そりゃ【+1】の可能性だし

:特殊個体なんだよなぁ

:やっぱり動きに躊躇がないよ先駆者さん

:宝箱で殴るだけでモンスターがバンバン死ぬ件

:宝箱以外の攻撃で死なないから宝箱で殴るんだぞ?

:本当に意味がわからない

:背中に目でもついてんのかって位避ける避ける

:こいつどうやったら倒せるんだろうな?

:うさぎぃいいいいいい!

:お前ええええええええれる!

:合間に行われる飯テロやめろ

:主人が戦闘にかまけてる横で風景と化してるうさぎが餌箱に置かれたゴールドボックスを食べる食べる!!

:あああああああああ、俺のゴールドボックス!!

:お前のじゃないだろ

:おい、餌箱に金の鍵が紛れてんぞ!?

:あああああああああああああああ!!

:うわあああああああああああああ!

:更に紛れる虹の鍵

:やめろ、うさぎ! それは食うな!

:('ω')モッシャ、モッシャ

:殺到するウサギたち

:もう誰も先駆者さん見てないの笑う

:可愛いのに、今一番求められてるアイテムが餌なのがヘイト集めてる理由だからなぁ



「どうだった?」


「やっぱりダーリンは凄いね! 次はエダももう少し攻め込んでみるよ」


「無理せずになー?」



 二戦目は一回から再アタックで10分で終わった。

 まぁ俺に取ってはこんなもんでしょ。

 宝箱なしでも20分掛からなかったし、ただ途中でうさぎを挟んだだけでコメントがすごい加速したのだけは覚えてる。

 俺への評価が低いんじゃないかって?

 いいよ別に。初めからみんな俺の実力知ってるし、エダが見たがってたから見せたようなもんだし。

 

 それに日本での活動は今日で終わりにするつもりだからな。


 要石さんの留学先が本格決定したんだ。

 正直学校に行ってる場合じゃないし、俺も学校に行ってるのは彼女が居るからだ。


 じゃあ彼女がいなくなったら?

 学校に行く理由の99%はなくなる。

 残りの1%は親に申し訳ないから世間体のために行ってるだけだ。


 高校中退ってだけじゃ社会じゃ通用しないが、今の探索者優遇時代で高校在学中にSランク取った俺。

 もう稼げるだけ稼いだから、あとは社会勉強くらいしか残ってないんだよ。


 だから彼女が外国行くって言ったら、俺も俺もってなるよな?

 え? まず言葉の壁があるって?

 大丈夫だ。エイミーさんにいつでもオファー出せる環境にいるからな。資金は潤沢にある。

 彼女のことだから指定アイテムがアイリーン氏並みにバグる可能性もあるが、ウサギの餌にするくらいだから許容範囲なうである。


 と、言ってる側からエダがボス部屋前に到着したな。

 雑談なしでやったら驚く速度でモブを瞬殺していく。

 きっと武器に頼らない純粋な暴力なら俺以上かもね彼女。


 まずステータスが俺と全く違う伸びをしてそうだ。

 特に敏捷低いからな、俺。

 

 そしてボスまで圧倒的速度で血祭りに上げる。

 ナイスナイス〜と手を叩きながら喜ぶ俺たちをもう誰も見てないのは流石に失礼じゃないの?


 コメント欄はいまだにうちのうさぎたちに対する罵詈雑言で溢れていた。末期だよなぁ。

 居て当たり前、配ってもらって当たり前って考え。

 だから俺は行方をくらますことで彼らに日常にお帰りいただこうと思ってる。


 高い壁として君臨するのも悪くないけど、面で活動するのは今日でおしまいだ。

 今日のコラボ企画に乗ったのも、最後にその終了告知をする為である。

 わざわざ転入までしてきて俺にコラボを持ちかけてくれたエダには悪いが、俺には俺の人生があるのよね。


 その日は実に十数回のアタックをして、最後に兎野ラックの伝統芸能を披露して告知を出した。

 未だに正気に戻れてないリスナー達と、顔面蒼白になってるエダの比較が面白い。



「うそ、ダーリンとはこれからだって」


「昨日今日あったばかりで全面的に信頼を置いてるわけじゃないよ、流石に。でも俺のファンでいてくれてることは素直に嬉しいかな? そんなエダに向けて俺からのプレゼントだ」


