レベルカンストプレイヤーのVRMMO婚活日記 〜コミュ症ぼっち、MMO最難関コンテンツ『結婚』に挑戦する〜
あまかみ唯
第一章
001.新規プレイヤーたちと遊ぶことでしか得られない栄養①
マッチングが完了して、ダンジョンの中に転送される。
このゲームはVRMMOだが、ダンジョンは攻略パーティー毎に生成されるインスタンスダンジョンがメインになっているので貸し切り状態だ。
わかりやすくいうと、モンハンのフィールドみたいなものね。
さてどこに飛ばされたのかなと周りを見渡すと、薄暗い鍾乳洞の中だった。
光源は地面と壁に生えている自然発光する珊瑚だけだけど、それでも行動するのに支障はない程度には明るくて幻想的な風景を作りだしている。
あたしも初めてここに来た時はそのリアルな雰囲気に感動したなー、なんて思ったりしたけど今ではもう慣れたもので幼馴染みの顔くらいに新鮮味がない。
フルダイブ型VRMMOのこのゲームでは肌で感じる空気までリアルに再現されて、冒険や戦闘も本物とさほど遜色ない臨場感で体験を得ることが出来る。
まあそのせいで、『怖すぎて無理!』なんて話題が定期的に公式掲示板にあがったりするんだけれど。
ちなみにここは、このゲームのプレイヤーが一番最初に体験することになるダンジョンでレベルがカンストしているあたしには用がないマップ。
ならなぜここに立っているのかと言われれば、ランダムなダンジョンでランダムな相手とマッチングされてクエストを行うと一日一回報酬がもらえるデイリーミッション的な物のためで。
このゲームにはそういうボーナスコンテンツがいくつかあり、プレイヤーからは『デイリー』、もしくは『日課』なんて言われたりしている。
「わあっ」
入口の方から現れたプレイヤーの一人が声を上げる。
視線を向けるとそこには三人組の女子が立っていた。
キャラクターの見た目は高校生くらいだろうか。
まあ見た目の中身の年齢が同じとは限らないし、そもそもこのゲームだと性別もリアルとは別にできるんだけど。
小人族でキャラメイクして小学生くらいの見た目の成人プレイヤーとかもよくいるしね。
「こんにちは」
こちらから挨拶をすると、女子三人組からも「こんにちは!」と元気な挨拶が返ってきた。
「三人はフレンドかな?」
「はい、三人で一緒に遊んでるんです!」
三人の中のひとり、赤い髪の元気そうな子が答える。
このゲームのIDは4人一組で攻略するのが基本なので、彼女たちの穴埋めにあたしがマッチングされた形だ。
フレンドが指の数くらいしかいないあたしには、仲良し三人組はとても眩しい。
折角なので仲良しな新規ちゃんたちに混ざって遊ぶことでしか摂取できない栄養を補給させてもらおう。
「アイです。よろしくね」
「ノゾミです!」
「アリスです」
「クロ……」
視界に表示されたパーティーリストには三人のキャラネームとジョブ、あとHP/MPが表示される。
赤いショートの子がノゾミちゃん。アタッカーでジョブは忍者。
金髪でロングの子がアリスちゃん。ヒーラーでジョブは白魔術師。
黒髪で片目隠れの子がクロちゃん。アタッカーでジョブは黒魔術師。
三人とも最初にジョブを選んだ後に貰えるそれっぽいけど豪華すぎない装備を着ているので、ちゃんと駆け出し冒険者って雰囲気が出ている。
そしてあたしがタンクのホーリーナイト。
基本的にIDはタンク1、ヒーラー1、アタッカー2でマッチングされる。
ちなみにタンクは不人気なので、ほぼ即マッチングで日課を消化するのに優れているというのがあたしが今ホーリーナイトな理由だ。
「三人ともここに来るのは初めて?」
「そうです」
「じゃああたしが先導するね」
そう言って前に出ると「よろしくお願いします」と三人の声が重なった。
「アイさんはレベル90なんですね」
「そうねー、一応カンストしてるかな」
このゲームの今のレベルカンストは90。
なんで100じゃないのかと言われれば、初期パッチの50カンストから大型アプデ1つごとに+10されていった歴史があるから。
ちなみにこのゲームのコンテンツは入った時に適正レベルに自動調整されるから高レベル無双とかは出来ないシステムになっている。
ここのIDならレベル20相当のステータスになっててダメージ表記がカンストの1割未満だったりね。
「じゃあ上級者なんですね!」
このゲームは普通にやってれば誰でもレベルカンストするし、実際にあたしが上級者かと言われれば答えはノーなんだけど、わざわざ訂正しても誰も得しないのでいい感じに誤魔化しておく。
「まあそれほどでもあるかな」
もし知り合いがいたら指差して笑われそうな台詞だけど、ここには他に誰もいないから問題ない。
IDサイコー!
