第75話 プレセアの元締め

 ベスタフの賃貸アパートを目指して歩いていると、様々な街の景色が見えてくる。

 行き交う人々は、身なりもしっかりしており、食材を売り買いする市場も多く存在する。 

 やはり、この国の生活レベルは高い。


 また、戦時色一辺倒のベルナ王国と違い、この国には一般経済活動による通常の活気がある。



 そんな中、黒髪で目の色も黒く、肌が黄色みがかった人に声を掛けられた。

 異国人のようだ。

 大小長さの違う刀を2本、脇にさして、いつでも抜けるような体勢のため、俺は思わず身構えてしまった。



「少し尋ねるが、このような風体をした者を見かけなかったか?」


 その男は、俺に人相書きを見せた。

 その絵は、色鮮やかに写実的に描かれていた。



「アッ、これは!」

 

 俺は、思わず声を上げてしまった。


 銀髪で目は藍色、美しい顔立ちをした美人であり、スラット背が高いが、胸はペッタンコだ。長剣を構えているが、格好良過ぎて見惚れてしまう。

 この女性は、間違いなくマサンだった。



「なに! 知っているのか? この女の所に、直ぐに案内せい!」


 男は、目を輝かせた。



「いや、知らない。 あまりに、格好良いんで、思わず声が出てしまったんだ …」


 なぜか、ヤバい気がして、誤魔化した。



「本当なのか?」


 男は、気が抜けたように気落ちしてしまった。



「ところで、その美しい女性は、何て名前なんだ? なんで、探してるんだ?」



「ああ、この女は、タント王国の魔道士のマサンだ。 彼女がサイヤ王国に入ったとの情報があってな …。 なんでも、ピンクレッドの髪に深緑の目をした男と一緒にいると聞いて、探してたんだが …。 男の風体が、おまえに似ていたんで尋ねたんだ。 悪いが、それ以上は言えん」


 男は、俺をキツく睨みつけると、足早に去って行った。




 その後、ベスタフの賃貸アパートにひたすら歩いた。

 着いた頃は、夕方になっていた。


 ドアを叩くと、ベスタフが直ぐに出迎えた。



「イース、遅かったじゃないか。 魔石車を使わなかったのか?」



「行きは魔石車を使ったが、帰りは、街の探索を兼ねて歩いて来たんだ。 途中、食堂に立ち寄ったが、店の新聞に、ベルナの国都でテロによる大規模な爆発があった事が出ていた。 プレセアが関与してると書いてあった」


 先の、ワムを交えた説明の中で、俺とマサンが、プレセアに入った事や、逃げた経緯も話してあった。



「プレセアは、規模の大きなスパイ組織だろ。 ところで、マサン殿の事は、出てなかったか?」



「ああ、載ってなかった」


 俺は、思い出して項垂れた。



「イース、力を落とすな! 記事に載ってないという事は、分からないように上手く立ち回ったという事さ。 だから、だいじょうぶだ!」


 ベスタフは、俺の肩に手を置いて励ました。



「あと、他に変わった事があった。 マサンの事を探している男に会ったんだ。 ピンクレッドの髪に深緑の目をした男と一緒にいるとの情報に基づき探してると言ってた。 俺の風体を見て、声を掛けて来たんだ。 知らないと言って、白を切ったが …。 しかし、なぜ、情報が流れてるんだ? 奴は、一体、何者なんだ?」



「多分、そいつは、プレセアのメンバーだと思う。 兄貴から聞いた話だが …。 そもそも、プレセアという組織は、サイヤ王国が発祥の地なんだよ。 フィアスというリーダーも、この国の魔法剣士だったからな。 元締めが、この国にいるんだが、情報相のバフムという男だと思う」



「そうなのか? この国の大臣が元締めなのか!」


 俺は、ベスタフの話を聞いて、複雑な思いがした。

 マサンが、いなくなって危機的な上に、プレセアの、魔の手が迫っている。

 また、頼りにしていた、兄弟子のワムも、師匠の長剣に興味があるだけで、こちらに関わろうともしない。

 そのせいで、心優しいメディアも居なくなった。

 俺は、暗い気持ちになってしまった。



「ところで、メディアとかいうオバさんは、なぜ、居ないんだ?」



「ああ。 その事だが …。 ワムと話した内容を、包み隠さず説明したら、悲しんで、この国を去ってしまったんだ」



「なに! それじゃ …。 兄貴は怒るかも知れない」



「どうして? ワムは、メディアに興味が無さそうだったじゃないか!」



「素直じゃないんだよ。 兄貴に、どう言って、説明したらいいんだ …」


 ベスタフは、頭を抱えてしまった。



「ワムは、物凄く面倒くさい奴だな」


 俺は、鬱憤を晴らすように強く言い放った。



「ああ …。 でも、昔は違ったんだけどな。 なあ、イース。 その、オバさんを、連れ戻せないか?」



「ダメだ。 ワムが会いたいと願うなら別だが、そうでなければ、連れて来られない。 メディアが可哀想だ。 いや、ワムが自ら会いに行くなら、居場所を彼に案内してもいい。 いずれにしても、ワムの態度次第だな」



「さすがに、そんな話はできないよ。 兄貴を怒らせると、かなりヤバい事になる」


 ベスタフは、物凄く怖気づいているようだ。兄弟のように親しいと思ったが、違うのかも知れない。

 そこで、鎌をかけて見た。

 


「ワムが、あまりにも非協力的なんで思うんだが …。 ベスタフの所で世話にならず、別の場所に移るよ」



「待て! それはマズイ。 ああ見えても、兄貴は、君たちの事に興味があるんだ。 長剣を賭けた立ち合いもある事だし、ここにいてくれよ」


 想像通りの答えが返ってきた。

 ワムはベスタフを通じて、こちらの動きを監視するつもりだったのだろう。

 俺は、ここが責め所だと思い、次の質問を考えた。

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