第21話 Bランクダンジョン実況生中継③

 熱血系になった慎の行動力は見事なものだった。

 装備を一新して攻撃面も大きく上がったこともあり、大技の魔法でワンキルし始める。



「下がれ、慎。前に出過ぎだ!」


「ッ、分かった。あとは頼む!」


「マナポーションだ、これでも飲んで少しはクールダウンしろ。要石さん、壁役頼む!」


「はいよぉ」



 ダンジョンにはいくつか暗黙のルールがある。

 それは同一個体を殺しすぎないこと。

 実行すると周囲のモンスターからのヘイトを一度に受けるだけでなく、特殊な“お仕置きモンスター”が現れるというものだ。


 この情報はコメントから拾って初めて知るのだが、慎はこのルールを知っていたようで、なんで前回潜った時に言ってくれないんだと思ったほどである。

 本人はそこまで深く潜るつもりはなかったの一点張り。


 まだ公の場で言えない秘めた想いがあるのだろう。

 俺は無理には聞かず、その時が来るまで待つことにした。


 慎の攻撃は<単体/範囲>を自由に切り替えることができて、更には燃焼と敵にのみ空気の消失による物理デバフを与えるとんでもチート。

 そりゃ天狗にもなるわな、という納得の強さだった。


 しかしBランクダンジョンともなるとワンキルできない相手も出てくる。

 一層のゾンビドッグやホロゴーストなどはちょうどキル出来た。

 霊体系にも有効なのが魔法の素晴らしいところだな。

 ただし奮発しすぎてすぐにMPが枯渇、風邪を引いたみたいに前後不覚になってしまうのだけは難点か。


 フラフラになったらマナポーションを与えて回復を図り、要石さんが囮役を買ってくれてる間に俺が宝箱でぶん殴って討伐する感じ。

 ヘイトをうまく分散してるので、敵を無駄に引き寄せずに二階層を歩けている。



:慎君頑張りすぎだよ!

:カガリちゃんにも頼って大丈夫だから!

:飯狗、お前ももっと労わってやれよ!



 同級生がコメントを打ってくれてるのだろう。

 世間では殺人鬼扱いされてる慎を、本名で呼ぶことで応援している。

 慎は未だに自分のことを信じてくれているクラスメイトに、片手を振って応えて見せる。

 その応え方はまるで死に急いでいるように見えた。

 もう逃げない、その意思が行動に表れている。

 

 そして今、こっそり俺の悪口言ったやつ。後で蓬莱さんにお仕置きしてもらうからな?

 俺以上のサポーターがいるなら呼んでこいや!

 装備にアイテムまで至れり尽くせりやろがい!



:殺人鬼、二階層から動きが見違えたな

:あんまり殺人鬼殺人鬼言うのやめろよ、本人は死なせた相手を蘇生させるのに必死なんだよ、DなのにBに連れて来られて、金の鍵を二本手に入れなきゃならないんだぞ?

:過去に見殺しにした事例を挙げたら探索者の殆どが殺人鬼だぜ?

:そんなコメントしてるやつは面白がってるだけ

:すぐに淘汰されるよ

:淘汰されるのは天上天下預かりの【+1】と会長関連だけだろ

:それは草

:正直俺らも情報だけでしか相手を見てなかったもんな

:こんなに必死に動かれたら応援したくもなるよ

:正直ここまで手厚いサポートもらえたら俺でも潜れるわ

:よーし、じゃあ今から行こうぜ

:草

:誰かー、ここに殺人鬼予備軍がいます! 助けてーー

:結局ここに書き込む奴らって口だけなんだよなぁ。今努力してるやつを笑う資格すらないだろ

:漆戸慎、俺は現場にいなかったから詳しい事情は知らんが、今のお前の姿を見て殺人鬼だなんて心の底から思ってる奴は居ないと思ってる!

:だからあまり命を粗末にするな、仲間を頼るんだ!



