第14話これからのこと

 俺たちは、病院の屋上で泣いたりハグし合ったり笑い合ったりした。たくさん泣いてたくさん笑った後、僕たちはベンチに腰掛け空を見上げていた。

「寒くなってきたね。病室に戻ろうか。

 俺はそう言って明城さんに手を差し出した。明城さんの方を見ると、明城さんは顔を膨らませていた。

「どうしたの?明城さん」

「なんでもないでーす」

 そう言いながらも明城さんはどこか怒っているようだった。

「嘘でしょ、怒ってるじゃん。何に怒ってるの?」

「教えてあげませーん」

 明城さんはプイっとそっぽを向いた。

 俺はどれだけ考えても何故明城さんが怒っているのかが分からなかった。

「うーんなんだろ、じゃあヒント教えて」

「名前」

「名前?」

 名前がどうしたのだろう?今まではずっと明城さん呼びだったし…いやでもさっき確か俺は明城さんのことって言わなかったか?

「もしかして美桜って言て欲しいの?」

「うん。せっかく本当の彼氏彼女になったんだから下の名前で呼んで欲しいな~て」

 そう言った美桜は下を向いていた。その顔は耳まで真っ赤になっていた。

 それからは病室に戻った。

「それじゃあ、もういい時間だし俺は家に帰るよ。また来るね」

「隼人君ちょっと待って」

 美桜がそう言って俺は振り返った。すると…ちゅ

 唇に柔らかい感触と目の前に美桜の顔があった。

「ちょ、何してるの?」

「キスだよ?知ってた?キスすると幸せになったり健康的なるんだって」

 そんなことをニコニコした笑顔で美桜は言った。 

「ヘぇ~そうなんだ。だったら毎日しなきゃね」

 俺がそう言うと美桜は少し顔を赤らめながらも首を縦に振った。

「またね隼人君」

「うん。またね美桜」

 俺はそう言って美桜の病室を後にした。

 帰り道の途中俺は色々な感情が沸き上がった。喜びや悲しみ怒りに恐怖それから不安そんなどうしようもない感情が複雑に入り乱れた。

 俺はどうすればいい?美桜に何をしてあげられる?何を知っていて何を知らないのか、もっと知りたいもっと美桜を……

 翌日

 今日も俺は美桜の病室に行く。

 病室に行くまでに何度昨日のことを思い出したか分からない。何度思い出しても顔が赤くなってにやけてしまう。

 そんなことを何度も考えている間に病室に着いた。俺はまた深呼吸をする。それからノックを3,4回してから病室の扉を開けた。

「美桜、来たよ」

「あ、隼人君来てくれたんだ」

 そう言いながら手を振ってくる美桜に手を振り返しながら俺は丸いパイプ椅子に座った。

「ねぇねぇ隼人君ちょっときて」

 美桜がそう言いながら手招きしてきたので俺は美桜に寄る。

 俺が美桜に顔を近づけると美桜は俺の唇にキスをしてきた。

「な!?」

 俺はびっくりしてのけぞってしまう。

「びっくりた~?昨日自分が言ったんじゃん。毎日しようって」

 そう小悪魔のように微笑んだ。

  それから俺たちは他愛もない話を時間を忘れるくらいにした。こんな時間がずっと続けばいいと思った。外も暗くなりお見舞い終了時間になり俺は家に帰ることにした。

「じゃあ美桜、俺帰るよ」

「え?もうそんな時間?」

 美桜はそう言って下を向いてしまった。

「美桜こっち向いて」

「え?な…ん」

 俺は無防備の美桜の唇にキスをした。昼間にした時よりも長く長く美桜の温かさを感じた。

「大丈夫?顔真っ赤だよ」

 そう言う自分の顔も熱くなっていくの感じた。

「うるさい!!自分だって真っ赤のくせに。またね!待ってるよ」

 そう言いながら美桜は布団の中に潜り込んでしまった。

「うんまたね。明日も来るよ」

 顔まで隠す美桜の頭を布団の上から撫でた。


「はぁ~心臓に悪いよ隼人君」

 布団から出て、

自分一人しかいない病室の中で呟いた。

「う!ん~~~!!はぁはぁ」

 何度体験しても慣れない痛みが、体中を駆け巡った。

 今日の昼間はずっと我慢していた。多分隼人君は気づいているんだろうな。私がこの痛みを隠していること。気づいてないと良いな。私のちっぽけなプライドを守るために。

 この病気を患った時から一度だけしか人前で痛がっている所を見せたことはない。

 今思えば隼人君に見られた時からだったんだろうな。私が私の中に立てた誰も好きならない。誰にも迷惑を掛けないという誓いを破り続けているのは。助けてもらったこと、病気の私の姿を見ても変わらずに接してくれたことが嬉しくて、無意識に好きなっていたんだと思う。もっと彼を知りたくなった、もっと私を見て欲しくなった。

 隼人君はいつも私の欲しい言葉をくれる。私が病気のことを隠したいと言った時も鏡佳と喧嘩した時も、誕生日の時も、私が隼人君への気持ちで悩んでいた時も、隼人君はずっと私を救ってくれた。

 もっと知りたいな隼人君のこと。それからもっと私のことを知ってほしい。

 そんなことを考えながら私はペンを持った。


 美桜の病室を出て帰路につく。今日はとても心臓に悪い一日だった。二度のキス。一回目は不意打ち二回目は自分から。今も頬が緩む。

 俺は全然美桜のことは知らない、彼氏になったといっても俺は全然だ。多分美桜は今日の昼間ずっと痛みに耐えていただろうな。きっと俺に気づかせないために迷惑を掛けないように我慢したんだろう。そんなこと別に気にしなくていいし、迷惑でもないのに、もっと仲良く気遣いなんていらないそんな深い関係に…。もっと知りたい美桜をもっと。


 それからも俺は美桜の病室に通った。病室で一緒に宿題をしたり、本を読んだりした。そんな生活が二週間続いた。退院の日がやってきた。まあ明日で春休みは終わってしまうのだが、遊びに行くことにした。美桜にこんなことを言ったら怒るかもしれないけど、美桜のことも考えて水族館に行くことにした。


 退院の日病院のロビーで美桜が入院費の清算を終えるの待っていた。美桜の両親はどうしても外せない仕事があるからって来れないそうだ。お金の方は昨日の間に母親から貰っていたらしい。

 今日はさすがに入院での疲労や入院生活で使ったものの片付けなどで水族館は明日になった。

 病院を出て美桜にとって久しぶりの外界になる。

「はぁ~~~あ、久しぶりの外~やっぱり外は空気が良いね」

 そう伸びをして深呼吸をしていた。

「そうかもね忘れ物はない?」

「うん!!じゃあ帰ろっか」

 俺たちは二人の距離を縮め肩と肩がぶつかり合うぐらいに近づいてからぎこちなく手をつなぎ指を絡めて帰った。

 

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