第12話 趣なしのシャッター街

 「ここが商店街。見ての通り、シャッター街。」


 紗南が視線を送る先には『商店街へようこそ』という看板があった。


 それの擦れた文字のお出迎えを受けて、僕らは中へ進んだ。


 紗南の言葉通りのシャッター街。


 看板があるから廃業した店が立ち並ぶ商店街、という設定なのだろう。


 所々にチラシや容器が散乱しているし、もしかたら何か探し求めるものが見つかるかもしれない。


 そんな期待感が膨れ上がっていた。


「真道、ここから入れるみたい。」


 紗南が自由過ぎる件について。


 これについて議論が必要な気がするのは、僕だけなのだろうか。


 もう少し、不気味がってもおかしくないシチュエーションなのに、紗南は物おじせず廃墟と化した家々に土足で入っていった。


「ああ、今から行く。」


 僕は彼女に続いて、店舗の奥にお邪魔させてもらった。


 内装は、率直に申し上げて普通だった。


 所々黄ばみの目立つ白の壁紙に、使い込まれたキッチン、一般家庭と大差ないリビングにテレビ。


 外からの感じ三階建てだから上に繋がる階段も当然存在する。


 しかし、困ったことに廃墟のわりに、異変が無さ過ぎてどこから手を付ければいいのか分からなかった。


 とりあえず紗南を二階に行かせたが、捜索と言える程探すという作業を必要としないだろう。なんせ物が少なすぎる。


 ん? 物が少なすぎるか、だったら……。


 僕は彼女一人を残して家を出た。そして裏に回り仮説の確証を得た。


 何でこんな陰湿な事をするかな……。


 見落としていたら、間違いなく時間のロスに繋がっていた。


「紗南。鍵とか見てないか?」


「あー、それならそこの引き出しの中に入ってるぞ。」


「サンキュー。」


 僕は腰をかがめて、錆びた黄土色の鍵を入手した。


 これからは、もう少し疑いの度合いを強めたほうが良さそうだと、僕は決心した。


 一分一秒でも無駄にさせようという心理の元作り上げられた残酷な要塞に、優しさなんていう甘えは存在しない。


 あいつは確実に僕ら五人を殺しに来ている。


 「やっぱりな……。これだけ大量の荷物があればどこかに手掛かりがあるはずだ。」


 そこには、裏路地に置かれた鼠色の普遍的な倉庫に、家具から、料理器具、勉強道具まで全てがここに収納されていた。


 これだけの量を入れたのも、発見する時間を遅くさせる嫌がらせだろう。


 小さな紙きれを探す手間を増やしたのだ。思っていた以上に量が多い。


 まだ半分以上の段ボールが残っているのにもかかわらず、時計の針はてっぺんを超えた。


 隣近所にはそう言ったものが見受けられない。それが不幸中の幸いだった。


 「真道、こんな所にいたのか……。上の階は終わったよ。次はどうする。」


 紗南は高揚したような表情を浮かべ、息を切らしながら僕の指示を仰いだ。


「他の家を調べておいてくれないか。多分だが、他の所はすぐに片が付きそうなんだ。」


 僕は紗南を見上げて言った。


「分かった、見てくるよ。」


 そんな僕の願いを何の躊躇も無く聞き入れた彼女は、走って次の現場に向かってくれた。


 彼女の後姿が僕にはどこか逞しく見えて、無意識的に微笑んでしまった。


「戻ったぞ。他の家には何もなかった。」


 若干笑顔を浮かべて、急いだのか、紗南は更に息が上がっていた。


 やる気に関しては人一倍あって、僕なんか比較対象にならないくらいエネルギッシュだった。


「そうか、分かった。」


「ああ。じゃあこっちを手伝うな。」


「休まなくて大丈夫なんか? さっきから動きっぱなしだろ。」


「いいよ。何だか私って体力あるみたいだし。」


 僕は、紗南の輝いている目を見て、これ以上言っても野暮だからやめておこうと思った。


 調べ終わった段ボールを除くと、残りは四つか……。


 でも一番手前のやつは、防災用品だから望みは薄そうだ。多分残り三つの内に入っているはず。


 そして三つの段ボールを並べてみると、そこには資料の山があった。


「あったよ。メモ見つかった。」


「ああ、こっちもだ。」


 手分けして探した結果、手掛かりは三つ見つかった。しかもいい感じに時系列になっているから、状況としては良好だと思う。


 これは良い報告が出来るだろうという予測が、安易に立てられて、僕は少し誇らしい気持ちになった。


「五月二十九日。また今日も殴られた。僕何もしていないのに……。」


「六月二十日。あれから一か月が経ってもまだ続いている。しかも根も葉もない噂が広がっている。」


「七月三十日。夏休み三日目、学校で夏期講習があった。その時、身に覚えのない事で悪口を言われた。どうして僕ばかりがこんな目に……。」


 そう三つ続けて言ってみたものの、分かった事は、書いた人物がいじめられているという事だけだった。


 これだけ労力を払って、これだけだったのか。そう残念がる自分がいる事は否めなかった。


 僕は諦めて段ボールを元に戻そうと立ち上がった。

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