第6話 俺は可愛い女の子

「改めて見ると、おまえ可愛いよな。 本当に男子なのか? 本当は、女子なんだろ。 なあ、キスしても良いか?」


 暗闇に目が慣れて、ベアスの表情が見えるだけに気持ち悪い。



「変な事を言うな! 俺は、男だ!」



「じゃあ、股間を見せろ。 付いていたら信用してやる」



「さっき、浴場で見ただろ」



「そんなの見てねえよ。 ナヨナヨした弱っちい身体は見たが、股間のシンボルは目に入らなかった。 それに、胸ペッタンなのは、まだ子どもだから女子でもおかしくない。 正直に話せ! おまえは、女の子なんだろ」



「だから、俺は男だって! 絶対に嘘は言ってない。 今度、浴場で見れば分かるさ。 でも、ここで見せるのは嫌だ!」


 興奮してる様子のベアスが、気持ち悪くて仕方ない。



「そこまで言うなら、信用してやっても良いが …。 でもイジメられないためには、女子になり切るしかねえぞ。 陽気が発現して強くなったら、いきなり男に戻れば良いさ」


 ベアスは、振られた男のように機嫌が悪くなった。



「なあ、イース」



「えっ?」



チュッ



 ベアスは、いきなり俺の口にキスをした後、就寝場に走って行ってしまった。

 やはり、女子だと勘違いしてるようだ。



 俺は、結局、修練場に1人残された。布団も無かったが、野宿に慣れていたため苦にはならなかった。


 しかし、人生初のイジメやファーストキスを奪われた事もあり、メンタルは最悪だった。

 故郷の事を思うと、情けなくて涙が止まらなかった。



 結局、悔しくて早朝まで眠れなかった。

 そのため、剣や衣装を就寝場に置いてあった事に気づく事ができた。



(取りに行くの嫌だな)


 危険を犯しても、取りに行かなければならない。カザフ達に見つかると思うと怖くて体が震えたが、意を決して就寝場に向かった。



 就寝場につくと、そこは静まり返っていた。


 忍び込むように入ると、皆は雑魚寝状態で寝ていた。


 よく見ると、女子はまとまって窓際の良い場所を確保している。

 ベアスの言っていた、ナーゼと言う統括ボスの力なのだろう。


 ベアスを探したら、女子が寝ている隙間のような場所に埋もれるように寝ていた。浴場で目立たないように紛れ込んでいた姿が目に浮かび、可笑しくなった。


 俺は、寝ている人を踏まないように、抜き足差し足で荷物の場所に近づいて行った。


 寝ぼけて足を掴む者もいたが、起こさずに進めた。

 そして、何とかたどり着いて、荷物を持ち上げたその時である。



カラーン、カラーン


 鈴の音が鳴った。



「んっ、あの野郎が来たようだ!」


 近くで寝ている男子がムクっと起き上がった。

 眠そうな顔をした、カザフだった。



「おいっ、どこに逃げてた! テメエを鍛えようと待ってたんだぞ! 直ぐに廊下に出ろ」



「どうした、カザフ?」


 カザフの仲間も起きてきた。



 俺は、連中に腕を抱えられ廊下に出された。



「どこに逃げていたんだ? タップリと鍛えてやるからな」



「カザフ、違うだろ。 可愛いがってやるだろ!」


 カザフの仲間が、息を荒くして俺を見た。

 凄く、気持ち悪かった。



「可愛いがるって何だよ?」


 俺は、訳が分からずに聞いた。



「じゃあ、教えてやる。 ここでは女子に手を出せない。 もし出せば、ヤバい女子に殺されるからだ。 女子に乱暴した男子は、必ずいなくなる。 もう、10人以上になる。 だから我慢できない時に、男子を抱くのさ。 特におまえのような可愛い男子が必要だ。 女子を抱いてる気分になれるからな。 ヒヒヒ」


 気持ち悪くて、吐き気がした。



「おまえのように可愛いと、不細工な女子よりも興奮するぜ!」


 カザフが、俺を舐めるように見た。



「カザフも、本音が出たな! ヒヒヒ」


 気持ち悪い笑い声が共鳴した。


 コイツらは、最初から俺の体が目的だったようだ。とんでもない変態だった。



「さあ、脱げ!」



「近寄るな!」


 俺は、後退りした。



「おい、動けなくしろ!」


 カザフに言われ、背後にいる1人が俺の背中に手の平を当てた。

 すると、不思議な事に力が抜けて座り込んでしまった。



「お願いだから、やめてくれ!」


 自然と泣き声になる。自分の非力さが恨めしかった。



「おい、手足を押さえろ」


 カザフが言うと、3人がかりで手足を抑えられ、身動きが取れなくなった。



「おい、女だとヤベエから胸を見て確認しろ」



「やめろ!」


 しかし、抵抗虚しくシャツを捲り上げられてしまった。



「ほら、ペッタンこだ。 男子だろ」


 カザフが、俺の胸をジロジロ見て喜んでいる。本当に気持ちが悪かった。



「私は女よ! まだ10歳の子どもだから胸はないだけよ!」


 俺は、女子だと主張した。男のプライドを捨てたとしても、悪戯されるよりはマシだと思った。



「おい、ヤベエんじゃないか? 顔はどう見ても女の子だぞ。 それに筋肉もなくて柔らかそうだ。 もし、女子なら殺される」


 中の1人が声を上げると、3人の押さえる力が一瞬緩んだ。

 俺は、その一瞬の隙をつき逃げた。



「逃すな!」


 カザフの声がしたが、気にせず逃げた。



「助けて! カザフ達に襲われた! 私は女子よ!」


 俺は、就寝場に入り、ありったけの声で叫んだ。


 すると、窓際に寝ていた女子が、何事かとこちらを見た。


 俺は、声変わりしていないため、本当の女の子に見えたのか、数人の女子が俺の元に駆け寄って来た。



「襲われたって本当なの!」



「許せない!」



「カザフ達に襲われました。 怖かったです」


 俺は、涙を流して訴えた。

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