第48話 お似合いの2人

 俺とマサンは、繁華街の路地裏にいた。

 透明で見えないが、繋いだ手は汗ばんでビショビショになっている。

 マサンは、気にする性格でないから平気だろうが、俺は、相手に女性を意識してしまい恥ずかしくなっていた。

 彼女は、口は悪いが十分に魅力的すぎる。その気持ちは、俺が男である限り変わらない。



 人通りがない空間に、突然、マサンの声がした。


 

「なあ、イース。 このままの状態で、女になりたいと強く願ってみな。 そうだ! その時に、魔力を強めるんだぞ!」



「なんで、そんな事を?」



「シノゴの言わずに、やるんだよ!」


 マサンの口調が、荒くなった。こうなると逆らえない。

 俺は、言われた通りにやった。


 

「おまえ、凄く綺麗だぞ! しかもチャーミングで可愛い! 女の私でも、スリスリしたくなるほどだ!」


 マサンの驚いたような声がした。



「エッ、今、何て言った?」


 変な事を言われ、思わず、声がうわずった。

 そして、マサンが居るであろうと思われる空間を眺めた。

 


「おまえ、自分の身体を見てみな。 少し背が低くなってオッパイがあるぞ。 声も、高くなってる。 フフフ」

 

 マサンの、悪戯げな声が聞こえた。



「エッ、何、言ってんの?」


 いつの間にか、俺は透明でなくなっていた。

 それに、声が高くなってる。

 胸を触ると柔らかい。つねると痛かった。

 これは、オッパイだ。小ぶりだが、マサンよりは大きいと思う。

 思わず、興奮して股間を触ると、あるべきものが無かった。 



「俺は、どうしちまったんだ?」


 そう言った瞬間、手を繋いだ先に、背の高い、スラットしたクールなイケメンが現れた。いかにも、女性にモテそうな奴だ。



「エッ、おまえ? まさか …」


 目の前の男は、マサンより背が高かったが、俺が女になった事を考えると、答えは一つしかない。



「そう、マサンだよ」

 

 イケメンは、爽やかに笑うと、俺を抱きしめて来た。

 なぜか、胸がキュンとしてしまった。



「これからは、大きな声で喋って良いぞ! 但し …。 私は俺、イースは私だ! 自分を呼ぶときに気をつけろよ!」


 マサンに言われたが、彼女は、元々が男のような口調なので苦労はしないと思う。

 でも、俺は、男の言葉が染みついているから困る。

 ムートに入った時に、女の振りをした事を思い出した。



「それにしても、性別を変えられるなんて、このマントは凄いな」



「ああ。 言ってなかったが、世界に3着しか無く、至高の魔道具と呼ばれているんだ。 性別を変えられるだけじゃ無いぞ! さらに凄い使い方があるんだ。 何だと思う?」


 マサンは、得意げに尋ねてきたが、皆目見当がつかなかった。

 俺は、無意識の内に、マサンの顔を、上目遣いに見つめていた。



「もう、君を困らせられない! 教えてあげるよ」


 なんだか、マサンは、いつもより優しくなっている気がする。それにキザな雰囲気を醸し出している。そのイケメン具合に、また、胸がキュンとしてしまった。

 どうやら、このマントは、性別だけでなく、その人の心まで変えるようだ。



「じゃあ、答えを言う。 マントを被って、自分を透明にした状態の時に、近くに、男女何れかの自分の分身を作って、そいつを思うように動かすことができるんだ。 まあ、奴隷を作るようなものだな。 やり方は、いつもと同じさ。 まず、透明になってから、男か女、どちらかの分身を出現させたいと強く思うんだ。 その時に魔力を、さらに強めるんだぞ。 分身を作るには、かなり魔力を必要とする。 魔力切れになってしまうと、いきなり元の自分に戻る。 だから、魔石から魔力を吸収する方法を覚えておくと良い。 魔道書に書いてあるが、宿で教えてあげるよ」


 一通り説明すると、マサンは、俺の背中に優しく触れた。なぜか、ジーンときて、顔が赤くなってしまった。

 そんな俺を見て、マサンは爽やかに笑った。



 その後、2人で食事した後、宿を探した。

 道行く男たちが、俺をチラチラと見るが、その度に、マサンが睨みつけた。

 すると、皆、そそくさと目を逸らす。

 強い男に守られるのが、とても心地良かった。心が、乙女に変化していた。



 宿の部屋に入ると、マサンは、俺を鏡の前に立たせた。



「イース。 マントを脱ぐ前に、自分を良く見てみな! 驚くぞ!」


 そこには、天使のような可愛くて美しい女性がいた。試しに笑ってみると、吸い込まれるような笑顔だ。目をパチクリすると、えも言われぬ可愛さがある。

 不覚にも、しばし、自分に見惚れてしまった。

 

 ふと、鏡から目を逸らし横を見ると、そこには、いつものマサンの姿があった。

 マントを脱いで、女に戻っていた。

 俺も、マントを脱ぎ、男に戻った。すると、女性のような心も、一瞬で覚めてしまった。



「なあ、イース。 不思議なマントだろ。 ダンジョンの地下深くで師匠が見つけたんだ。 3枚の内、1枚は私に、もう1枚は、ギルド長のベスタフに譲った。 最後の1枚は、師匠が持っていたが、行方知れずだ。 ここにあるのは、貴重な2枚だ。 その内の、ベスタフから貰ったマントは、イースにやるから大切にしろよ」


 マサンは、俺の肩を叩いた。



「ありがとう。 大切にするよ」


 俺は、至高の魔道具を貰った。

 悪用されると、様々な使い道があるヤバい魔道具だ。だから、師匠の1枚の行方が気になった。



◇◇◇



 3日後に王宮で開催される緊急戦略会議には、魔法のマントで透明になり、忍び込むことにした。



「なあ、マサン。 会議の場で、いきなりシモンを襲ったら勝ち目はあるかな?」



「そもそも、恨みをはらす相手は、シモン一人で良いのか?」


 俺の質問に、マサンは、真面目な顔で答えた。



「奴が、一番憎い。 でも …。 ムートを作った、この国にも腹が立つ」


 俺は、ポツリと言った。



「そうか …」


 マサンは軽く頷いた後、優しい声で続けた。



「そもそも、シモンとガーラの実力が分からん。 でも …。 少なくとも、ビクトリアの結界術には難儀するだろう。 それに、他の上級魔法使いや英雄クラスの騎士の戦力が読めない。 敵の実態を知らないと、2人では勝てないだろう」


 マサンから諭すように言われ、俺は、頷くしかなかった。



 その後、俺とマサンは、性別を変えて街で情報収集にあたった。

 結果、国民の中には、王政に対し不平不満を抱く者が少なからず居る事が分かった。

 そこで、反乱分子への接触を試みたが、中々、うまくいかない。

 


 そんな中、緊急戦略会議の日が訪れた。


 俺とマサンは、厳重な警備が敷かれる中、会議が行われる広間に、早々と忍び込んだ。


 玉座を中心にした座席配置になっており、座る位置が分かるように、各席にはネームプレートが置かれている。



 そして、開始時刻の午前9時が近づくと、ぞくぞくと国の重鎮が集まってきた。


 その中にガーラがいた。昔と変わらない。美しいのだが、どこか鋭利な刃物を彷彿とさせるような威圧感がある。


 そして、ビクトリアが入ってきた。別れた16歳の時より、大人っぽくなり、更に、美しくなっていた。

 俺は、自分を抑えられず、思わず彼女に見入ってしまった。

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