第3話 出会い

「どうするよ、これから。」


 声がする。


 左側に立ち並ぶ教室の一番奥から、低い男性の声が。


 そしてそれに反応する数人の男女の声。


 そこには様々な色が入っていて意見も割れているようだ。


 否定的な青い意見、情熱の赤い意見、人任せのグレーな意見、和む雰囲気の緑の意見。


 そして意見を出さずにまとめる一人の男性。


 聞いている情報から察すると、今後の動きについて意見が割れているようだ。


 「どうするって……、無理だよ俺らには……。」


 弱々しい男の声。


「無理って、何はなから諦めてんの?」


 気の強そうな女の声。


「そうだよ。どうにか出来る事はきっとあるって。」


 どこか聞き覚えのある女の声。


「うーん……、何とも言えないけど、まずは情報収集からだよね。」


 冷静に分析する声。


 こうもバランス良くタイプが別れるとは何かあるのだろう。


 人為的な出来事な匂いが増してきて、不安感が比例する様に大きくなっていった。


 しかし五人で上手く話が回っているようで、僕は声のする教室で気配を消し端の方で壁にもたれていた。


 別に僕が参加しなくても話はまとまるだろうし、逆に下手に出しゃばると混乱を招く恐れもある。


 ここは黙っておくのが最適な気がした。


 「えっ……。マー君、マー君なの?」


 驚いたような声色で僕の名前を呼ぶ人がいる。しかもその呼び方に聞き覚えがあった。


「あき、か? 何でここにお前が……。」


 透き通るように綺麗な黒い長髪に、凛とした大きな目、肌も白くてスタイルもいい、おまけに勉強までできると来た。


 唯一の欠点は運動神経で、体育の成績だけはいつも壊滅的だった。


 そんな僕の幼馴染の名は櫻子あき。偶然か必然か、僕らは幼稚園の頃からの付き合いだ。


 別段記憶に深く刻まれるような出来事があった訳でもないし、特別な関係にも勿論発展してこなかった。


 正真正銘の幼馴染という訳だ。


 「マー君こそ、なんでここに?」


 僕は事の顛末を話した、包み隠さず全て。


 当然のように彼女も同じだった。


 僕と違ったらどうしようかと肝を冷やしたが、そんな心配は不要だった。


 笑顔で『同じだね。』なんてお気楽な様子で話していたから、どこか安堵感を覚えた。


 「お前もか、ここに連れてこられたのは。」


 中心で話をまわす男子に話を振られた。茶髪で遊んだヘアスタイルにきりっとした眉毛が特徴で、それでいて目は一般的なサイズ。


 状況が状況だから険しい表情を浮かべているが、世間ではもてはやされる対象になるタイプの男子だと思う。


「ああ。僕は春原真道。よろしく。」


 僕は右手を出して自己紹介をした。


「そんな、馴れ合いをしてる場合かよ。早くこんな所から、おさらばするために作戦立てるぞ。」


 パンッ。


 僕の右手は儚くも、彼によって弾かれてしまった。


 妥当な事を言っている分、何も言い返せないのが悔しかった。


 少しくらい付き合ってくれてくれてもいいのになんて思うが、やはりそれどころじゃないのが現実だった。


「六人か……。新入り、お前はどう行動するべきだと思う?」


 新入りって……ああ、僕か。


「まずは情報収集だろうな。ヘタに動いて五人になるよりは、人員を守りつつ確実に脱出する方法を選択するべきだ。」


「だな。よし、まずは校舎の中からだ。隈なく探せよ。」


 数刻前に彼は冷たい態度を僕に見せたが、今度はすぐさま僕の意見に乗っかった。


 対応の早さには恐れ入るが、彼の言動に少し戸惑ってしまった。 


 しかしこんな態度で、全員が納得するとも思えない。早速その返答がこれだ。


「何しきってんのよ。てかさ、あたしたちの意見は無視な訳? 別にあんたの意見を聞く義理は無いんだけど。」


 そこには司令官的立場の男子の真向かいで、真っ向から反論する女子がいた。


 肩に乗るくらいの茶髪で薄化粧を施し、穏やかな感じの目元で整った顔立ち。


 ギャルという種族の一員と思われるその人は、茶髪男子に真っ向から反対していた。


「じゃあ、どうするんだよ?」


 僕は少し呆れた様子で聞いた。


「私は、一人で情報を集めたいから。人がいると足手まといなの。」


 ったく、この状況分かって言ってんのかよ。


 こんな未知の場所で、何が起きるか分からない状態の中、無闇に行動したらどうなるかって、小学生でも分かるぞ・・・・・・。


 そう冷めた目線を向けながら、心の中で呟いた。

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