 長文コメントが慎の目に触れ、よりガムシャラに身体を張ろうとする。

 俺は慎を止めようと思った。

 けど止める必要はなかった。


 慎は多彩な魔法を使って敵を誘導し、要石さんと俺に攻撃のチャンスをくれたのだ。

 多くを殺さないように敵を分断してみせて。


 それだけで今までの力技一辺倒の慎とは違うと分かった。

 慎なりに努力してたんだ。自分のできる範囲で、よりパーティに貢献できるように。


 今までの驕った性格から放たれていた火力のみの魔法とは違う、全身の力を抜いた脱力の魔法。

 攻撃だけじゃない、サポートも任せられる頼もしい男に成長していた。



「すまん、頼忠。自分のスキルなのに支配するのにここまでかけた。マナポーションも大量にもらって申し訳ない。もう大丈夫だ、お前達にこれ以上迷惑はかけない。俺は新しいスタイルを手に入れた」


「おせーよ、慎。待ちくたびれたぜ?」


「慎君、さっきの魔法凄かった! 群れで来たのに上手く分断できててすごく対処しやすかったよ!」


「色々と自分のスキルの特性を考えてた。今までは一撃必殺ばかりに傾倒してて、サポートスキルを使おうとして来なかったんだ。でも今はパーティだ。パーティにはパーティの戦い方がある。それを今更思い知ったよ」


「青春だねぇ」



 俺たちの横でしみじみしながら蓬莱さんがこぼす。


 この人は一体なにをしに来たんだろう?

 騒いで敵を呼び寄せる以外のことを本当にしてない。


 一応俺たちが危なくなった時の補佐役らしいが、今までの言動でそれを信じろって方がどうかしてる。

 実力は疑っちゃいないんだけどさ、自分で自分の首を絞めてると言うか?


 神条さんも「青春してる」のセリフにこくこく頷いて同調している。

 そんなに青春を懐かしむほど歳食ってないでしょ、あんたら。

 そのセリフは口からこぼれることはなかった。

 こぼれたら寿命が尽きると直感が伝えていたから。



:ノーコメントで

:会長さん、まだ若いじゃないですか

:若くても釣り合う相手はおらんやろ。仮にも英雄やぞ?

:【勇者】じゃなくても別に良くない?

:もし俺が相手だったら劣等感で憤死する自信がある!



「あんまり人様の恋路に首突っ込む子は、お仕置きしちゃうわよー?」



:すいません!

:もう言いません

:許してください!

:好きです、付き合ってください!

:なに、この空気でプロポーズしただと!?

:命がいらないのか!



「一応聞いておくけど、年収は? どんなお仕事をされている方? あ、勘違いしないで聞いて欲しいんだけど。私の婚約候補って働きもしない親の脛齧ってるニートが地位と金欲しさに応募することが多くて、流石にこっちにも選ぶ権利あるからさ、頼忠君ぐらい面白い子だったら定職についてなくても全然許せちゃうんだけど、他力本願すぎる人はお断りかなーって」



:おや? この人、意外と闇が深いぞ?

:さーせん、遊ぶ金欲しさにプロポーズしました

:これはギルティ

:震えて待て!

:カッとなってやった。今では反省している

:ちくわ大明神

:なんだ今の?

:なんだ今の?

:なんだ今の?



 コメント欄はカオスで溢れかえっていた。

 もう慎を罵倒する声はない……とは言い切れないが、少しづつ数を減らしている。


 蓬莱さんはたまに大人気おとなげないレスバをするけど、それが場の空気を和ませてるんだと今更ながらに思い知る。

 居ても意味がないんじゃない。

 この人が居るからこそ慎が活躍の機会を得られているのだ。


 一見して理解のできない動きも、理解したら絶妙なタイミングで介入してきているのがわかる。

 どれも場が沈みそうな時、蓬莱さんは入ってくる。

 明るい口調で、希望を持たせるように。

 場をうやむやにしてリセットするんだ。


 なら俺たちは若い力で前へ前へ行くしかなかった。



 ◇



 二階層の悪魔系モンスター『ミニデーモン』の群れを倒すと、再び死霊系の『リッチ』が『スケルトンナイト』を連れて現れる。


 ミニデーモンは魔法が得意で空を飛び、かつ小さい体に見合わず物理攻撃も強い初心者殺しの壁と称されてるやつだ。


 Bランクにきてまで初心者殺しというのもおかしな話だが、まだ人間を辞め始めたばかりの探索者がここを超えられるかどうかでBランク中位、上位へと歩みを進めることができる。


 そう言った意味でもこいつを超えられるかどうかが一般探索者を卒業をできるかどうかの壁だった。


 弱点属性が炎だったせいで慎の魔法で完全に封殺され、死に際に放った魔法も虹の盾で吸収、俺たちに取ってはカモにしか映らなかった。

 そもそもゴールドボックスで殴ると死ぬしな。

 強すぎんだよ、ゴールドボックス。


 で、まあそんな流れ作業の後に現れたリッチだが、こいつが雑魚で現れて良いのか疑うほどに厄介だった。



「気をつけて頼忠君! リッチは魔法も多彩だけど憑依もしてくるわ!」



 なんつー殺意の高さを再現したモンスターだよ!

