第2話 見覚えのない世界

「んっ……んー……」


 目を開くと同時に眩いばかりの光が目に入った。


 昨晩、カーテン開けたまま寝たからだろう。


 しかし、それにしては異常な気がする。僕が光を意識すればするほど、鬱陶しさは増していった。


 寝ぼけた感覚のまま、いつものように起き上がると、手をついた感覚に違和感を覚えた。


 あれ、床が硬い。確かベッドで寝ていたはずなのに、どうしたんだ?


 アサリのように目を半開きにして、覚束ない意識の中、目線を下にやると、全く身に覚えのない場所に自分がいることに気がついた。


 舗装もされていない乾いた土の上、そこに僕は一人強い光に当たりながら、座り込んでいた。


 おもむろに辺りを見回す。田んぼや畑だけで、その光景は地平線の彼方まで続いている。


 僕は夢だと思った。いきなり見ず知らずの地に足をつけて、現実味を全く感じられなかった。

 

 のどかな雰囲気が混乱した気持ちを、少し和らげているような気がした。


 何がどうなってここにいるんだ? 僕は確かにあそこで寝ていたはず。それでその前は、えーっと……。


 どうしてか何も記憶が無い。どうやら、記憶にモヤがかかっているようだった。


 自分の名前や身近にいた人の名前が薄っすらと残っている。


 しかし、大事な記憶が何もかも抜け落ちてしまっていた。


 しかも無理に引っ張り出そうとすれば、何か硬いものにぶつけた時のような激痛が、頭を駆け抜けていていくようだった。


 自分の身に、一体何が起きているのだろうか。さっきまで僕は、間違いなく屋内にいた。


 見覚えのある内装に使い古したリュックや参考書、ゲームにスマホがあったはず。それがなんだって、こんな所に……。


 いろいろ考えを巡らせたが、まずは行動しなければ何も始まらない。とりあえず立ち上がり何か手がかりを探す事にした。


 初めに視界に入ったのは、木造の三階建ての建物だった。


 僕が目覚めた大きな道路に隣接し、フェンスに囲まれ、所々に綻びが見られる。


 僕が目覚めた道路に隣接し、フェンスに囲まれていて、所々に綻びが見られるそれは、自分が主役であるかのように堂々と鎮座していた。


 二宮金次郎像が倒れているところから見ると、やはり旧校舎なのだろう。


 一度、表に回ってみる。やはり思った通りだった。錆びついた鉄棒や穴の空いたタイヤなど、いかにもの用具があちらこちらに見受けられた。


 とりあえず、中に入ってみよう。手掛かりは多い方が良いに決まっているからな。


 校庭を抜けて、昇降口をくぐる。あちこちに蜘蛛の巣があって、埃っぽい空気が充満していた。


 埃が苦手な僕には少々苦しい場所だが、今はそんなしょうもない敵と対峙している場合ではなかった。


 「ん? 綺麗になっているところがあるな……」


 昇降口らしき所から廊下を伝い移動する中で、不自然に埃が無くなっている箇所がいくつもあった。


 なぜか不等間隔に埃が無くなっている。どうやらここに何かがあるようだ。


 様々な不自然極まりない痕跡を眺める間、徐々に胸の底から湧き上がってくる感触があった。


 煮えたぎるマグマのような熱い何かが胸の中に溜まっていく。


 そして次の瞬間僕は、自分の知る由もなかった真実に向かって無意識的に駆け出していた。

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