第12話 再会と別れ

「私の事を覚えてる?」


 少女は、笑顔で俺に尋ねた。



「魔法の門に入った俺を …。 あの時、命を救ってくれたご恩は一生忘れません。 ビクトリア様」



「そうよ。 あなたは、イースよね」


 彼女が俺の事を覚えていてくれて嬉しくなり、つい笑顔になってしまう。



「それにしても、随分と背も伸びて男らしくなったわね。 正直、最初は女の子だと思ったのよ。 男の名前だったのと、自分の事を俺と言ったから男子だと分かったけど、あの時は驚いちゃったわ」



「ナーゼ …。 いや、ナーゼ様にも女の子と間違えられたんです」


 チラッとナーゼを見ると、彼女は手のひらを見せて、俺の話に割り込んできた。



「イース、いつもの呼び捨てで良いのよ。 ビクトリアには、話してあるから」



「そうよ、聞いてるわ。 ナーゼに代わって、イースの事は、私が責任を持って守るから」


 2人の話しを聞いて、俺は何を言っているのか分からず、唖然とした。


 しかし、ナーゼは続けた。



「ありがとう、ビクトリア。 イースは私に取って、弟のような存在なの。 彼は十分に強くなったけど、私が目をかけた分、逆恨みや嫉妬心を抱く者が大勢いる。 それにAクラスの、後任のボスとなるジダンは、イースの事を目の敵にしてる。 イースに万が一の事があったりしたら …。 それだけが心残りなの。 でも、ビクトリアが付いていれば安心だわ」


 ナーゼは笑顔だが、目に涙を溜めていた。俺は、凄く心配になった。



「ナーゼ、どういう事?」


 俺は、ナーゼの事が心配になり聞いた。



「実は、1週間後にムートを卒業して、戦地に赴く事になったの。 急な話しだったから前もって言えなくてごめんね。 ビクトリアにイースの事をお願するしかなかった」


 ナーゼの、こんなに落ち込んだ姿を初めて見た。それだけに、俺も辛くなってしまった。



「ナーゼはAクラスでトップじゃないか。 Aクラスの上位3名は、高等クラスを飛び越えて17歳で卒業し、子爵の爵位が与えられ 、1年の中隊長経験を経て大隊長になるんだろ。 皆んな知ってる事だ。 それが、まだ16歳なのに戦地に赴くって何だよ? おかしいだろ!」


 俺は、自分の事のように心配した。



「そうね。 でも、辺境の村の狩人の娘には、子爵は適用外だった見たい …。 それとも、貴族に逆らった報いなのかな?」


 ナーゼは、呟くように答えた。



「ナーゼは、本来であればSクラスに入るべき天才なの。 それを貴族達は、実力と関係のない素性で差別して認めなかった。 だから彼女は、その悔しさから、魔法使いと騎士の両方を極めた。 そんな人、他に居ないわ。 貴族達が、この国を歪めてる」


 そう言うと、ビクトリアは悔しそうに唇を噛んだ。



「私が赴任するのは、サイヤ王国との国境なの。 そこで、小隊長として戦う事になる。 それは、私の故郷のパル村を守る事にも繋がる。 だから頑張れる」


 ナーゼは、全てを吹っ切ったように笑った。それは、いつもの美しい笑顔だった。



◇◇◇



 ナーゼがいなくなると、直ぐに周りが騒ぎ出した。そして、俺への批判や攻撃が始まった。


 これでも、俺はBクラスのボスだから、自分より下位の連中は抑えられる。しかし、上位のAクラスの連中には、とても敵わない。

 厄介なのは、上位クラスと結託して迫る連中だ。俺は、ついに脅しに屈し、ボスの座を明け渡した。


 Bクラスの新しいボスは、ソニアという女子で、Aクラスのボスであるジダンと仲が良い。まるで、恋人のようだ。俺は、ジダンに完膚なきまでに叩きのめされたが、その事を言われる度に惨めになる。


 Sクラスのビクトリアが、ナーゼの代わりに俺を守ると言ったが、魔法使い修練場からでは目が届かない。それに、こちらから連絡したくても方法が分からなかった。Sクラスは、一般の修習生から見ると、雲の上の存在だった。

 いや、それ以上に、彼女に頼る事など、俺のプライドが許さなかった。


 対立は、最初はボスをかけた争いだったが、俺がボスの座を追われると、次第にエスカレートして行き、今ではソニアを中心とした集団イジメに発展している。

 そのせいで、俺の居場所は無くなりつつあった。


 そんな俺でも、話し相手はいた。Cクラスのベアスだ。

 俺といると、彼までイジメられると思うが、気にせずに来てくれる。


 ベアスは、昔は臆病で隠れてばかりいたが、今は違う。心身の成長とともに陽気も充実し、精神も鍛えられたのだ。それは、俺も同じだった。


 そんな中、2人に取って、最大の危機が迫っていた。



「なあ、イース。 ナーゼがいなくなって、周りに良いようにされてるが、仲間を増やさないと潰されるぞ。 Cクラスの俺が加勢しても、戦力外なのが辛いぜ」



「ベアスが、そう言ってくれるだけで励みになる。 ありがとう。 集団で来られた場合、ボスを倒すのがセオリーだが、さすがにAクラスのジダンには敵わない。 実は、一度、奴に半殺しにされたんだ。 それからは、Bクラスのソニアにやられっぱなしさ。 恐らくジダンはソニアの恋人だ。 彼女は強くないのに、まるで、虎の威を借る狐だよな」



「それを、イースが言うのか?」



「違いない! ナーゼがいたらな …」


 俺とベアスは、腹を抱えて笑った。

 

 とっ、その時である。



「楽しそうだな!」


 そこには、屈強な大男が仁王立ちしていた。

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