002.新規プレイヤーたちと遊ぶことでしか得られない栄養②

それからは、特にトラブルもなく、合間に雑談を挟みながら進んでいく。


「アイさん、敵が二体の時は単体攻撃と範囲攻撃どっちの方がいいですか?」


「ニンジャは単体コンボの威力が範囲コンボの威力の約2.2倍だから、二体なら単体コンボかな。三体以上なら範囲コンボ」


ちなみにコンボっていうのは技を指定された順番で繋ぐとダメージがお得なシステムのことね。


「なるほどー」


「逆に黒魔は範囲コンボの方が優秀だから、二体以上なら範囲コンボで良かったはず」


「そうなんですね」


この辺はジョブの特色というか差別化的な物である。


「アイさん、ヒールってどれくらいで撃てばいいんですか?」


「このレベルだとヒールでの回復量はタンクのHPの3割程度だから、7割切ったくらいで使えば大丈夫」


「はい!」


「サムライってどうやってなるんですか?」


「レベル60になったら受注できるようになるクエストでなれるかな」


「アイさん……、その装備カッコいいですね」


「あっ、それあたしも思ってた」


今着ているのはいわゆるオシャレアイテムで、軽装鎧の中では根強い人気のあるシリーズだ。


ちなみに正しくは性能優先装備の上からオシャレ装備の見た目を上書きしているんだけど説明は割愛。


「ありがと。この装備ならバザー出品可だから、みんなでもゴールドが足りれば買えるよ」


まあ足りないだろうけど、なんて付け足すと上級者マウントみたいになるのでもちろん言わない。


「あとで調べてみます!」


ちなみに初心者の所持金では手の届かない金額だろうけど、長くやってるプレイヤーにはそこまで高い物でもないので「あとで買ってあげようか」なんて言いたくなる気持ちをぐっと抑える。


