第15話初デート
昨日のことを思い出しながら、俺は待ち合わせ場所の駅の中にある広場に向かって歩いていた。休日ということで、人はたくさんいた。広場に着いた俺はベンチを見つけたので、そこで腰を下ろしてスマホを見る。時刻は13時30分集合時間の30分前に着いた。
「あれ、隼人君早いね。待った?」
後ろから声を掛けられ、振り向くと美桜がいた。久しぶりに見た私服姿に見とれてしまった俺は、反応が少し遅れた。
「……いや全然待ってないよ。美桜も結構早いね30分も前だよ」
「だって少しでも早く隼人君に会いたかったから」
そんな恥ずかしいことさも当たり前かのように言える美桜にこっちが恥ずかしくなった。
「行こうか」
僕は立ち上がり美桜の手を握って歩き出した。
30分前に集合できたことで、一本早い電車に乗れた。電車にはたくさんの人が乗っている。電車で4つ先の駅まで行き10分歩き目的地の水族館に着いた。
「着いたね」
「そうだね」
水族館には春休みということもあり家族連れの人たちが沢山居た。
「ごめん隼人くん私ちょっとトイレ」
そう美桜が言って走ってトイレに向かった。美桜を待っている間俺は近くのベンチに腰かけた。
近くにいた大学生くらいの男に女の人が駆け足で向かって来た。「待った?」「いや全然待ってないよ」俺たちが集合した時と同じ会話をしていた。でもその男は俺とは違うことも言った。「今日の服可愛いいね」と女の人の服装をいち早く褒めていた。完全に忘れていた。最悪だ初デートで彼女の服装を褒めないなど彼氏としてあるまじき行動だ。戻ってきたらすぐに伝えよう。そう心の中で思っていると美桜が戻ってきた。
「み、美桜今日の服可愛いね」
「あ、やっと言ってくれた。遅いよ。もう」
そう言って美桜は頬を膨らませていた。そんな美桜も可愛いなんて思いながら俺は美桜に「ごめん次はもっと早く言うよ。」と謝った。
水族館の中に入りチケットをかった。
水族館の中には多種多様な海洋生物がいた。普段見ることない生き物や名物のジンベイザメなど沢山の生き物を見た。
「あ、隼人くん。もうイルカショー始まっちゃうよ」
「え、もうそんな時間?急ごうか」
俺たちは急ぎ足で会場に向かった。
ギリギリで入場出来たがやっぱり前の方は全席埋まっており俺たちは後ろの方に並んで座った。
「隼人くん前の方の人たちはなんで雨具を着てるけどなんでかな?」
前の方に座っている人たちを見ると確かに雨具を着ている人たちがいた。
「あれはイルカのジャンプとかで自分が濡れないようにするためじゃないかな?ほら前の方ってイルカとかが跳ねたら水が飛んでくるから」
「なるほどね。じゃあよかったね」
「なにが?」
「ほら私たち雨具持ってきてないし」
「俺は一応折りたたみ傘持ってきてるけどね。でも前だっと迷惑になるかな」
そう言って俺は美桜に持ってきた折りたたみ傘を見せた。
「準備いいね。私なんて今までイルカショーで濡れるなんて思ってもみなかったよ」
「まぁ俺もイルカショーのために持ち歩いているわけではないんだけどね。いつ雨が来ても濡れないように普段から持ち歩いているんだ」
「どちらにしろ準備が良いよ」
そんなことを言っている間にイルカショーが始まった。最初に二匹のイルカが飼育員さんの合図でジャンプをしたり空中で回転したり水槽の中を高速で泳いだりしていた。
俺は横目でちらっと美桜の方を見ると美桜はイルカが何か一つ技をするたびに子供の様に目を輝かせ、手を叩いて称賛していた。そんな姿を見ていると次第に俺も楽しくなり一緒になって手を叩いていた。
