第20話 Bランクダンジョン実況生中継②
二階層に降りる階段を見つけた俺たちは、小休止を挟んで食事をする事にした。
「今まで貯めたシルバーボックスを開ける時が来たぜ!」
:やべー数落としてたもんな【+1】
:私、映像見るたび何回も目を疑っちゃってたもん
:俺なんてもう【+1】って呼んでいいのか疑ってるまであるぞ?
:【+1】君が全部トドメ持ってってるもんなぁ
「まず一回目〜、来い! ラックアクセルの矢!」
ガチャガチャ、っと宝箱の鍵を回して出たのは……
俺の予想と違う『マジックアクセルワンド』だった。
あ〜微妙に違う奴!
【+3】で高級非常食が3個
【+2】で薄汚れたライフコア、薄汚れたスキルコア
【+5】でポーション5個
【+1】で若草のローブ【物防+30、魔防+30】
に落ち着いた。
「あ〜ハズレだ。慎、お前なら装備できると思うからパス。あと高級非常食とポーションも付けちゃる」
「おっと、ってなんだこの装備は!」
:なになに? なんの装備?
:一つの宝箱から出していい数じゃないことをいい加減突っ込もうぜ?
:あ! 若草のローブじゃん、いいな〜
:【+1】君、これ十分当たりだよ? ハズレじゃないよ?
:ポーションを水代わりにする奴だ、当たりの概念が俺らと違う
「助かる、頼忠。これで俺はもっと活躍できるようになった」
「そりゃ良かった。要石さんは前衛頑張ってくれたので特別に高級非常食二個あげちゃう」
「わーい、私お腹ぺこぺこー」
:かわいい
:かわいい
:かわいい
:パーティの一輪の花やな
:司会進行役も一応女性だぞ?
:あの人は可愛いよりもおっかないだから
「あ゛ぁ゛ん゛!?」
:ヒェ!
:そういう反応するから婚期逃すんですよ
「はいギルティ。どうやら明日の朝日を拝みたくないようだ。震えて待て!」
蓬莱さんがレスバに熱を入れてる。
何事にも真剣というか、子供じみてるというか。
多分後者だろうけど、口に出せば次に制裁を喰らうのは俺だ。
「それにしてもこのマジックアクセルワンドはすごいよ。知識の半分を物理、魔法ダメージの両方に付加することができるのは随分と大きい。丁度俺の知識もさっきのレベルアップで1000に届いた。これからは物理の方でも活躍の余地が出てきた。ありがとう、頼忠」
:は? なんだそのぶっ壊れ武器
:聞いたことねーぞ!?
:俺も欲しいわ!
:誰か聞いたことある?
:アクセルシリーズは過去に世界で三点目撃例がある
:ああ、どちらもゴールドのハズレとしての目撃例だ
:なんでこの子シルバーから出してるの?
:幸運4000は伊達じゃない!
:ちなみに【+1】君が狙ってるのは?
「ラックアクセルの矢っていう所持者の幸運の半分を威力に、知識の半分を状態異常付与する俺のためにあるような武器っすね。ちな、そいつを200本持ってってもゴブリンオーガは沈んでくれなかったっす。その時の幸運は2000とかだったからかなぁ?」
:おいおいおいおいおい!
:ああ、【+1】君はアレがライフ回復持ちだって知らないんだ?
:今撃てば通常攻撃で2000の遠距離か、たまげたなぁ
:宝箱アタックの近距離に遠距離が加わって最強の布陣になるのか
:アクセルシリーズに弓矢は聞いたことないぞ?