新規プレイヤーにアイテム渡しすぎて恐縮させてしまう上級者なんていうのも怪談としてネットで目撃報告が散見するから、自分もそうなったりしないように気を付けないとね。


「そういえばクロちゃんは黒魔だからクロちゃんなの?」


「いえ……、偶然です」


「そうなんだ。でも似合ってると思うよ」


黒髪片目隠れが一番似合うジョブと聞かれれば間違いなく黒魔なので、少なくとも今の彼女のキャラメイクとの親和性は高い。


あの髪型も複数の選べるテンプレートの中から自分で選んだんだろうし。


「アイさんは……、ホーリーナイトがメインジョブなんですか……?」


「んーん、あたしはどのジョブも遊ぶけどランダムマッチはタンクが一番早いから使ってるだけ」


「どのロールもできるなんて、凄いです……!」


「ありがと。きっとクロちゃんも慣れたら他のジョブもできるようになると思うよ」


というか宗教上の理由で同じジョブしか使わない人間以外は、一通りのロールを触る人間の方が多いしね。


たまに自キャラをもうひとり自分か何かのように扱ったり、これと決めた一つのジョブしか使わなかったりする人間もいるけどあたしはそんな感じじゃない。


そういう濃い目のロールプレイしてる人は不便そうだなーと思いつつも否定はしないけど。


なんて話をしながら、サクサクッと最後のボス。


「なんか、デカくないですか……?」


「そうかな?」


あたし達の目の前に鎮座するタコは二階建ての一軒家くらいのサイズ。


まあ確かに主観バトルするには威圧感があるかもしれない。もう慣れたけど。


「いや、デカいですって!」


叫んだノゾミちゃんに、他の二人も若干及び腰でうんうんと同意する。


「まあアリスちゃんとクロちゃんは魔法で遠距離攻撃できるから、ちょっと離れた所に立ってても大丈夫」


「あ、あたしは……?」


「ノゾミちゃんは……、がんばって!」


あたしが勢い良く親指を立てると、絶望した顔が綺麗に浮かぶ。


VRでもここまでちゃんと表情が再現されるんだなー、なんて感心したのは秘密ね。


「そ、そんなー……」


本当はDPSひとりくらい攻撃しなくてもクリアはできるんだけど、まあそうやって甘やかしてもどうせ後で困るだろから黙っておこう。


「ほら、ヘイトはあたしが取るからノゾミちゃんは横から攻撃してればきっと大丈夫だから」


「ちなみに攻撃されたりはしないんですよね……?」


「タンクは触手で吊り上げられてそのままポイ捨てされたりするかな」


「コワイ!!!」


体感的には瞬間的に絶叫マシンを食らうような感覚だけど、VRなおかげで気持ち悪くなったりはしないから問題はない。


そしていつまでも躊躇っててもしょうがないので、サクッと話を進める。


「それじゃあ行くよー」


「うー」


「がんばれー」


「がんばって……」


あたしがファーストアタックをすると、キャスター組二人の声援を受けてノゾミちゃんはゆっくり近づいて攻撃をしていく。


本当は触手攻撃はタンク対象ではなく、ヘイト1位対象なのであたしが戦闘不能になったら彼女たちの誰かに飛んでいくことになるのだけれど、それは黙っておいた。


流石にこの難易度じゃほぼ死なないしね。




「お疲れ様ー」


「「「ありがとうございましたー」」」


無事にボスを倒して宝箱の自動配分を済ませる。


たまにこんな風に新人ちゃんにちやほやされるからランダムマッチはやめられない。


まあ報酬のゴールド他が美味しいから新規と当たらなかろうが結局やるんだけど。


「そういえば三人はスクリーンショット撮ったことある?」


聞いてみると揃って首を横に振るので、折角だからとカメラを取り出す。


このカメラはゲームシステムの一部でその姿の通り写真と動画の撮影ができる。


あとそのままライブ配信も出来たりするけど、あたしはやったことはないので詳しくは知らない。


そんな小型の防犯カメラのような見た目のそれを、すっと空中に浮かせてそのまま少し離れた所に静止させる。


「それじゃあ撮るねー」


自然にあたしを挟んで左右に並んだ彼女たちとカメラに視線を向けると、フラッシュと一緒にパシャリと音がした。


そのあと手元に戻したカメラを片手に消費アイテム(1つ100ゴールド)を使用すると、現像された写真が現れる。


「はいどうぞ」


一人ずつに手渡した写真はそのまま飾ることもできるし、映像データとして記憶容量側に保管することもできる優れものだ。


なんならそのまま外部SNSに貼ったりもできるしね。


「撮影自体は誰でもできるから、何かあったら撮影しておくとあとから見直せるよ」


「そうなんですね」


そもそもカメラ機能を知らなかったのか、嬉しそうに写真を眺めている三人を見ながら、今度こそIDから抜けるために出口へ身体を向ける。


「それじゃあバイバイ」


初IDクリアと記念撮影に盛り上がっている三人の邪魔しないように手を振って帰還ポイントに向かうと、後ろから声をかけられた。


「あのっ」


「んー?」


振り返ると、ノゾミちゃんがこちらを見ている。


少し見上げるような視線の雰囲気で、やっぱり中の人は若そうだななんて意識せずに思う。


悪い大人に引っ掛かりそう、なんてわざわざ余計なお世話はしないけど。


せっかく三人で楽しく遊んでるのに上から目線で説教されてもなんにも面白くないじゃんね。


「フレンド登録お願いできませんか!?」


「あー」


フレンド登録すると、ログイン状態の確認、専用のメッセージ機能、プレイヤーホームの入室制限、プレゼント機能など様々な便利要素がある。


まあそんな細かいことを抜きにして、文字通りお友だちになってくださいって申請する方が多いだろうけど。


そもそもMMOじゃフレンド登録しないと関わるのすら困難だしね。


そんなお願いにうーん、と一応考える素振りをするが答えは決まっていた。


「ごめんね、フレンド登録は二回以上会った人としかしないことにしてるの」


とりあえずフレンド登録して、そのあと久しぶりに会って声かけられても「誰?」ってなる経験を何度か繰り返してから、少なくとも二回接点を持つまではフレンド登録しないルールに決めているのだ。


誰だって学校進学してから新環境で連絡先交換したけど結局そのまま一度も使わず忘れ去られるなんて経験はあるだろう。


リアルならそれでもいいんだけど、ネトゲの中だとこっちが忘れててもあっちは覚えてたりしてめんどくさいのよね。


一々「ごめん、覚えてない」って謝るのもめんどくさいし。


まあそもそもあたしが人の顔を覚えないし自主的に絡みにもいかないコミュ障の駄目人間だからなんだけど。


「という訳で、ノゾミちゃんたちが悪い訳じゃないから気にしないで」


前途有望な新規ちゃんを曇らせては悪いので、一応のフォローをして立ち去る。


これで知らない人に話しかけるのがトラウマになられたりしたら困るけど、まあたぶん大丈夫でしょう。


なんと言っても元から仲良し三人組が形成されてるくらいだしね。


ネトゲにおいて、リアフレがいるというのはそれだけで強いのだ。




ちなみに、彼女たちとはまた再会することになるんだけど、それはもうちょっと先のお話。




転送が終わると、IDに入る前にいた街中へ戻ってくる。


好きな場所でコンテンツを申請して時間を潰せるのがこのゲームの便利なところで、あたしはマッチングが完了する前はお使いをしていた。


なんならプレイヤーホームでゴロゴロしながら待ってることもできるしね。


VRMMO特有の、リアルの街中と同じような喧騒に包まれるとなんだか安心するんだけどこの気持ち伝わるかな?


もはや現実よりもこのファンタジーな風景の方が落ち着く、なんて言うと社会不適合者みたいで嫌だけど。


「アイちゃーん」


「んー?」


急に名前を呼ばれて、一瞬同名の別人が呼ばれてるのかな?なんて思ったけど聞きなれた声だったのでそれもないかと思い直す。


「結婚しよっ!」


そんな意味不明な言葉と共に後ろから首に抱きつかれ、あたしは背負い投げの要領でそいつを投げ捨てた。




☆ハラスメント、ダメ、ゼッタイ!




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新連載1話を読んでいただきありがとうございます。


今日から1週間は毎日17時に投稿予定なので、ぜひ明日以降もお付き合いください。


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