第32話 うさぎとロリを眺める動画

「見えてる? ロリエッタだよ」



:きちゃーーー

:ロリエッタちゃんコラボ企画って聞いたけど誰と?

:他の+1じゃ足手纏いにしかならないでしょ

:もしかして一般のダンジョンチューバー?



「実は今日、憧れの人とご一緒させていただいてるの。だからみんなが荒れるかどうかだけが心配」



:男? 男なのかロリエッタちゃん!

:嘘だといってよ

:うぉおおおおん

:全員厄介オタクで草

:誰もロリエッタちゃんの心配してないんだよなぁ



「あーあー、もう出ていっていいかな?」



:開幕うさぎが出てきて草

:コラボ相手先駆者さんかよぉ

:ファンだったもんね

:これは仕方ないか?



「我が名は兎野ラック! 新進気鋭のVtuberさ」



 決めポーズをしながら、らしくない口調で語る。

 周囲で自由にウサギたちが跳ねている。

 配信用の3Dアバターが俺の動きに合わせて動いた。



:ラック氏!

:漢解錠のラック氏だ!

:霊獣がもう先駆者さんなんよ

:お前がロリエッタちゃんの男か!



「ダーリンはエダが呼んだの。だからあんまり騒ぐなら配信やめるからね?」



:ユニコーンはこれだから困る

:そもそもロリコンはノータッチなんやで

:ラック氏は良いのかよ?



「つっても同級生だしな。ロリコンって言われるのはちょっと」


「ダーリンは運命の相手。それよりも今日はいよいよEランクをクリアするよ!」



:え? 同級生? え?

:ロリエッタちゃんは大人だぞ!

:合法ロリここにあり!

:つーかラック氏ダンジョン怖いって話は?

:配布は!? 配布はあるんですよね!

:ロリエッタちゃんは配布しない勢だぞ

:乞食は帰れや!



 コメントがそこそこに盛り上がってるので、エダ手動の視点での探索開始。

 俺? 俺はただの賑やかしだ。

 俺の後をピョン吉達がついてくるので俺が何かするよりかはうさぎの可愛さでアピールしていく方針だ。

 合間に餌をあげてお茶を濁していく。



「アタック!」


「おー、思い切りがいいなぁ」


「ここで、追撃!」



 なんていうか、華がある。

 見た目の可愛さも相まって、動き回るので必死さが窺えるのだ。

 俺が動いてもこうはならない。

 必死アピール乙! とか 雑魚確定! とかそういうコメントが並ぶに違いない。

 そうすると本当に容姿がいいのって得だよな。

 これ以上はやめよう、言ってて悲しくなるから。



「ダーリン、見ててくれてた? エダやったよ!」


「よーしよしよしよしよし!」



:褒め方が雑!

:霊獣じゃないんやぞ!

:さてはこいつ、女慣れしてないな?

:ラック氏、配布! 配布!

:でもロリエッタちゃんめちゃ嬉しそうなんよな

:それ、いつもムスッとしてるのに今日は過去最高の笑顔だぞ

:先駆者さん好きだもんなぁ

:は? ラック氏は先駆者じゃねーだろ

:どう見たって先駆者なんよなぁ

:ヒントはうさぎ



「エダ、もう少し先に行ってみるか?」


「今日は絶好調! すぐに活躍するから見てて!」


「ほどほどになー」



:あれ? これ誰のチャンネルだっけ?

:今までここまで偉そうなコラボ相手がいただろうか?

:否、断じて否!

:コラボ自体が初めてだからね

:我が物顔のラック氏である



「いや、俺ももっと相手をヨイショしようという気持ちはあるんよ。けど向こうの要望が、ややそっけない態度でウサギ達にするように相手して欲しいって」



:ロリエッタちゃんの要望だった!

:草

:ご本人の要望かー

:流れでゴールドボックス餌にすなwww

:ぐわーー、俺たちのゴールドボックスがーーー

:そもそも金箱はユニーク確定やろがい!

:もうすでに出し尽くしてるとしてプラチナ狙いだろ

:先駆者さんならあり得るからな

:尽きない欲望に付き合わされるの本当大変そう



「かわいいでしょ? 破壊不可のボックスでも問題なく餌になるの。処理に困った時はこの子達に任せる事で荷物も減るって寸法さ」



:配布ねーなら低評価押しとくわ

:この配信は炎上必至ですね!

:負け惜しみ乙

:必至なのは乞食のクレクレアピールなんだよなぁ

:あとはロリエッタちゃんのユニコーン共

:彼氏ヅラしてるやつなんなの?

:ロリエッタちゃんは清楚なんだよ!

:彼女はそこらの+1と動きが違うから見てて楽しい勢は少ないんだよな

:こっちからしたらロリエッタちゃんの素顔を見せてくれてラック氏ナイスと思ってるが

:どうやら俺みたいに応援してる勢は少数派だったみたいだ



 同接数が減りまくるが、エダは全く気にしてない。

 配布を完全に切った(ピョン吉達の餌にした)事で乞食も一掃、ユニコーン達もネガティブキャンペーンに忙しいし、エダもエダで自分優先でズンズン進む。


 彼女はなんというか、ダンジョンチューバーとしての活動がメインではない気がするんだよな。

 コメントにもあるようにどこかの国の送り込んだサクラ説を俺は押してる。


 というか、複数匹相手でも物怖じしない胆力。

 俺の時は要石さんありきの囮アタックだったから全く違う。

 LVが15というのも嘘じゃなさそうだ。

 というか、使ってる武器がもう素人じゃないんだよね。

 なんだよ鎖鎌って。

 やっぱり暗部とかそういう出身なの?

