第10話 ギャルと僕

 僕は快晴の空模様の下を、重い足取りで歩いていた。


 時折、吹き出す汗を制服の袖で拭いながら、少しずつ歩みを進めている。


 隣から聞こえる軽やかな声を受け流し、のどかな田園風景を眺めていた。


「よろしくな。頼りにしてるからさ、助けてくれよ」


 快活な調子で言った彼女は、昨日とうってかわって、僕を受け入れてくれているようだった。


「あ、ああ……」


 そんな情けない返答しか返せなかった。明らかな差を感じる今、これが僕の精一杯だった。


 どうして、そうなったか。それは、今日になって急激な感情の方向転換を見せたからだった。


 それが気になって僕は勇気を出し、聞いてみることにした。


「ああ……、確かに昨日は酷い態度だったかもね。それはごめん」


「あまりにも唐突な事だったから、混乱してたんだと思う。でも、悪気は無いんだ。 」


 言いながら眉尻を下げた。


 恐らくだけれど、解散した後に一人で反省会していたのかもしれない。


 そこで彼女自身の行動を省みた結果、明るく振舞おうとした。そんな予想を勝手していた。


「そっか。それを聞けて安心した」


 僕は徐々に、胸の重りが少なくなっているような気がした。


 それからは適当に雑談を交わしていった。やはり出会いたてだからか、会話にぎこちなさが生まれてしまっていた。


「香川さんは、行きたいところとかあるのか?」


 僕らは、行先を決めずにとりあえず歩き出して、その場のノリで決めようという事にしていた。


 だから、現状無意味に歩いているだけ。とりあえず、決める第一歩になればいいやくらいの気持ちで、僕は話を振った。


「香川じゃなくて、紗南でいいって。行きたいとこか、そうだな……。商店街とか行ってみようよ」


 昨日、外で活動していた紗南は、地理的な情報は持っているようで、幾つか探したい場所の候補があるようだ。


「僕さ、全然どこったらいいかとか分からないから、案内よろしく」


「うん。任しといて!」


 紗南は胸を張り、自信に漲った表情を浮かべていた。


 まだ一日しか、この世界で過ごして居ないのにも関わらず、どこからその自信は湧き出してくるのだろうか。


「昨日私、何も探さずに、地図書いてたんだ」


 紗南の言葉を聞いて、彼女が胸を張っている理由が分かった。


 それは、僕が今まで持っていた紗南のイメージが、根底から覆る瞬間を訪れさせた。


 昨日、一人飛び出した紗南は闇雲に探す選択肢を取らず、後々必要になる『地理』をひたすらかき集めた。


 どこにどんな建物があって、どんな危険が潜んでいるか。一日で全てを集めるのは厳しいが、全体像を把握するには十分すぎる情報だった。


 それがあれば、効率よく作業を進められること間違いなしだろう。


「誰かがそういう事をしないと、全員が困る事になるからな。だから、やったって訳。」


 「その風貌で……。全然ギャルじゃないな……」


 僕がそう、呟きほどの声量で言うと、紗南は食い気味に返してきた。どうやら腑に落ちていないようだ。


「ギャルって、私が? どこが?」


「えっ、金髪とか、化粧とか……。その、色々と」


あまりにも、『私違いますけど』みたいな返答をされたから、流石に尻込みしてしまった。


「はあ……。あきちゃんの言ってた通りの奴だな……」


「何だよ、言った通りって」


 僕が何度聞き返しても、彼女はクスクスと笑うだけで、全く教えてはくれなかった。


 どうせ、あきはろくでもないような内容を、紗南に教えたのだろう。


「というか、なんで僕ら二人組になったの?」


「何でって、真道その場にいなかったっけ?」


「いたよ」


「何で忘れてんの? あれだけ賢いのに・・・・・・。真道は鶏だね」


 紗南は呆れたような表情を浮かべて、僕にそう言った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る