第70話 サイヤ王国へ
マサンが出て行ってから、俺とメディア2人きりの生活は、最初は気まずかったが、彼女の気さくな性格もあって、次第に打ち解けるようになっていった。
ポーチの中に食材が十分にあるから、食事の心配はない。
それに、メディアがご馳走を作ってくれるから、自分の母親の事を思い出してしまい、目頭が熱くなったりした。
彼女は、身の上を恥じる事なく話すから、俺も、次第に気を許し、自分の事を語るようになっていた。
その際に、メディアは、シモンがした事を、何度も謝罪した。
複雑な気持ちではあったが、メディアの優しい人柄に好感を持てるようになり、お互い辛い過去を抱えた身の上を理解し、同情とも取れる連帯感のようなものが芽生えるようになった。
マサンが居ない寂しさや不安もあったが、メディアのおかげで、それを考えないで過ごす事ができた。
魔法の水晶については、常に目につく場所に置いてあったが、マサンからの連絡はなかった。
しかし、それでもとメディアに言われ、マサンが出て行ってから3日目の夕方に、水晶を手に取って覗き込んでみた。
「ねえ、水晶の中に、小さく星のように光る点があるけど? 私は、歳を取って目が悪くなってるから、よく見えないけれど …。 これって、光ってるよね …」
「確かに光ってる。 何だろう? 魔道書で水晶の見方を確認して見るよ」
俺は、ポーチから魔道書を取り出した。
「イースも、この本を持っていたんだ …」
メディアは、懐かしそうに大きく重い書籍を手に取った。
「ああ。 マサンから貰ったんだ」
「凄く貴重な本よね。 マサンは必要ないのかしら?」
「全て、頭に入ってると言ってた」
俺の話を聞いて、彼女は目を丸くして驚いた。
その後、メディアと魔道書を読み解きながら水晶を触っていると、小さく光る点が次第に大きくなり、映像に移り変わった。
「エッ、これは …」
俺は、驚きのあまり息を呑んだ。
最初に、ビクトリアの怒りに満ちた表情が見えた。
また、マサンの、彼女を蔑むような音声も入っており、最後は、ビクトリアが発する、光の矢の攻撃を受けて映像が途切れた。
「ビクトリアが冷たくて薄情な人だと、マサンが言ってたけど …。 それに、戦っているように見える …。 これって、なに?」
メディアは、俺の顔を心配そうに見つめた。
「マサンが危ない! 直ぐに加勢しないと! これからマサンを助けに行く!」
俺が興奮して立ち上がると、メディアも立ち上がり、行く手を阻んだ。
「待って! これは、3日も前の映像なのよ。 今から行っても、間に合わない …。 マサンは、5日間待てと言った。 あと、2日あるから、彼女が来るのを待つのよ!」
メディアは、俺の手を握りしめ、大きな声で言い聞かせた。
◇◇◇
あれから、魔法の水晶を持ち歩き、マサンからの連絡を待ったが、結局、5日を過ぎても音沙汰がなかった。
俺が、落ち込んでいると、メディアが強く背中を叩き、大声で叱った。
「何をショボくれてるのよ! 男なんだから決断しなさい。 マサンの言いつけを守って、サイヤ王国に向かうのよ! 彼女は、伝説の魔道士ジャームの弟子なのよ! 負ける訳がないでしょ! 私は、ジャームの事を良く知ってるけど、よほど天賦の才がなければ弟子に取らないのよ! 私は、弟子になれなかった。 でもね、マサンは違った。 マサンは、ジャームに選ばれた娘なの。 3傑だろうが何だろうが、彼女に敵うはずがないわ。 先に行って、マサンを待ってれば良いのよ!」
「ああ …」
俺は、やっとの思いで返事をした。
結局、マサンをこれ以上待てず、サイヤ王国に向かう事にした。
俺が知ってる空間移動ポイントは、ベルナ王国にある「魔法の門」しかない。
しかし、メディアは、冒険者時代に、多くの空間移動ポイントを使っており、今でも覚えていた。
結局、メディアに案内されて、サイヤ王国の国都に、直接、出る事ができた。
マサンは、こうなる事を見越していたのだろうか …。
とても、敵わないと思った。
◇◇◇
サイヤ王国の国都は、人口が多く、立派な建物が密集していた。
また、道路の幅が広く、機能的に都市造りがされている印象だ。
それに、外国人も多く、様々な人種が見られた。
ベルナ王国のように、戦時色に染められた感じはなく、この国は大国なのだと、改めて感じた。
俺たちは、市街地の中心部に宿を取った。
部屋の中から、遠くの方に、白く美しい巨大な城が見える。
メディアは、冒険者時代に、何度かこの国に訪れたとの事で、懐かしむように城を眺めていた。
「遠くに見た感じだけど、サイヤ王国の城は、かなり規模が大きいよな」
この国は大国だけあって、全てにおいてベルナ王国を上回っているように思えた。
「そうね。 ベルナ王国の城とは比べ物にならない位大きいわ。 あの中にワムがいる」
「エッ、城に住んでるのか?」
「国王付きの魔道士で雇われているわ。 職責は、宰相クラスだそうよ。 王族の居住空間の近くにいると思うわ」
「そんなに偉いのか …。 ワムの面会だけど、いきなり行ってだいじょうぶかな?」
メディアの話を聞いて、俺は、少し不安になってきた。
「多分無理よ。 魔法のマントを被って透明になって行くしかないと思うわ」
「じゃあ、2人で被るか?」
「2人だと、動きが鈍くなって危険よ。 私は、ここで待っているから、一人で行ってらっしゃい。 それから …。 もしも、見つかって姿を現す場合は、イーシャになるのよ」
「どうしてだい?」
「ワムは、女性が苦手で恥ずかしがり屋なの …。 でも、女性に優しい」
メディアは、何かを思い出したのか、少し頬を赤くしていた。
◇◇◇
俺は、メディアに十分な滞在費を渡し、彼女を宿に一人残して、早速、城に向かった。
魔法のマントを被り、最初から透明になっている。
人混みの中を、すり抜けながら城を目指したが、かなりの距離があり、到着したのは夕方になっていた。
遠くから見えた、白く美しく巨大な城が、そびえ立っている。
思わず目を奪われる、圧巻の景色だ。
そして、正面には大きな門があり、衛兵が厳重に警備していた。
俺は構わず、門の方へ歩を進めた。
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