 可愛さでアピールしてるけどモンスターへの躊躇のなさがえげつないんだよね。



「ダーリン見てた?」



 まるで褒めて欲しそうな子犬である。

 ペットの飼い主さんは普段こんな気持ちなのか。

 いや、彼女は同じ人間なんだけど。ついついナデナデしたくなる魔性の魅力がある。



「他対一で物怖じしないのは流石だよな」


「褒めてくれてもいいよ」


「よーしよしよしよしよしよしよしよしよし」


「エヘヘヘヘー」



:満面の笑みである

:俺らに向けてしたことのない顔しとる

:守りたい、この笑顔

:憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎!

:殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!

:ラック氏そこ変われ!

:ピョン吉ーそこ変われ!



 喜怒哀楽の激しいコメント欄を流し見しながら、俺たちは進む。



「と、ここからは敵が多いな。俺も戦おう」


「む、エダ一人でも大丈夫なのに」


「流石にコラボしといて観戦だけってのは寂しーし」


「じゃ、共同作戦?」


「そんな感じー」



:お、動くかラック氏!

:どう見ても先駆者さんなんだよなぁ

:アイアンボックスを構えて〜?

:殴ったぁ!

:その上で全て回避しまくってるのがもう先駆者なんだよ

:何やってんのかわっかんねぇ!

:いや、よく見ろ意味のない動きに見えてこれ……

:ロリエッタちゃんに向かってちょうど一直線にモンスターが並んで!?



「最高!」



 エダが駆ける。

 ずっと動きを見てきて、他対一に慣れてるとはいったが、複数にばらけてるより一直線に並んでる方が攻撃しやすいんじゃないかなって思ったら、ビンゴ。

 彼女は小さな体をさらに小さく丸くかがめ、独楽のように回転して一直線にシャドウゴブリンを血祭りにあげた。


 そこへ【+1】【+2】【+3】が乗る。

 カスダメと出血ダメージ、さらに毒が塗られてたのだろう猛毒ダメージで同時にキルしている。

 彼女のスタイルを否定するつもりはないが、俺としては宝箱で殴ったほうが早いんだよな。

 


「ダーリン、勝ったよ!」


「いやぁお見事お見事」


「ダーリンのお膳立てのお陰。ボックスアタックも真似してみたけど上手くいかなかったの。どうしてもダーリン程の威力が出ないんだー」



 え、そんなのあるの?



:実際宝箱で殴ってんの先駆者さんぐらいだろ

:言われた本人が一番驚いてるの草

:なんでみんな宝箱で殴らないんだって顔してるな



「なんでみんな宝箱で殴らないんだってマジで思ってる。え、エダも宝箱で殴ってたって聞いてたぞ。ダメージ出なかった?」


「全然。アイアンだから?」


「あー、多分それもあるけどエダは通常攻撃で期待値どれくらい持ってる」


「30〜50」


「高くね?」


「そうなの? でも普通の探索者は同レベル帯で500以上は行くでしょ?」



:行くな

:でも先駆者さんの話は【+1】での事だから



「ちなみに俺は普通に殴っていまだに1だぞ?」



:それはおかしい

:攻撃力霊獣でアップしてるんじゃないのかよ?

:あ、もしかして宝箱を装備して初めて攻撃ができた?

:そんなのあるのかよ

:他のスキル持ちにたまに起きるけど、得意装備が固定化しちゃうとそれ以外でのダメージが減るらしいんだよ。1は聞いた事ないけど

:草

:ラック氏宝箱以外の装備て適正無くなっちゃってるやん



「一応ラックアクセルボウは装備できるぞ。すぐに矢が枯渇するけど」



:宝箱以外での運が消えてる可能性あるね

:普通は一発でスキル乗って敵が蒸発するんだが

:無駄打ちさせられてる気が微レ存



「そんな訳……でももしそうだとしたら俺だけ宝箱で殴らざるをえない状況になってる?」


「なるほどー。エダは鎖鎌に信頼を置いてるから宝箱からの信頼が低い?」



:宝箱からの信頼とは?

:自分で言っててよくわかってない顔してるぞ

:誰でもわかる訳ないやろ

:宝箱はズッ友!

:その宝箱が今、ウサギ達の餌に!

:ぐあぁあああああ!



「何はともあれ、宝箱さえあれば俺は輝ける訳だな。ボス戦では期待しててくれよ?」


「エダは鎖の先に宝箱くっつけてみる」


「そんなことが可能なのか?」


「宝箱の後ろ。この蝶番のところに窪みがあるの。そこに丁度武器がくっつく仕掛け。ダーリン知ってた?」



 そんなの初めて知ったが?

 俺はマジックバッグからレインボーボックスを取り出してまじまじと見た。

 本当やん、ついてるやん。なんで見過ごしてたんだ?



「次からやってみるね? もしかしたらエダにも中距離で宝箱を扱えるかもしれない」


「可能だったらだいぶ強いぞ? 俺は至近距離型なのかな?」


「多分そう!」


「じゃあボスでそれを試してみようぜ。ってどうしたピョン吉? お腹すいた? よーしよしよしよしよし。美味いか」



 俺は手元にあった宝箱をピョン吉達に食わせた。

 同時にコメント欄が阿鼻叫喚の悲鳴で流れた。

 うちのうさぎ達が何食べようが関係ないだろうに、どうして視聴者はこうも心が狭いのだろうね?


 予備ならあと10個はあるのに。意味がわからん。

 配布? よそ様のチャンネルでしたらそれこそ迷惑だろうが。

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