:ちなみに目撃例は剣、ワンド、盾だ
続くシルバーボックスで手に入れたものを閲覧していく
ポーション×150
高級非常食×150
誰かのライフコア×30
誰かのスキルコア×50
プラチナアーマー【物防+50、魔防+30】
プラチナレイピア【物攻+100、魔攻上昇30%】
プラチナメット【物防+50、魔攻上昇15%】
プラチナシールド【物防+150】
プラチナバングル【物防+50、魔攻上昇+15%】
プラチナレッグ【物防+80】
ラックアクセルボウ×5
ラックアクセルの矢×500
パワーアクセルソード
マジックアクセルワンド
バイタルアクセルシールド
マインドアクセルモーニングスター
マナポーション×5
虹の盾×3
これらの性能を紹介しながら分配、不用品は視聴者プレゼントとした。だって俺らが使うことねーし。使える人が使ったほうがいいっしょ?
:なんでこの子一階層で装備充実させてんの? おかしくない?
:【+1】、ぱねー
:ああああああ、欲しい欲しい欲しい!
:ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい!
:まだ見ぬアクセル装備まであるぅ、なんなのこの子?
:マナポーションて何? 私そんなの知らない!
:それ以外のも見たことねーぞ! くれ!
:幸運4000は化け物か!
:ここまでハズレ一切なしっていうのも珍しいよ
:プラチナってユニーク一歩手前武具だろ?なんでシルバーから……
:それを部位全部抜く豪運よ、恐るベし【+1】
「頼っち、ありがとう、これで無闇に回避する必要無くなったよ! 洗浄の威力も乗るし、まさに私のためにある装備だー。あと高級非常食も大変美味でした」
「そりゃ良かった。ところで要石さん」
「何かな?」
「今すぐに洗浄してもらいたいアルバイトがあるんだけど」
「うーん、報酬次第かな?」
「よし、奮発して一つ終えるごとに高級非常食1個つけちゃる」
「やるます!」
「じゃ、これお願いねー」
俺の手渡したマジックポーチにはライフコアとスキルコアが複数転がっていた。
「これは……」
「多分ここで命を落とした人達のライフコアとスキルコア。流石にこの人達の蘇生まで引き受けらんないけど、遺族の人たちは踏ん切りがつくんじゃないかって」
「責任重大だね?」
「あまり背負う必要はないぞ? あとはダンジョンセンターの皆さんにお任せしよう」
「そうだね」
なんてしんみりしてると、横合いから爆音が響いた。
「おおっと、こーれーは、ビッグニュースですよ皆さん!」
「ひゃっ、なになに?」
蓬莱さんだ。うるせぇ!
モンスターが近寄ってきたらどうするつもりだよ!
この人なら余裕で対処するんだろうけど、俺達は不意打ちにめちゃ弱いんだぞ!?
だというのに一切気にした様子もなく喋り続ける。
誰だよこの人を会社の要職につけた人は。
子供のまま大人になってもこうはならねーぞ?
「本来なら構う余地もない他人のライフコア、でもこの子達は違う! 見つけた以上構ってしまう! 果たしてこれを他の探索者連中はするでしょうか? 私ならしない! だって自分の目的の邪魔でしかないから!」
:これが現場の判断なんだよなぁ
:他人の命より自分の命ってね
:それ考えると探索者って碌でもねぇな
:【+1】君と【洗浄】ちゃん、どうしてそこまでしてくれるの?
「やっぱり身近な人が亡くなったばっかと言うのもあるし、俺たちの目的は蘇生の為のアイテム入手でもありますから。他人事じゃ済ませらんないっすよ、一度手に入れちゃったら」
:うちの夫が、丁度二年前に鹿児島のダンジョンに行くって! それきりで……どうかお願いします、ライフコアだけでも……
「もし洗浄した中にいたら引き取ってあげてください。ダンジョンセンターにお渡ししときますんで。でも俺の幸運も全てのライフコアを抜き取れるわけじゃないんで、その中に居なかったらごめんなさい」
:【+1】君は悪くないよ、ダンジョンはそういうところだし
:むしろ引き抜けるだけラッキーなんだよな
:何回潜っても手がかりなしとかザラだから
:俺らも他人の不幸を笑いものにしてたけどこういうの見ちゃうとな
:本来人の死について揚げ足取りするのは無粋なんだぞ?
