第65話 危険な組織

 俺が感傷に浸っている間に、マサンとメディアは、いつの間にかマントを脱ぎ、姿を現していた。

 

 俺も、マントを脱いでポーチにしまうと、久しぶりの開放感で、思いっきり背伸びをしてしまった。


 すると、メディアが不思議そうに俺を見つめている。



「あれ、あなたは誰?」


 彼女の声が裏返った。

 姿を現した俺を見て、女性だと思っていたのが、男の姿に変わったのだから、驚くのも無理はない。


 メディアは、魔道書を読んでいるから、魔法のマントの事を理解はしていたが、実際に見る光景に驚いたのであろう。



「イーシャは、魔法のマントで女性に化けていたんだ。 イースが本当の名前だ」


 マサンが説明すると、メディアは、俺の顔をマジマジと見た。



「そんな事より、早く行くよ!」


 マントを脱いで身軽になったマサンは、周りに目もくれず歩き出した。

 俺とメディアも、慌てて後に続く。



 そして、しばらく進み、道が3本になったところで、いきなり立ち止まった。


 マサンは、背伸びをするように大きく両手を挙げると、何やら呪文を唱え始めた。


 すると、不思議な事に、周りの景色がゴムを引き伸ばすように、大きく広がって行った。見ていると、目が回って頭がクラクラしてくる。



「よし、これくらいで良いな」


 いつの間にか、目の前に大平原が広がっており、俺もメディアも、思わずその景色に見入ってしまった。


 それは、マサンが作った亜空間だった。



「さあ、もう少しだぞ!」


 マサンが、俺とメディアの手を握ると、強い風に煽られて、3人は空高く舞い上がった。

 そして、かなり遠くまで飛ばされて、今度は落ちる寸前に、地上から風が舞い上がり、フワッと着地した。

 


「さあ、着いたぞ」


 マサンは、腰に縛ったポーチの中から箱のような物を取り出すと、地面に放り投げた。すると、そこに、小さな赤い家が出現した。


 いつもの家だった。

 

 そして、マサンは、こちらを見て中に入るように合図をした。あまりの手際の良さに、俺とメディアは呆気に取られてしまった。



 家の中に入り、リビングのテーブルの椅子に3人が腰を掛けると、マサンは俺を見据えた。



「私は、これからフィアスのところに行くが、もしも、5日経って帰らなかったら、メディアを連れてサイヤ王国に向かえ。 ワムに会った時に、長剣を見せてジャームの弟子である事を伝えるんだ。 悪いようにしないと思う。 良いな!」



「ここを、アジトにして、ダデン家を潰すんじゃ無かったのか?」


 俺は、マサンが居なくなる事を想像できず、困った顔をした。



「イース、そんな顔をするな。 あくまでも、私が帰れなかった場合の話だ。 フィアスは油断がならない男でな。 恐らく、罠をしかけているだろう。 最悪の場合を考えて言ってるんだ」



「フィアスは、そんなに悪い人に見えなかったけど?」


 俺は、マサンが言う意味が分からず、思わず聞き返した。



「なら、本音を言おう。 フィアスに取って、我々は、プレセアの組織の中の駒に過ぎないんだ。 もし、国王を操れる者がいると知れば、奴らはメディアを監禁してでも欲しがるだろう。 その場合、『感情の鎖』ではなく薬を用いて隷属させる。 相手の悪党が、グランからプレセアという組織に変わるだけだ。 だから、メディアをフィアスに会わせる訳に行かないんだ」



「マサン一人で、だいじょうぶなのか?」



「私を甘く見るんじゃないよ。 どんな相手であっても殺られる事はないさ」


 マサンは、俺に答えた後、メディアを見据えた。



「私は、足手まといよね …」


 メディアは、申し訳なさそうな顔をして答えた。



「そういう訳じゃないが …。 わざわざ、狙われている場所へ出向く必要が無いって事なんだよ。 メディアが、我が師匠ジャームの教えを受けて冒険者として活躍していた事を知っているが、それでも、プレセアという組織は危険なんだ」


 マサンの、いつに無い真剣な表情を見て、油断がならない相手だという事が十分に伝わって来た。



「イースに、これを渡しておく。 通信道具だから、常に注意を払っておいてくれ」


 俺に小さな水晶を渡すと、マサンは立ち上がり、そのまま出て行ってしまった。


 残された2人は、声を掛ける間もなく、呆気にとられ、マサンを見送った。



◇◇◇



 ベルナ王国に戻ったマサンは、以前、フィアスと待ち合わせた公園に来ていた。

 周りには誰もおらず、シーンと静まり返っている。


 もちろん、フィアスとの接触を試みての事であるが、彼は一向に現れない。

 諦めて帰ろうとした、その時である。



「あなたが、かの有名なマサンか?」


 マサンが、声のする方を見ると、そこには見覚えのある顔があった。しかし、相手はマサンの名前を呼んだにも関わらず、少し半信半疑な様子だ。


 彼女は、ダデン家に潜入していたソニンだった。

 マサンは、透明になって潜入していたから、彼女の顔を見知っていたが、ソニンは知らない。

 知らないのに声を掛けたという事は、マサンの顔を知る者が近くにいるという事になる。



「フィアスは、どこにいるんだ?」



「何の事よ? それよりグランとメディアがいなくなったけど、あのイーシャって女は何をした? 3人が、何処にいるか教えろ!」


 ソニンは、声を荒げた。



「この私に向かって、口の聞き方を知らない娘だね!」


 マサンはソニンを睨むと同時に、周囲の様子を伺った。

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