第67話 広大な薄い結界

 ヤマトが呼び出した女性の魔法使いは、名前をシャインと言った。 

 ムートのAクラス出身の23歳で、グランがヤマトを引き抜いた5年後に、16歳で、私兵組織に招かれた。


 ヤマトは、彼女の事をとても信頼しており、隊長補佐に任命していた。



「なあ、シャイン。 背が高い女から、何とも言えない攻撃的な魔力を感じる。 また、ソニンという女が、痺れたように跳ねているが、いったいあれは何だ …。 プレセアのメンバー同士で、仲違いでもしたんだろうか?」


 ヤマトは怪訝な顔で、シャインを見た。


 

「あの動きは、自白の魔法を掛けられているようです。 掛けられた方は、かなりの痛みを伴うのですが …。 拷問とも取れるやり方をしているけど、2人は本当に仲間なんでしょうか?」


 シャインは、首を傾げた。



「よし、斬り掛かって見るか!」


 ヤマトは、いきなり強く言い放った。

 彼の、豪胆な性格が垣間見える。



「待ってください! いきなり斬り込むのは危険です。 周辺の結界を調べますから …」


 シャインは、魔杖を取り出すと、地面に突き刺した。



「何か変です。 背の高い女の周囲にある強い結界とは別に、我々を呑み込むような広大な薄い結界が張られています …。 薄くて気づきませんでした」


 シャインは、申し訳無さそうな顔をした。



「ここは危ないのか?」



「私たちは、得体の知れない相手の懐の中にいます。 もし、威力を強められると、極めて危険な状態に変化します」



「結界を外れるまでの距離は分かるか?」


 ヤマトに言われ、シャインは目を瞑って集中した。



「ここからだと、500mほ …」


 言い終わらない内に、2人の姿は消えていた。


 ヤマトが、シャインを抱き抱え、物凄い速さで、広大な結界から脱出したのだ。



◇◇◇



 マサンとソニンがいる位置から1キロほど離れた街の一角に、2人の男女が立っていた。


 フードを被っており、顔は見えない。

 結構人通りが多いのに、不思議な事に、皆が、2人に気づかず素通りしている。

 いかにも怪しい2人なのに、目立たず存在しないかのようだ。



 おもむろに、女の方が話しかけた。



「ダデン家の私兵は、気がついて逃げたわ」



「邪魔者が退場して良かった。 それで、マサンを捕獲できるのか?」



「何としても、やり遂げて見せるわ。 でも、ソニンって娘を巻き込んでしまうかも」



「プレセアの一員なら、常に死を覚悟しているさ。 だから、気にするな」



「分かったわ」



「君の目的が、我が組織の思惑と一致したから、情報を提供したんだ。 あの女が、ダンジョンの街でイースと一緒にいたマサンだ。 一筋縄に行かなくてな。 君の力があれば、彼女を拘束し、手懐ける事ができる」



「ええ、私も、あの女とイースの関係を知りたい。 2人の家で感じた女の気配だわ。 あの高魔力は、伝説の魔道士ジャームの弟子、マサンだったという事ね。 でも、見事に罠に掛かってくれたわ …」


 女は、不敵な笑みを浮かべた。



◇◇◇



 その少し前、マサンは、魔法によりソニンに自白させていた。

 

 ソニンは、ダデン家を逃げてきた事やフィアスに連れられて来てマサンに声を掛けた事を、繰り返し話していた。

 マサンが、魔法を解くと、疲れ果てたのか、肩で息をして座り込んだ。



「何だ …。 これは?」


 離れた場所で、シャインが魔杖を地面に突き刺したのと同時に、マサンが声を上げた。



「こんなに薄く広い結界を張ってあったなんて、気づかなかった。 2人の囮を置いて、フィアスは高みの見物のようね。 それにしても信じられない結界だわ。 彼は、とんでもない怪物を雇ったようだけど、誰なのか知ってる?」


 マサンは、ソニンに向かって強く言い放った。



「何の事か分からないけど、フィアスは常に新しいメンバーを募っているわ。 あなただって、最近、メンバーに入ったんでしょ」


 ソニンは肩で息をしながら、苦しそうに答えた。



「一応メンバーに入ったわ。 でも、プレセアという組織は、メンバーを使い捨ての駒のように扱う見たいね。 結界の大きさを絞って威力を強めたようだから、私から離れると危険よ」


 マサンは、同情するようにソニンを見た。



「そんな …。 どういう意味?」



「私が、内側に結界を張って対抗してるのさ。 試しに、私から離れてみな。 20mも行くと、動けなくなるから。 そこで魔力や陽気が弱いと死ぬよ」



「私は、見捨てられたの?」


 マサンの話を聞いて、ソニンは震え出した。



「2人の囮を退避させて、これから本格的に攻撃する見たいよ。 でも、フィアスの場所が分かったから、こちらから先制攻撃するわ。 死にたくなかったら、私の側を離れない事ね」


 言うが早いか、マサンは魔杖を取り出して地面に突き刺し、何やら呪文を唱えた。


 すると、杖の先から黄金の強い光が放たれると同時に、金色の5mはあろうかという大きな矢が3本、空高く放たれた。

 この金色の矢は、かなり離れた王宮でも確認できるほどで、多くの国民が目撃する事となった。


 

◇◇◇



「エッ! 信じられない …。 私の結界を突き破って来るわ。 気をつけて!」



「ああ、分かってる」


 フードを被った女に言われ、隣の男は、フードを脱ぎ捨てた。


 男は、フィアスだった。


 彼は、剣を上段に構え、小さく呪文を唱えた。



◇◇◇



「あの強烈な光は、魔法の矢なのか? 方角からすると、ソニンがいた場所からだよな。 スゲー魔法使いがいたもんだ! 身体が震えるぜ!」



「見た事もない高魔力の矢だわ。 当たれば、街が大きく破壊される」


 シャインに言われ、ヤマトは湧き上がる興奮を必死に抑えていた。

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