「これは……虹の鍵?」


「ああ、いつかBランクのダンジョンに至り箱を入手するまではそれを俺だと思って過ごせばいい。ただ、値段に目が眩んで売るのは推奨しない。これがエダの手元にあることを知ったリスナーはそれこそエダの命を狙いにくるだろう」


「全部返り討ちにするよ!」


「その意気だ。エダの持ち味は俺と違ってその敏捷性と、格上を相手にしたことないのに恐怖を乗り越えられる豪胆さにあると思ってる。だからさ、俺の次に日本でAランクに輝く【+1】が居るとすれば、きっとエダだと思うんだよね。だからそれは俺が実力を認めたエダに送るプレゼントだ」


「ありがとう、ダーリン。最高のプレゼントだよ」


「ちょ、泣かないでくれます?」



 俺としての別れの言葉に感涙を堪えきれず、その場で泣き出してしまうエダ。未だにピョン吉達がヘイトタンクとして活躍してる中で、俺が女の子を泣かしたというコメントがちらほら混ざり込む。

 風評被害なんだよなぁ。

 一連の流れ見てんのにこの絵面の破壊力ときたら……


 まぁ、今日くらいは新しいペット枠として子犬のエダを愛でてやろうか。

 俺はぐしぐしと涙を拭うエダの頭を撫でながら、居心地悪そうに八つ裂きにされたボスの体が緑色の粒子をあげて天に昇っていく姿を眺めることに徹した。


 その動画はアーカイブ化され、同接数とコメント欄が炎上と見間違うほど荒ぶった伝説の回として人々の記憶に刻まれた。


 そして……



「頼っち、本当についてくるの?」


「おう。実は海外にも興味あるんだよね」


「お偉いさんが黙って頼っちを手放すと思えなかったんだけど?」


「その為にSランクになったんだぜ? それに一年分の年貢も納めてきたし」


「年貢って金の鍵?」


「と、虹の鍵だ。レインボーボックスについては交渉するなりして手に入れろとは言ってある」


「結局それも頼っちの幸運が呼び寄せた奇跡だったりしたんでしょ?」


「まぁ日本のことは頼れる後輩達に任せて、俺たちは俺たちの道を進もうぜ? 要石さんは聖女になるんだろ?」


「いい加減に苗字で呼ぶのはやめてカガリって呼んでくれても良いんだよ?」


「それはちょっと恥ずかしい」


「バカ……これからは二人きりになるんだから、誰にも気を遣わなくていいんだよ?」



 全くもってその通り。

 高校生だった時、彼女は聖女として頑張ってる横で俺はずっとその道に進む彼女を応援してるだけでいいのかと本気で葛藤していた。

 でもSランクになってまでついて行こうと思ったのは、より距離を縮めようと思ったからだ。



「それは追々詰めていくとして……飛行機が来たみたいだぜ?」


「本当だ。日本とは当分離れ離れだけど大丈夫?」


「それを、か、カガリが埋めてくれんだろ?」


「もうちょっとスマートに言って欲しかったな」


「酷い! 精一杯スマートに尽くしたのに!」


「あはは、まぁこれから頑張ろうよ」



 ポンポンと背中を叩かれて、俺たちは客席へと乗り込む。

 一応VIPルームだ。

 敵が来てもすぐに対処できるように、目は見張ってるが。

 聖女の地位が日本でも高いのもあって準聖女である彼女に政府が資金を用意してくれたという背景があった。


 俺の時と対応違くない!?

 その点についてはクドクドと愚痴を言ったもんだが、すぐに二人だけの空気になって忘れられた。

 早い段階から尻に敷かれてる俺だが、向こうに着いてから挽回すっから見てろよ見てろよ?

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