第5話 クラスの事情

 ベアスは、俺の顔をじっと見つめた後、しばし沈黙した。

 そして、また、いつもの調子に戻り話し始めた。



「ところで、初日の修練に遅刻した件だが、俺を見失ったにしては、遅すぎやしないか?」



「建物の途中にある扉から、外に出てしまったんだ。 そこで …」



「えっ、まさか、魔法の門に入ったんじゃ無いだろうな?」


 俺が言い終わる前に、ベアスは口を挟んだ。かなり、驚いた様子だ。



「その、まさかなんだ」


 俺は、魔法の門に入った経緯と魔法使いの修習生に助けられた事を説明した。


 

「あの門に入って出られたなんて、奇跡としか言いようがない。 あの門の話しは、最初に教官から聞くはずだが …。 まあ、その前に入ってしまったら防ぎようがないか。 イースは、案外大物なのかもな?」


 ベアスは、大笑いした。それに釣られ、俺も笑ってしまった。



「でも、魔法の門に引き込まれた人を助け出せるなんて、優秀な修習生もいたもんだな。 どんな奴だった?」



「綺麗な少女だったよ。 ビクトリアと名乗ってた。 今度、お礼がしたいな」


 彼女の事を思うと、なぜか胸が熱くなった。



「今、ビクトリアと言ったか? ムートの女神と呼ばれるビクトリアに会ったのか? 千年に一度の天才と言われる彼女と話したのか? 俺も一目で良いから、彼女に会って見たい!」


 ベアスは、興奮気味に俺の肩を揺すった。



「俺達と1歳しか違わないのに、そんなに凄い人だったのか? 背が高かったから大人びていたけど、本当に綺麗な人だったな」


 彼女の事を思い出して、また胸が熱くなった。



「えっ? すると、彼女は11歳なのか? 俺たちと変わらない子どもだったのか? 新しい情報だ!」


 ベアスは、何やら嬉しそうだ。



「そんなに有名なのか?」



「ああ。 普通は、魔法使い修練場の情報は伝わって来ないんだが …。 稀に魔法使い養成所からこちらに移る修習生がいるんだけど、そいつらから漏れ伝わって来るのさ」



「もっと詳しく聞かせてよ!」

 

 俺は、ビクトリアの事が知りたくてウズウズした。



「俺達より3歳上の、ナーゼっていう女子が話してるのを盗み聞きした。 そいつは、魔法使い修練場から騎士修練場に移ってる。 直に聞いた話だから、間違いの無い情報なんだ」


 ベアスは、少し自慢げに鼻を鳴らした。



「情報によると、魔法使い修練場には、Sクラスの修習生が3名もいるんだ。 ムート開設以来の快挙で、将来の国を支える3人と言われてる」



「騎士修練場にSクラスはいないと聞いたけど、魔法使い修練場にはいたんだね」


 俺は、思わず口を挟んだ。



「ああ、その通りだ。 神童や天才なんて、そう簡単にはいない。 だから、魔法使い修練場の方がおかしいのさ。 話は戻るが、魔法使い修練場のSクラスの一人はシモンという男子で年齢は16歳だ。 もう一人はガーラといって女子だ。 年齢は分からない。 そして、最後の一人がビクトリアだ。 これも年齢が分からなかったが、イースから聞いて分かった。 まだ、11歳の子どもだったなんて、俺ら2人だけの秘密だな!」


 ベアスは嬉しそうに笑った後、真剣な顔をして続けた。



「シモンは、高名な魔法使いとして尊敬されるグラン伯爵の子息なんだ。 だから、国都の人間なら誰でも知ってる。 ダデン家を継がれるお方だ。 イケメンで、しかも人格者なんだ。 俺も見た事はあるが、背が高くて格好良かったぞ。 俺達では、全然歯が立たない」


 ベアスはシモンを凄く褒めるが、そもそも俺達10歳と16歳では、年齢に差があり過ぎて比較にならないと思った。



「ちょっと聞くけど、ビクトリアはSクラスとはいっても年齢が違い過ぎるから、シモンとの接点は無いんだろ」


 俺は、ビクトリアとシモンの事が気になり、思わず聞いてしまった。



「それは、違うぞ。 Sクラスは年齢に関係なく選抜されるんだ。 だから、一緒に学んでる。 知らなかったのか?」



「そうなのか?」


 俺は、勘違いをしていた。そして、なぜかビクトリアとシモンのクラスが同じだと聞いて、暗い気持ちになってしまった。

 自分でも理解できない感情だった。



「もう1人のガーラだが、強力な攻撃魔法が使えるようで、教官も負かしたという、凄まじい女子だ! 彼女に関しては、それ以外の情報は無い。 おい、聞いてるのか?」



「えっ?」


 俺は、聞いてなかった。

 ビクトリアとシモンの事を、まだ考えていたのだ。


 ハッとして、気持ちを切り替えた。



「ああ。 それより、クラスについて教えてくれよ。 強くなるまでは目立たないようにしてイジメにも耐えるつもりだが、Eクラスにボスはいるのか?」



「ああ、いる。 2種類のボスがいるが、どちらが聞きたい?」



「2種類のボスって意味が分からないよ。 勿体ぶらずに、両方とも教えてくれよ!」



「しょうがねえ、教えてやる。 Eクラスのボスは、トラフという男子だ。 年齢は14歳で、上のクラスに上がれない鬱憤を晴らすために暴れまくってる。 体もデカイ。 ハッキリ言って屑だ。 カザフ達のグループもパシリに使われている。 決して近づいちゃならない」


 ベアスは、吐き捨てるように言った。



「それと、もう1人は?」



「もう1人は、さっき言ったナーゼだ。 俺好みの綺麗な容姿の女子だ。 彼女は魔法修練場からこちらに移ったが、騎士の腕前も一流で、しかも魔法も使える。 年齢は13歳でCクラスにいるが、CとDとEを統括するボスだ。 Eクラスにサーナっていう11歳の女子がいるんだが、彼女はナーゼのスパイだ。 だから、誰も手を出せない。 ナーゼは、女子の守護神だ。 彼女がスパイを使って見張っているから、女子をイジメる奴はいない」



「そうなのか …」


 俺は、2割しかいない女子に男子が屈している姿を想像して、かなり驚いた。



「そうだ、イース! おまえ女子のフリをしろ。 顔が綺麗で女の子みたいだから、いけるぞ! 就寝場でカザフ達に裸にされそうになっていただろ。 股間を晒される前に女子だと主張してサーナに近づけ! そうすれば、イジメられずに済むかも知れない!」


 カザフは、とんでも無い事を言い出した。

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