「なにかレベル上げるコツとかってありますか?」
「そうね、毎日デイリークエストやりながらメインクエスト進めてれば、一先ずは困らないかな」
「そうなんですねー」
というかメインクエストやっていけば、他にレベル上げしなくても自然にレベルカンストするように作られてるのよね。
メインジョブ1本だけの話だけど。
なんて話していると洞窟の先にモンスターが見える。
「それじゃあ最初の戦闘だけど、みんな準備はいい?」
「はい!」
あたしの確認に頷く三人を確認してから軽く駆け出して前に出た。
「『挑発』!」
初手は遠距離スキルを投げ、そこから範囲攻撃で全体のヘイトを取る。
タンクは他のロールのジョブより耐久力が高いので、タンクがヘイトを取って攻撃を受け、ヒーラーがタンクを回復している間にアタッカーが殲滅するという構成になる。
つまりあたしがタコ殴りにされてる間にみんなで敵をタコ殴りにしよう作戦だ。
わかりやすいって素晴らしいね。
『ストーンシールド』
あたしが20秒間被ダメージを20%軽減するスキルを使うと、HPの減りがちょっとだけ遅くなった。
それでも雑魚5体ほどから囲んで殴られて、HPが7割を切ったあたりでアリスちゃんに声をかける。
「アリスちゃん、ヒールよろしく」
「はいっ」
丁寧な返事から詠唱が入り、キュインと音がするとHPがほぼ全回復まで戻った。
「うん、良い感じ」
なんてやりとりをする間にもアタッカーの二人が攻撃をしていて、あたしとアリスちゃんも攻撃スキルでいくらかのダメージを与え雑魚を全て倒すことができた。
「みんな上手いね、この調子ならサクサク終わりそう」
初IDの前にもメインクエストで個人の軽い戦闘があるのだが、そっちで基礎的な動きには慣れているようで三人とも問題ない。
「ほんとですか?」
「アイさんもスッと動けてて凄いです」
「うん……」
と初心者三人にチヤホヤされて、正直とても気持ちが良い。
そもそも初見ちゃんに囲まれてる時点でドヤ顔しても誰にも咎められないのに、更に凄い凄いと持ち上げられたらもうここは天国だ。
うーん。調子に乗らないように気を付けないと。
ここで初心者相手に上級者風を吹かせても客観的に見れば恥ずかしいだけだからね。
「それじゃどんどん行こっか」
「はーい」
ということでタンクの役割として先頭を歩いて敵の攻撃を受ける。
そのまま雑魚のグループを何度か倒すと、大きな扉の前に出た。
「この後ボス戦だけど、基本は雑魚と変わらないから同じようにやれば大丈夫。気楽にね」
「はい!」
ということで入室。
全員で中に入ると背後で扉が閉まり、奥からボスが現れる。
豹と似た姿のそのモンスターは、人と同じくらいの高さがあってリアルで遭遇したら死を覚悟するような迫力があるけれど、ゲームの中ではただの見慣れたボスだ。
最初にあたしが遠距離スキルを投げて戦闘開始。
先ほど自分で言ったように基本的にはさっきまでの雑魚戦と一緒だが、少しすると地面にボスを中心とした赤い円形範囲が表示される。
これは攻撃の範囲予兆で、内側にいると大ダメージを食らうので避けてくださいねというもの。
難易度が上がると仕組みがもっと複雑になったりするのだけど、今回は最初のIDということで見たままだ。
そんな予告線を避けながら視線を動かすと、三人もその表示の意味を理解して外側に避けていた。
うーん、優秀。
ちなみにこのゲーム、VRMMOでありながらアクションにはさほど比重を置いておらず、敵のパンチを見切って避ければノーダメージとか弱点を的確に攻撃すれば即死とかそんな要素は存在しない。
あるのは単純に攻撃の範囲内に立っているかどうか、攻撃の当たる距離にいるかどうかであり、ダメージはスキルの威力とお互いのステータスのみで計算される。
つまりリアルで格闘技をやってるから有利、なんてことは微塵もない。
必要なのはギミックを避ける判断力と、効率良くスキルを回す思考力だ。
まあどっちにしろここのIDだとどうでもいい話なので詳細はまた今度ね。
ということでボスは危なげなく討伐完了。
この雑魚→ボスという組み合わせを数回やったらIDクリアなんだけど、その間に宝箱タイムがある。
「開けていいよ」
と促すと、三人がボス部屋の中央に出現した宝箱を一緒に開ける。
中身はここのIDの適正レベルな装備がランダムに三つ。
表示された内訳は武器、帽子、鎧だ。
「これ、どうすればいいですか?」
一人ずつ空中にシステムウィンドウが現れ、その装備をどうするかの選択肢が表示される。
「基本的には全部『want』でいいよ」
その装備が欲しければ『want』を、必要ないなら『pass』を選べばシステム側が自動で『want』選択者の中から抽選して配分してくれる。
そして『pass』しても基本的に得はないので、全部『want』を選んでおけば問題ない。
まああたしは要らないから全部『pass』だけど。
そして全員が希望を出したら自動配分完了。
システムログが流れてどう配分されたか表示される。
「クロちゃんは帽子を装備できると思うよ」
「ほんとだ……」
配分された装備で帽子は黒魔導士が装備可能かつ今の装備よりステータスが上がるものだったので、彼女が個人のステータスウィンドウを操作して装備を切り替える。
するとグラフィックが今まで装備していたフードから、とんがり帽子に切り替わった。
「似合ってるね!」
「格好いい!」
なんて褒める二人に頷いてからクロちゃんがこちらを見る。
「うん、似合ってる」
「ありがとうございます……」
口調は控えめだが、それでも嬉しそう。
って言ってもあたしが何かしたわけじゃないけどね。
まあ彼女たちが喜んでくれたならよかったよかった。
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