第72話 長剣への執着

 ベスタフは、俺の手を握りしめて再開を喜んでくれた。

 しかしワムは、不機嫌そうな顔で黙っている。それに加え、凄まじい威圧感を放つため、普通の人は怖くて近づけないほどに威厳がある。

 嫌な感じがする、オヤジだった。



 そんな俺の気持ちを察してか、ベスタフが肩をポンと叩いた。



「あれから、タント王国に帰ったんだが、マイドナンバーカードが無くてさ。 いろいろと面倒だから、サイヤ王国にいる兄貴を頼ったのさ」



「エッ、兄弟だったのか? でも、顔が似てない …」


 ベスタフの言葉を聞いて、俺は、再び驚いた。



「兄貴といっても、本当の兄弟じゃないんだ。 俺は、孤児で施設出身でさ …。 小さい頃、兄貴が訪ねて来た時に、剣や魔法を教わったりしたんだ。 そのベースがあったから、俺は、冒険者になれたし、ギルド長にもなれたんだ …」


 ベスタフがワムの方を見ると、彼は、何も言わず頷いていた。

 そこには、先ほどまで感じた威圧感は無く、どこかシャイな感じさえした。

 しかし、それは直ぐに元に戻った。



 その後、ベスタフに根掘り葉掘り聞かれ、俺は、ベルナ王国で体験した事を包み隠さず話してしまった。


 マサンの話をした時に、ベスタフは、とても悲しそうな顔をしたが、ワムは無表情だった。

 マサンは妹弟子なのにと思い、彼の態度を訝しんだ。


 

 ワムは、全てに達観しているようで、得体の知れない雰囲気を醸し出している。

 但し、メディアの話をした時だけは、ほんの一瞬、眉間に皺を寄せた。

 しかし、俺がグラン伯爵を殺めた事や、メディアがベルナのベネディクト国王を隷属している事を話しても、何の変化もなく、まるで興味を示していない様子だった。



 最後に、俺がジャームの3番弟子である事を打ち明けた。


 ベスタフは、俺がマサンの弟子と聞いていただけに、複雑な顔をした。また、死んだはずのジャームから教えを受けたと聞き、それを疑いの目で見ていた。

 しかしワムは、相変わらず無表情で関心が無さそうである。



「ジャームの弟子だと信じてもらうために、見てほしい物があるんだ」


 俺は、証拠として、師匠から譲り受けた長剣を、ポーチから取り出して見せた。



 とっ、その時である。



「イース、おまえが持っていたのか!」


 いきなり、ワムの怒声とも取れる声を聞き、俺とベスタフは、思わず後退りした。

 この時の、彼の威厳に満ちた態度に、恐怖さえ覚えた。


 長剣を見せてジャームの弟子と名乗れば、ワムは悪いようにしないとマサンは言っていたが、とても、そうは見えない。



「この剣は、師匠が俺に授けてくれた物で …。 俺は、師匠の思いや期待を背負ってるんだ!」


 精一杯の弁解をした。



「生意気な! おまえが、その剣に相応しいか見届けてやる。 ダメなら奪うのみだ。 それが、我の使命ぞ」



「何を、言ってるんだ …」


 俺は、ワムの勝手な言い分に腹が立った。

 そして、マサンとメディアが、こんな男に良いイメージを抱いていたかと思うと不思議でならなかった。


 そういえば、師匠のジャームは、ワムの事を、野心家で信用がならない男だから、近づかない方が良いと言っていた事を、今更ながら思い出した。

 俺は、無言でワムを睨んだ。



「それで、この城に忍び込んでまで、我に何の用だ?」


 ワムは、初めて自分から発言した。



「サイヤ王国は、ベルナ王国と戦争をしているだろ。 メディアは、敵国の国王を操れるから役に立つ。 それに …。 『感情の鎖』が切れた彼女が、あなたに逢いたがってる」



「ええい、うるさい! 我は、おまえらに用はない。 しかし、その長剣の事は気になる。 イースよ、一ヶ月の後に手合わせし、誰が所有するか決める。 それまでの間は、ベスタフが面倒を見てやれ」



「何を勝手な! 長剣は、師匠が俺に …」



 俺の言葉を途中で遮り、ワムは、入って来た扉を開けて出て行ってしまった。



バタンッ



 閉まる音がすると、扉が消え、周囲と同じ白い壁になった。

 俺が、不思議そうに見ていると、ベスタフに肩を叩かれた。



「兄貴との手合わせまで、俺が面倒見るさ。 メディアとかいうオバさんも連れて来な」



「ああ、頼むよ。 それよりも、ワムはどこに行ったんだ?」


 俺は、ワムの行方が気になって仕方がなかった。



「さあな。 兄貴が来る時は、いきなり扉が出現して、そこから入って来る。 そして帰ると扉が消えて無くなる。 俺も最初は驚いたが、兄貴に取っては、どうって事ない魔法のようだ。 イース殿は、ジャームの弟子なんだから、この程度の魔法は使えるんだろ?」



「いや。 初めて見た …」


 俺は頭が混乱し、しばらく言葉が出なかった。


 それに …。

 マサンの時もそうだったが、埋められない実力の差を感じていた。

 ジャームに、弟子の中で一番優秀だと言われたが、恥ずかし過ぎて、口が裂けても言えない。



「メディアを連れて来るのは良いが、ここは城の中だ。 簡単に侵入できないが、どうしたら良いんだ?」


 次第に冷静になり、肝心な事を思い出した。



「イース殿、何を寝ぼけた事を言ってる? ここは、国都の市街地にある賃貸アパートの5階の部屋だぞ」


 ベスタフは、奥の扉を開けて、俺を手招きし、窓の方を指さした。

 そこには、背の高い建物が密集する、市街地の景色があった。

 

 また、頭が混乱して来た。



~~~~~~~~~~~~~~


第2章 新天地 〈完〉


初心TARO

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