イルカショーも終わり俺たちはまた館内の魚たちを見て回った。お土産コーナーに行き俺たちはお土産を選んでいた。水族館のお土産は想像よりも高くバイトなどをしていない俺たちからすると少し手が出しにくかった。が、一つのお土産の前で美桜が足を止めた。
「ねぇねぇ隼人くん。これ二人でお揃いにしない?」
そう言って美桜は俺に小さなジンベイザメのぬいぐるみを見せてきた。
「嫌かな?」
そう、不安そうな顔でこちらを見てくる美桜に俺は首を横に振る。
「ううん全然嫌じゃないよ。色はどうするの?ピンク?」
美桜の手にあるジンベイザメのぬいぐるみには青とピンクの2種類がある。
「ピンクだと隼人くんが身に着けてくれなさそうだし青にしよっか」
そんなことないと言いたかったが、否定できないので何も言わなかった。
「じゃぁお会計しに行こうか。それともまだ何か買う?」
「これだけううん、これが良い」
そう美桜は言って今日一番の笑顔を見せてくれた。その笑顔を俺は恥ずかしくて直視できなかった。
お会計を済ませて俺たちは水族館を後にした。
「今日楽しかったね。隼人くんはどう思った?」
「俺も楽しかったよ」
そう言って俺は美桜の方を見るとまた頬を膨らませていた。
「そうじゃなくて何が楽しかったって聞いてるの」
「何がか、やっぱりイルカショーは、迫力満点ですごかった。次来るときは前の方で見てみたいと思ったかな」
「他には?」
「他にか…クラゲ、かな。なんか幻想的すごかった」
自分の語彙力の無さに呆れつつ美桜の方を見た。
「私もクラゲ一番が良かった。やっぱり私たち好みが一緒だね」
「そうだね」
美桜と一緒に居るとなんか自分の心の中を読まれてるみたいで恥ずかしいな。
駅に着くとちょうど帰りの電車が来た。電車に乗り込み空いている席に二人で並んで座った。電車に乗って10分ぐらいしてから美桜がうとうとし始めた。
「寝てて良いよ着いたら起こすから」
「本当?じゃぁお言葉に甘えようかな」
そう言ってすぐに美桜は寝てしまった。俺は美桜を起こさないように窓の外の景色を眺めていた。俺も少し眠くなってきた。そう思っていると不意に美桜の頭が俺の肩に乗ってきた。俺の眠気は一瞬で吹き飛び俺の神経は肩に全集中してしまった。
最寄りの駅に着き美桜を起こし電車を降りる。改札を通て普段歩いている道を歩く。
「なんか今日プチ旅行みたいだったね」
「確かに。普段行かない場所だったし水族館だって小学生振りとかだったから楽しかった」
そんなことを話しているとすぐに美桜の家まで来てしまった。
「じゃぁね隼人くん」
「うんまたね美桜」
そう言って家に入ろうとする美桜が直前で足を止めてこちらに振り返った。
「次学校に行くときちゃんと今日買ったジンベイザメのぬいぐるみ付けてきてね」
「うんそうする」
そう俺が言うと美桜は笑ってくれた。
「絶対だからね。もし付けてこなかったら怒るから。じゃぁね隼人くん」
少し寂しそうな眼をする美桜に俺は…
「安心して。しっかり付けてくるよ。またね美桜」
そう言って美桜が家の中に入るまで俺は美桜を見送った。
新学期
久しぶりの学校ということで少し憂鬱だ。でもまた美桜に会えるので楽しみでもあった。
俺は家を少し早めに出て美桜の家に向かった。美桜の家の近くに行くとすでに美桜が立っていた。美桜が僕に気づき手を振ってくれる。それに俺も手を振り返す。俺は駆け足で美桜の元まで行き「おはよう」とあいさつをする。美桜も「おはよう」と返してくれる。水族館からあまり時間が経っていないのにこれだけのやりとりで心が弾んでしまう。
「学校、行こうか」
手をつなぎ歩いていく二人の鞄にはお揃いのぬいぐるみがあった。
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