第11話 移動中の眺望
僕はおもむろに思い出してみた。
あれは、二時間前の話。まだ基地の中で作戦会議をしていた時。
「今日は二手に分けて、捜索をする」
今日も司令官言こと、俊也はご健在の様子だった。
深夜、あきと昇降口前の階段で休んでいた際、鳴り響いていた轟音を聞いた時は少々心配したが、万全の顔色がその心配をかき消してくれた。
「でも何で二手に分かれるの?」
「なんでよ。効率が落ちるじゃないか」
「ううん。そうじゃなくて……」
僕は二人の意見を否定した。順を追って、理由付けをしながら、自分の意見を話した。
「今は効率より安全重視。人員が一人でもいなくなれば、こちら側の損害は大きくなるでしょ? それを防ぐために、二人で行動すれば一人が緊急事態でも、すぐに対応が出来るから」
まだ始まって二日目。
始まって間もない今、無理な行動を起こして下手に戦力を失うのは自殺行為に近い。
早く脱出したい気持ちもあるが、今はそのはやる気持ちを抑えて、安全に行くのが先決だと思う。
対立した二つの意見は僕と司令官側の意見でまとまり、行動に移っていく。
「真道、ありがとう。そう言う事だから。これからくじを引いて、赤同士もしくは白同士がペア」
「余った人がここに残って、緊急事態の時のために準備をしておいてくれ」
司令官は大まかな概要を説明して、机の下から手のひらサイズ程のくじを取り出した。
「なあ、くじってどうやって作ったんだ?」
「それはな、机の破片とか集めて、落ちてた赤と白のテープを使って作ったんだよ」
平然とした顔で、僕の質問に受け答えしてるけど、冷静に考えて司令官の言動は、現実離れした内容過ぎてないか?
まだ机の破片を集めた辺りまでは良かったが、テープが地べたに、しかも自然と落ちている状況がある訳がない。
流石、この世界だ。
というか、ゲームマスターって意外と優しいのかな?
さも普遍的に事は進んでいるが、どうしてこれだけ協力的なんだろうか。
いや、考えすぎか。たまたまって事もあり得るし。これからの動向を見てから判断しよう。
「せーの!」
僕らは、小学校低学年のような活発的な声を上げて、くじを引いた。
そして結果は、僕と紗南が白。川上とあきが赤。司令官が余りという具合に落ち着いた。
「あきの奴、何か背中が寂しそうだったぞ。お前何かしたのか?」
司令官は興味津々に聞いてきた。
「いや、心当たりはないけど……」
「もしかして……、好きとか?」
「な訳あるか!」
「はいはい。ヘタな嘘つかなくていいよ~。ほんと、真道って分かりやすいね」
これだからギャルは嫌いだ・・・・・・。
僕は目の前で、紗南がお腹抱えて涙を流しながら笑っている姿を見て、そう思った。
「あー……。ごめんごめん。つい反応が面白くってね」
「ったく……」
僕は呆れた表情を浮かべながら、あきと友花を見送り、少ししてから僕らも司令官に見送られながら、炎天下の下を歩いた。
ふと、さっきと似た質問をしてみた。
「でもさ、なんであの時あれだけ、司令官の指示を拒否ったりしたんだ?」
「だってさ、見知らぬ男子なんかに、指図される筋合いはないからね」
こんな見た目なのに、毅然とした態度で自分の意見を通すとは、なんて恐ろしい高校生だろう。
きっと僕には一生真似できない性格だと、僕は確信していた。
「今回もそうしようと思ったんだけど、真道にあれだけ説得力のある理由を突きつけられたら、否定する理由も無いからな」
紗南は、本当にギャルじゃないのかもしれない。
冷静で現実的な考え方を持っていて、状況に合わせた対応が出来る女子。
見かけで人の事を判断しちゃいけないという典型的なタイプに、僕には見えた。
雲の無い空は一種の凶器で、僕らの体力を蝕んでいく。
時計を見ても、まだ一時間くらいの徒歩のはずなのに、背中はぐっしょりだった。
過酷な環境を現実世界と合わせる必要性をあまり感じない。
変にこだわりが強いところ、一体あのゲームマスターは何者なんだろうか・・・・・・。
しかし、改めてこの空間のクオリティーには感服する。
まるで本当に地方の町にいるような気分にさせられてしまった。
一帯に広がる畑に田んぼ、張り巡らされた電線。
絵に描いたようなその風景だけが、今現在僕の癒し材料となっていた。
どうやら、最後の記憶では都会の高校に通っていたらしい。
だから目に焼き付けておきたかった。
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