第10話 ナーゼの手下

 ナーゼは、俺の姿を食い入るように見ていたが、突然悪戯そうな顔をした。

 そして、可笑しそうに笑った。



「隠さなくても良いぞ」



「エッ、何が?」


 俺は、男だという事がバレたと思ったが、それでも、とぼけた。



「自分から言え。 でないと殺す」


 彼女の笑顔が可愛いだけに、恐怖が募る。もう、嘘は吐けないと思った。



「私は …。 いや、俺は男です。 男子のイジメに耐えられず、女子だと嘘を吐きました。 どうか、お許しください」


 俺は、殺されると思うと、自然と体が震えだした。

 そんな俺の事を、ナーゼは慈しみの目で見たが、それだけに恐怖が大きくなった。



「それにしても …。 あなたの大切なものが縮んじゃって小さくなってるわ。 本当に、女の子見たいね」


 ナーゼは、愉快そうに笑った。



「あのう、そのう …。 俺の、おちんちんが見えるんですか?」


 俺は、慌てて股間を手で隠した。



「隠しても無駄よ。 私は、騎士の修練場に移ったけど、元々は魔法使い修練場のAクラスにいたのよ。 透視くらいできるわ」



「えっ、ナーゼ様は、魔法使い修練場では、Aクラスだったんですか? 凄い!」


 規格外のSクラスを除き、Aクラスは頂点の位置にある。そんな人がなぜ、騎士修練場に移ったのか不思議だった。



「誰にも負けてないのにSクラスに入れなかった。 国都出身じゃないからかな? だから、陽気を大きくして騎士修練場に移ったの。 騎士も極めるつもりよ。 誰にも負けない自信はある」 



「凄いです …」


 俺は、驚きのあまり言葉が続かない。



「イース。 私の事は、ナーゼって呼んで良いわよ。 それから、あなたをサーナのように、私の手下に任命するわ。 だから、男だと明かしてもだいじょうぶ。 誰もあなたに手を出せないわ。 でもこれは、私がBクラスのボスに勝っての話ね」


 ナーゼは、優しく笑った。

 先ほどと違い、喋り方がフレンドリーになってきた。そのせいもあり、俺の緊張は和らいだ。



「でも俺は、サーナや他の女子を騙しました。 そんな俺が、サーナと同じ役目を担って良いんですか? ムートから去れと言うのなら …。 村の人達は残念がるけど去ります」



「私が良いって言えば、皆、従うわ。 心配しないで。 ところで、イースは、どこの村の出身なの?」



「タント王国の国境にある、ジムという小さな村です。 こんな俺でも、皆に期待されて出て来たんです」



「ふーん、奇遇ね。 私も辺境の小さな村の出身なのよ。 ジム村とは反対のサイヤ王国の国境にあるパル村よ。 国都出身者と違い、私たち辺境の村の出身者は、10歳でムートに入るから不利よね。 だから、私は必死に頑張ったわ。 多くの人と勝負して倒した。 ムートでは、力が全てなの。 強者が正義よ。 イースも、早く強くなりなさい!」


 ナーゼは、人懐っこい笑顔を向けて俺を鼓舞した。

 俺は、ムートに来て、初めて信頼できる人に出会えたと思い、凄く嬉しくなった。



「早く、強くなりたいんだ。 でも、周りが強すぎて自信がないんだ …」



「体力で勝てなくても良いの。 騎士だったら陽気を育てることよ! そうだ、そこに横になって」



「えっ、ここに?」



「そうよ。 そこに、仰向けに寝て」


 俺は、ナーゼに言われるままに仰向けに寝た。

 すると、彼女は俺の横に座ると、おもむろにズボンを少し下げた。


「ああ、やめて!」



「静かに」


 ナーゼは、人差し指を唇に当てて微笑むと、俺の下腹部に手をかざした。

 その瞬間、チクッと痛みが走った。



「チクッとしたでしょ」



「うん、した」



「その感覚を、いつも意識するのよ。 少しずつ変化するから」



ポンッ



「はい、おしまい」


 ナーゼは、俺の腹を軽く叩きズボンを上げてくれた。


 俺は、起き上がり、改めてナーゼの顔を見た。

 そして、思い切って聞いてみた。



「なんで、俺に優しくしてくれるの?」



「あなたが、田舎の家族に似ているからなの」



「弟がいるの?」



「違う、妹に似てるのよ」


 そう言うと、ナーゼの目から涙が溢れた。

 何か訳があると思ったが、俺はそれ以上は聞けなかった。

 性別が違う妹に似てると言われたけど、なぜか嬉しかった。



「妹のパメラは、生きていればイースより2歳上の12歳よ。 2年前に亡くなったの。 笑顔が、とても可愛かった。 私は、ムートから出られず、死に目にさえ会えなかった。 手紙で知った時は、凄く悲しかった。 イースは男の子だけど、女の子みたいに可愛い顔をしてる。 どことなく、妹に似ている」


 ナーゼの目から、涙が流れ落ちた。



「俺も、悲しいです」


 ナーゼは、俺の顔を再び食い入るように見た。


 とっ、その時である。


 Cクラスの手下の女子が、夕食を運んできた。統括ボスともなると、食堂に行かなくて済むようだ。



「ナーゼ様、夕食をお持ちしました」



「ご苦労。 そなたへの伝令がある。 ここにいるイースだが、私の4人目の手下とする。 初めての男子の手下である。 全ての配下に伝えよ」



「承知しました」


 伝令を受けると、手下は、料理を机の上に並べた。



「ナーゼ様、魔法修練場Sクラスのシモン様から、深夜、来てほしいとの連絡がありましたが、どうされますか?」


 

「行くと伝えよ」



「承知しました」


 要件が済むと、手下は部屋を出た。

 


「シモン。 忌々しい奴め」


 ナーゼは小さく呟くと、凄く嫌な顔をした。

 俺は、見てはならないものを見た気がした。

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