 普通ダンジョンボスとかじゃねーの、そういう奴は。

 なんで雑魚で、ワラワラくんだよ、理不尽か!

 俺は魔法の全てを虹の盾で塞いだ後、突っ込んできたリッチに向けてゴールドボックスでガードした。


 もしやゴールドボックスを乗っ取られるのでは?

 なんて思ってたらボックスがガタガタ言い出した。

 どれだけ暴れても出れなかったのか、最終的に静かになる。

 アレ? もしかしてこれ、封殺した?


 討伐したって合図もなければ、ドロップの告知もない。

 つまり数は減ってないってことだ。



「【朗報】リッチの憑依はゴールドボックスガードで封殺できる!」



:草

:そんな攻略法が!



「本当だ! 一家に一つ、ゴールドボックスだね!」



:【洗浄】ちゃんが真っ先に挑戦してて微笑ましいな

:【+1】の幸運補正でもなくマジモンの裏技じゃねーか!

:もっと早く知りたかった

:ここで知れてよかったって思おうぜ

:本当この子ら対応力化け物かよ!

:最初メンツ見て無理ゲーだと思ってたのに、割と順調に進んでるからなぁ



「このテクニックは有難いな。基本的には虹の盾必須だから全員が真似できるかと言ったら微妙だが」



 ちなみに慎にも道中で回収した虹の盾を持たせている。

 なんでこれ一個で豪邸立つかわかんないくらいにダブるんよ。

 俺の感覚がおかしいらしいから、普通の人はもっと大変みたいだ。

 


:そうじゃん! 俺ら魔法ガードできないじゃん!

:【+1】、虹の盾市場に流して! 安く!

:相場が600億なんよ、アレ

:アホみたいにたけぇ!

:金の鍵より高いのなんなの!?

:金を出せば買えるだけ金の鍵よりマシなんだぞ?

:金の鍵は金を用意しても誰も手放さないからな



「俺の持ち物は基本天上天下預かりでぇす。俺にはどうこうできないので、値切り交渉するなら直接会長を通してもらう必要がありまぁす」



:そりゃ個人で扱うには高級品すぎるから仕方ないっちゃ仕方ないか

:なお、本人を襲おうにも普通にBで生き残ってる奴だからな?

:この配信でとっくに【+1】は雑魚って認識消えてんよ



「うちの家族も天上天下の守護するタワーにお引越ししてるから実家襲ってもマジで徒労よ? 蓬莱さんは俺の能力を知ってまず最初に尽力してくれたのそこだから」



:完璧に手を打たれてて草

:アレ? でも能力知ったのダンジョンアタック中じゃないっけ?



「うちの胡桃ちゃんは優秀なので、ダンジョンにいながらご自宅とうちのタワーへのパスを繋ぐことも可能なのさ」



:カメラにピースサインドアップやめろ!

:見えない、画面見えない!

:この子なんでもありだな!

:アレ? ゲートは一度に一つだけしか繋げられないんじゃ、アレ?



「ちなみに彼女は弱くないぜぇ? うちの一軍メンバーでも取り分け隠密機動型のエース張ってるから。世間で【ディメンジョンゲート】がなんて呼ばれてるかは知らないが、うちが誘っただけのスペックは有してる。もちろん頼忠君もね?」



:会長にそこまで言わせるんだから疑い様はないよ

:実際に【+1】がここまでやるって、これ見るまでわからなかったし

:もうスキル名だけで呼ぶのやめようぜ、普通に失礼だ

:名前は新聞にも取り上げられてるしな

:良い意味と悪い意味でだが



 二階層のリッチゾーンは無理なく完封。

 スケルトンナイトは防御が厚いことを除けばただの骨だった。

 悪魔族同様火に弱いので、慎が囲んで要石さんがまとめて【浄化】で屠った。

 【浄化】ってのは洗浄レベル35で覚える上位スキルで、文字通り聖属性。

 一度放てば空腹になるが、高級非常食一個で再起動できるのでコスパは良い。


 コスパが良いと思えるのもきっと、俺ならではなんだろうと思うが。本来のパーティ構成とか知らないしな、どうでも良いわ。


 今考えることは、ダブりはじめたゴールドボックスの活用法をどう考えるかだもんな。

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