:人の心とかないんか? お前ら
:所詮他人は他人だから
「胡桃ちゃん、洗浄済みのライフコア、スキルコアはセンターさんに直接渡してあげて。発表はここでするけど、この子達は目的を遂行するまで引き返せないから」
:おい、カメラを揺らすことで返事をするな!
:酔う! 酔う!
:胡桃ちゃん、口下手だから
:喋りが苦手だからカメラマンが向くんやで?
:スキルも特殊だし
:戦闘向きじゃないけど、帰還は一瞬。超便利な子だよ
:危険を冒してまで連れてく意味……
:ダンジョン離脱用アイテムはないからなぁ
「しかし凄いよ頼忠君は。全部は無理と言いつつ、サルベージした数はなんと31名分! 正直Bランクダンジョンに挑もうって気狂い達はそこまで多くないから、頼忠君は正味90%以上は掬い上げてる結果に至ってると思うな! 以上、Bランクダンジョン踏破回数5回の蓬莱百合レポーターからでした!」
:さらっと自分の宣伝すんな!
:普通に英雄だからなこの人、なんでこんなとこにいるの?
:Bって潜れるだけで人間辞めてる人多いから
:じゃあこのメンツも?
:ステータスは普通、メンタルが人間辞めてる
:そこに紛れる一般殺人鬼
:殺人鬼なのに一般てどういうこと?
:殺人鬼の時点でメンタル普通じゃないやろが!
未だ慎へのバッシングは強い。
ダンジョンで人が死ぬのは仕方のないことだと言いつつ、非戦闘員を連れて行った思考を責める人が多いのだ。
自分たちならそういう判断はしないと言うが、選りすぐりのメンバーで挑んで死者を出したら勇気ある行動だったと褒め称える。
同じ死者なのにこの扱いの違いはなんだろう?
一人ワンドを握りしめる慎の肩を軽く叩いて檄を飛ばした。
「お前の真意はわからない。けど、アンチコメントを払拭するにはお前が活躍して見せるしかないんだ。やってやろうぜ、慎。俺たちもお前のサポートをするからさ?」
「ラストアタックを全部持って行くお前に言われてもな……」
それは言うなや。ゴールドボックスさんが強すぎるんや。
俺は悪くない!
「何言ってんだ。俺のステータスは幸運以外ひ弱なんだぞ? ラストアタックは場が整ってるからこその成果だろうが。その状況に持ち込んでくれたのは他ならぬお前だぜ? 少しは自信持てよ」
「頼忠……そうか、そうだよな。アンチコメントを真に受けすぎて少し疑心暗鬼になってた。俺らしくもない」
「そうだぜ〜? 俺の【+1】なんて世間一般の評価最悪だからな。雑魚がダンジョンに潜るな! って風当たりが強かったんだぞ? それに比べたらお前へのバッシングなんて可愛いもんよ」
「そうだったな、また頼めるか相棒」
「まかせろい! って、こんなやりとり小学校以来だな?」
出会った当初、慎は俺の後ろをついてくる奴だった。
しかし学年が上がるたびにどんどんと差をつけられて、6年になる頃には立場が逆転してしまっていた。参謀兼実行役は慎で、俺は下っ端Aの立場。それでも毎日が楽しかった。慎が違う中学に行くと言い出すまでは。
「そうだったか?」
「そうだよ。お前急に別の中学行くって離れ離れになったじゃん」
「……そうだったな」
慎は少し考え込んだあと、拳を握って自分の頬をぶん殴った。
何してんだこいつ! 自傷行為でもして、ポーションをねだるつもりか? 戦闘離脱されても困るからあげるけど、HP管理くらいは自分でしてくれよ?
「これで俺の甘っちょろい思考は死んだ。もう昔の俺はいない」
「やりすぎだって。でもお前のそういう熱い部分、嫌いじゃないぜ?」
こうして今までのクールな仮面を脱ぎ去って、熱血マジシャン漆戸慎が始動した。
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