第71話 ワムとの対面

 いくつかの門をくぐり、建物の中に入ると、広大なフロアが現れた。

 ベルナ王国の城と違って、絵画や彫刻等の類は一切なく、合理的な感じがする。


 フロア内には、城付きの役人と思われる人々が大勢、世話しなく歩いていた。

 もちろん透明だから、俺の事は誰も気づかない。


 しばらく歩いていると、部下を引き連れた、いかにも高官と思われる人物が目についた。

 俺は、そっと近づき、聞き耳を立てた。



「昨日から、ジョンソン国王が政務に復帰されたが、ワム殿の治療魔法が効いたのだな」



「はい。 ワム殿の魔法は全てにおいて、最高レベルにあります。 あらゆる事を可能にします」



「ところで、北部戦線において50万の大軍勢を率いるには、パウエル統括将軍では力不足との声があるが、ワム殿が前面に出てくれれば良いのだが」



「ベナン宰相も同様のお考えです。 しかし、ワム殿は、国王を守る義務はあるが、この国を守る義務はないと拒否されたとの事で …。 2人の対立が、ますます大きくなっております」



「こら! その事は言うな。 争いに巻き込まれてしまうぞ」


 どうやら、ワムと宰相は仲が悪いようだ。それに、北部戦線でも苦労しているようである。

 メディアが、敵国のベネディクト王を隷属している事は、この国に取って大きなアドバンテージになると思った。



 その後、俺は、人を避けながら奥の方に歩いて行き、突き当たりの大きな階段を上がった。


 ここにも、広大な空間があった。

 しかし、1階より天井が低いせいか、若干狭く感じる。


 また、ひたすら歩いて行くと、最奥に、大きな階段が見えた。


 その階段を上がり、しばらく歩くと、今度は、赤い絨毯を敷いた通路が見える。

 ここを、延々と歩くと、近衛兵に厳重に守られている扉に行き着いた。


 ここには、役人の行き来する姿がない。

 俺は、王族が関係する扉だと直感した。


 しばらく立っていると、華やかに着飾った貴婦人が、従者を引き連れて、扉の方に近づいて来るのが見えた。

 俺は、その最後尾に忍び寄り、まんまと扉の中に入る事に成功した。



 中に入ると、驚きの光景が待ち受けていた。


 そこは、想像もつかない広大なフロアで、豪華な絵画や彫刻等が多数飾ってあった。


 行き交う人の数は少ないのだが、皆、豪華な服を着飾っており、従者を従えている。


 俺は、周囲を注意深く観察し、今度は、年配の貴婦人にターゲットを絞って近づいた。

 聞き耳を立てると、貴族がどうとか、食事が美味しいとか、くだらない事ばかり話している。

 どうやら、この女性は王族の中でも、かなり高位のようで、すれ違う者は、皆、傍に控えて道を譲り、深く頭を下げた。


 この人は、どこまで行くのだろうと思いながら、ついて行った。


 しばらく歩いていると、中年の男性とすれ違った。

 傍に控える彼を見ると、この人には従者がおらず、単独で歩いていた。

 中肉中背で、精悍な顔つきに口髭を生やしており、人を圧倒するような威圧感が滲み出ていた。

 


「これは、ワム殿ではありませんか。 国王の具合はいかがですか?」


 なんと、この男性が、俺が探すワムだった。


 これまで、すれ違う人がいても偉らぶっていた貴婦人が、この男性には愛想が良い。

 王族も一目置く、存在である事が伺える。



「昨日から、政務に復帰されておりますよ」



「それは、良かったです」


 貴婦人は、嬉しそうに笑顔で答えると、再び歩き出した。

 従者が、金魚のフンのように長く連なる姿が、どこか滑稽で笑えた。


 ワムも、貴婦人を見送った後、再び歩き出した。


 俺は、悟られないよう、少し距離を取って、彼を追いかけた。


 ワムは、歩くのが早く、俺は、ついて行くのがやっとだった。

 足音を立てないように特殊な靴を履いてはいるが、バレないかと、ハラハラしながら追いかけた。


 かなり歩いたところで、ワムは、螺旋階段の前で立ち止まった。

 この階段は鉄製のため、さすがに足音でバレるだろう。


 俺は、ここで姿を現すべきか迷った。


 そんな矢先、ワムは、いきなり背後を振り返った。



「なぜ、我のあとをつける」


 透明だから分かるはずがないと思いしばらく無視していたが、再度、声を掛けられて、これ以上、誤魔化すのは無理だと悟った。


 俺は、周囲に誰もいない事を確認し、イーシャになって姿を現した。



「どうして、分かったの?」



「魔法のマントか …。 どうやって手に入れた?」


 俺の質問には答えず、ワムが、逆に質問をしてきた。

 全てを見透かされているようで、正直に答えるしかないと思えた。



「ダンジョンの街の、ギルド長のベスタフが所有していたものを、マサンを経由して譲ってもらいました」



「そうか。 でも、そうなると少し変だぞ …。 君は、随分可愛い女の子だが、本当は男だよな。 イース」


 名前を呼ばれた。

 なぜか、俺の事を、お見通しのようだ。



「はい。 イースです」


 俺は、マントを脱いで、正体を現した。



「よろしい。 では、再び、透明になって、ついて来なさい」



「はい」


 もう、ジタバタしても仕方ないと思えた。


 そして、マントを被り、再び透明になると、ワムについて行った。

 かなり歩いたところで、この豪華な城に似つかわしくない、普通の古い扉を開いた。


 中は、小じんまりとしており、幾つか部屋があるようで、奥に扉が見える。



「おーい。 おまえに取って、懐かしい、お客を連れて来たぞ!」


 ワムが、いきなり大きな声をあげた。



「おい、マントを脱いでいいぞ」


 ワムに言われマントを脱ぐと、奥の扉が開き、男性が出て来た。



「あれ、イース殿じゃないか! 久しぶりだな! ところで、マサン殿はどうした?」


 ベスタフが、俺のところに駆け寄って来た。



「エッ! 何で、ここに?」


 俺は、驚きのあまり、言葉が思うように出なかった。

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