第11話 統括ボスの加護

 俺は、ナーゼと一緒に食事をした。


 亡くなった妹の面影を俺に求めていたせいか、彼女はとても優しかった。


 ナーゼから、ムートの裏事情や魔法使い修練場の事とか、いろいろと教えてもらった。


 ムートでは、18歳になった時点で、Bクラス以上の者は、高等クラスに進み、20歳で卒業し小隊長となる。


 但し、SクラスとAクラスの上位3名は、高等クラスを飛び越え17歳で卒業となる。

 また、Sクラスの者は、卒業後、伯爵の爵位が与えられ 、1年の中隊長経験を経て将軍となる。

 Aクラスの上位3名は、卒業後、子爵の爵位が与えられ 、1年の中隊長経験を経て大隊長となる。

 つまり、Sクラスの者と、Aクラスの上位3名には、明るい未来が約束されているのだ。

 

 しかしその反面、ナーゼの話しでは、ムートという組織は貴族の権力闘争に利用され腐り切っているという。例えば、腕の立つ修習生が敵対勢力の殲滅に駆り出されたりする。中には、返り討ちにあって命を落とす者もいた。

 突然、修習生が居なくなっても探さないと言った、教官の言葉を思い出す。


 また、Sクラスの3名についても聞いた。

 3名とも国都出身で、シモンは貴族の子息、ガーラは商家の娘、ビクトリアは魔法医の娘だそうだ。


 シモンは16歳で、最年長の男子だ。 野心家の彼は、Aクラスの中から腕の立つ者を集め、私設の警備組織を運営している。恐らくは、実家のダデン家が深く関わっているようだ。


 ガーラはナーゼと同じ13歳の女子で、目的のためなら手段を選ばない冷徹な女性だ。シモンとは協力関係にある。攻撃魔法においては、この国の中で彼女に敵う者はいない。


 ビクトリアは、まだ11歳の女子であるが、どんな魔法も高いレベルにある。とても優しい性格で、皆から好かれている。野心がなく、他の2人とは違う性格のようだ。

 俺は、ビクトリアの話を聞いた時、魔法の門に入り彼女に助けられた事を話したが、ナーゼはそれを聞いて、かなり驚いていた。



 最後に、ナーゼは言った。


「この先、イースが強くなった時、ムートの腐った部分が見えてくる。 抵抗するすべはないが、覚悟しておいた方が良い。 特にシモンには気をつけて! 奴は偽善者で外道だから …」


 ナーゼは、シモンの話しをする時に、よほど嫌な思いをしたのか、体を震わせていた。



「この事は、誰にも口外しないで!」


 ナーゼは、最後に付け加えた。


 

 その後、俺はEクラスの就寝場に戻った。部屋に入ると、皆の態度が明らかに違う。恐らくは、ナーゼからの伝令があったのだろう。

 

 あと、俺が男だと言う事も伝わっていたようで、多くの男子がご機嫌取りに来た。

 統括ボスの力は絶大だった。



「イース、あんた男だったのか?」


 サーナが、不機嫌そうな顔で近づいて来た。

 


「ゴメン。 カザフ達が怖くて、女子だと嘘を吐いてしまった。 騙して悪かったよ」



「ところで、ナーゼ様は男を毛嫌いしているのに、おまえは、どうやって取り入ったんだ?」


 サーナは、嫌味タップリの顔を俺に向けた。相当、怒っているようだ。



「取り入ってなどいない。 でも、初めての男子の手下として頑張るよ。 サーナにも協力するからさ」


 俺が、ナーゼの妹に似ている事は秘密にした。



「生意気な! 力も無い癖に思い上がるな!」


 サーナの体が怒りに震えているのが分かる。闘えば瞬殺されるだろう。俺は、背筋が凍った。



「分かってるよ。 生意気な事を言って悪かった」



「ベアスが男子の新しいボスだから、彼とせいぜい仲良くやれば良いさ。 女子との不可侵条約は、今まで通りだ! 手を出したら容赦しないからな!」


 サーナは、捨て台詞を吐き、部屋を出て行ってしまった。



 彼女が出て行くと、入れ違いにベアスが来た。



「やあ、イース。 統括ボスの手下になれるなんて、上手くやったな。 彼女が背後にいれば、イジメられる事はない。 彼女の加護がある内に強くならないと、居なくなった時に地獄を見るぞ。 だから、俺と切磋琢磨して強くなろうぜ」



「ああ、頼む」


 ベアスは、少し臆病だが良い奴だ。俺は、友達に恵まれたと思った。



◇◇◇



 ナーゼの手下になってから、早いもので3年が過ぎた。

 

 ナーゼの加護や指導もあり、俺はBクラスに上がっていた。しかも、このクラスのボスだ。

 13歳でBクラスに上がれるのは、かなり優秀な方だ。

 15歳までにBクラスに上がれないと、ムートから出され雑兵にされるが、その心配はなくなった。一安心である。

 ちなみに、ベアスとサーナは、Cクラスにいる。


 ナーゼは早々とAクラスに進み、A〜Eを統括するボスになっていた。

 その存在は、教官も一目おくほどである。

 俺は、彼女の第一の手下となり、自らの実力と相まって、その立ち位置は強固なものとなっていた。


 騎士修練場において、誰も俺に逆らえる者はいない。正に、虎の威を借る狐だった。

 


 そんな、ある日の事である。

 いつものようにナーゼの部屋に行くと、一人の少女が同席していた。

 その少女はとても美しく、ナーゼでさえ霞むほどだった。


 俺は、彼女に見覚えがある。

 3年振りに会うその人は、忘れもしない、俺の命の恩人だった。


 そして、その少女は、俺を見るなり優しく微笑んだ。

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