第68話 国都の危機

 フードを被った女性は、剣を構えるフィアスを見て、叫ぶように言った。



「爆裂する矢が来た後に、マサンがここに来るわ。 私が後方支援をするから、フィアスは剣で攻撃して!」



「なにを言ってる! マサンは、動くはずがない。 相手の結界に飛び込んで、自らを不利にする奴がいるのか?」


 フィアスは、バカにしたような声をあげた。



「マサンは、伝説の魔道士ジャームの弟子よ。 こちらから手を出した以上、必ず倒しに来るわ」



「そんな奴はいないさ …。 とても信じられん」


 フィアスは、呆れたように言い放った。



「いえ、必ず来る。 それに …。 ジャームの弟子なら、正攻法で小賢しい事はしない。 恐らく、命のやり取りになるわ」


 言いながら、彼女は、かなり焦っている様子だ。



「命のやり取りは困る。 マサンは最高レベルの魔法剣士だから、俺では太刀打ちできない。 彼女が来るなら、ここを離れるぞ! そもそも、公園に張った結界に閉じ込めて拘束するはずだったんじゃないか。 失敗したんだから撤収するしかないんだよ!」


 フィアスは、淡々と話した後、剣を鞘に納めようとした。



「逃げられない! もう間に合わないよ! だけど、私の結界の中ならだいじょうぶ。 それに、マサンの動きを緩慢にしたり、魔法で支援もできる。 ねえ! フィアスは、サイヤ王国で名を馳せた魔法剣士なんでしょ。 この意気地なしが、意地を見せろ!」


 女性は、ヒステリックに大声で叫んだ。



「生意気な! 本当に、間に合わないんだな …」


 フィアスは覚悟を決めたのか、剣を空に掲げ、再び呪文を唱え始めた。



 とっ、その瞬間、目が潰れるかと思うほどに、空が黄金色に光った。



◇◇◇



 国都の市街地に、激しい爆音と共に大きなキノコ雲が上がった。

 それが、3度も立て続けに起こったのだ。


 多くの国民は、サイヤ国軍の襲来だと口々に叫び、逃げ惑った。


 宮廷内も大混乱であったが、その中で、シモンは閣僚を緊急招集していた。

 国王のベネディクトも、落ち着かない様子だ。




「宰相が焦ってどうする! 落ち着け、シモン!」


 いつの間にか、ヤマトが、シモンの目の前に立っていた。

 


「ヤマト兄貴 …。 あの爆発は、サイヤ国軍の襲来だろうか?」


 シモンは、ヤマトを見て安堵した。

 表情には出さないが、実は、かなり焦っていたのだ。



「バカ言え。 サイヤ国軍は、大軍過ぎて準備ができてないから、最前線にいるはずだ。 あの爆発は、恐らく、プレセアの魔法使いが放った光の矢だ」


 ヤマトの言葉を聞いて、シモンは目を丸くした。



「あんな高魔力な矢を放てる者が、プレセアのメンバーにいる訳がない! あれは、三傑最強の攻撃力を誇るガーラ以上だぞ …」


 シモンは、ヤマトの話を真っ向から否定した。

 プレセアをバカにしていただけに、とても受け入れられなかったのだ。



「俺も信じられないが …。 でもな …。 矢が放たれた場所を知ってる。 女だったよ。 世の中は広いって事さ。 あの女は、この国の者じゃないと思う」



「敵の姿を、見たのか?」



「多分だが …」


 ヤマトは、ダデン家から逃げたソニンを追っている過程で目撃した、背の高い銀髪の女性の話をした。

 また、薄く広大な結界が張られていて、そこから逃げた事も伝えた。


 話を聞いて、シモンは、さかんに首を傾げていたが、銀髪の背の高い女性については、心当たりがあるのか、思わず机を叩いた。



「その、背の高い銀髪の女だが、ダンジョンの街で目撃された、マサンに酷似している。 父上と母上が消えた件と関連があるとしたら厄介だ …」 


 シモンは、言いながら不安そうな顔になった。



「マサンって …。 タント王国の、伝説の魔道士ジャームの弟子のマサンか?」



「その、マサンだ」


 シモンが答えた後、ヤマトは少し考え込んだ。



「だとしたら、厄介だな。 いづれにしても、プレセアを殲滅すべきだ。 市街地が攻撃されたんだから、軍を動かせよ!」


 ヤマトは、シモンを睨みつけるような厳しい表情をした。



「参謀のガーラに、軍の出動要請をしてある。 それに、緊急招集したから、参謀も直ぐに来る。 ガーラの奴、思うように動いてくれれば良いのだが …。 なあ、ガーラに後方支援を頼むから、ヤマト兄貴の手でマサンを葬れないか?」


 シモンは、不安そうにヤマトを見据えた。



「ガーラは、信頼できないからダメだ。 でも、ビクトリアが後方支援をするなら、俺がマサンの相手をしても良いぞ。 彼女が、国都にいるタイミングで良かったな」


 ヤマトは、意味ありげな顔で、ニヤっと笑った。



「それが …。 ビクトリアは、ダメなんだ。 昨夜、最前線に戻ってしまった。 タイミングが悪かったんだよ。 マサンに剣で対抗できるのは、ヤマト兄貴しかいない。 軍の連中を自由に使って良いから、とにかく助力を頼む。 あっ、そうだ …」


 シモンは、何かを言い掛けてやめた。

 マサンの弟子と思われるイースの家族を、人質にできると考えたのだ。

 しかし、正義感の強いヤマトに言うと逆効果になると思いやめた。



「なんだ?」



「いや、とにかくマサンを始末してくれ。 頼む …。 この国の一大事なんだ」



「分かった。 マサンは、俺に任せろ。 その代わり、シモンは宰相の仕事に専念し、国王を守れ!」


 ヤマトがシモンの肩を叩くと、次の瞬間には、その姿が消えていた。



 ヤマトが消えてから少し経つと、緊急招集に伴い、閣僚の面々が、ゾクゾクと集まって来た。


 メディアの国王を操る力が無かったため、いつもより会議は紛糾した。

 しかし、軍にプレセアを殲滅させる件と、私兵のヤマトを、軍の幹部として参加させる件については、何とか了解を取り付けた。

 大規模な爆発を見て、動揺した閣僚達の心を、魔法で操ったのだ。

 

 今回の会議において、カマンベールの息が掛かった閣僚達の反旗を翻したような言動を聞くにつれ、消えた両親を見つけねば窮地に立たされる危機感を、シモンは強く感じていた。



◇◇◇



 時は、キノコ雲を伴う大規模爆発が起きた直後に遡る。

 マサンが放つ矢が落ちた場所での事である。


 建物が崩壊した瓦礫の中に、銀髪の背の高い女性が、炎を吹き出す剣を掲げて立っていた。

 眼光は、見る者を圧倒するように鋭いが、その容姿は、見る者を圧倒するほどに美しかった。


 女性は、言わずもがな、マサンであった。

 


 マサンから20mほど離れた、相対する場所に、魔杖を携えフードを深く被る女性と、剣を構えるフィアスの姿があった。 


 フィアスは、深手を負っているようで、肩の辺りから血が滴り落ちている。


 マサンは、フードを深く被った女性を見て、不敵な笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る