第13話交わる思い

 翌日,俺はまた病院に来ていた。もう見慣れた病室までの道のり変わり映えのしない景色でもそれが今の俺には妙に心地よかった。顔馴染みになった看護師さんたちに会釈をしながら、明城さんのいる病室に向かった。

 数分歩いてから明城さんがいる病室の前に来た。俺は一度深呼吸をしてからノックをして扉を開けた。中に入るとベッドの上で俺が渡した漫画を読んでいる明城さんがいた。

 「明城さん来たよ」

 「あ、西川君来てくれたんだ」

 「うん。体調は大丈夫?」 

 「うん元気元気」

 明城さんは両手で自分が元気であることを表現していた。

 「それはよかった」

 「これ面白いね続きあるの?」

 明城さんは俺が持ってきた漫画を指差して聞いてきた。

 「いやそれが最新刊で次は来月だったかな」

 「そっか~残念」

 それから俺はベッドの横にある丸い椅子に座ってい明城さんと他愛もない話をした。2,3時間した頃、明城さんが突拍子もないことを言い出した。

 「西川君屋上に行こう」

 「どうしたの急に?ていうか屋上って入れるの?」

 「大丈夫。ここの病院は入れるからほら行こう」

 明城さんはそう言って俺の手を引いて歩き出した。俺はその小さな力に抵抗することなく、明城さんの後をついていった。それから俺は行ったことのない所に来ていた。エレベーターで屋上の一つ下の階で下り、そこからは階段で屋上の前に来ていた。

重い鉄の扉を開けて外に出た。そこには俺たちが住んでいる町が広がっていた。

 時刻は夕方4時

 時間も時間なのでとてもきれいな夕日が町を包んでいた。

 「綺麗だね」

 「そうだねまさか俺たちが住んでいる町がこんなにも綺麗だったなんて思わなかった」

 「そうだね」

 「明城さんあそこベンチあるから座ろ」

 「うん」

 それからは互いに口を開くことなく綺麗な町を眺めていた。そんな時間が数分続いて突然明城さんが話しかけてきた。

 「ねぇ西川君」

 「ん何?」

 明城さんは俺の方に向き直して真っ直ぐ目を見て言ってきた。

 「もし、もし私の寿命が短くなったって言ったらどうする?」

 明城さんは俺が考えないようにしていたことを聞いてきた俺はそれにびっくりして少し反応に遅れた。

 「どうって言われても……」

 俺はそれから喋れなくなった。何を言ってもそれはその立場に立っている者にしか分からないことでいくら俺が考えたとこでそれはきっとなんの助けにもならない。そのことを明城さんも分かっている。でもきっと明城さんは俺の答えを待っている。それでも俺は言葉が出なかった。

 「西川君もう終わりにしよ。この関係」

 「…え?」

 「私、もう長くないないんだって。この前までは高校卒業できるって言われてたんだけど今はもうそれもできるか分からないってお医者さんが言ってた。この関係を続けてもお互い悲しくなって終わる。だからもう終わりにしよう。」

 「嫌だ」

 俺は咄嗟にそんなことを口にしていた。さっきまでは全然声が出なかったのに何故か自分の口から「嫌だ」と言ってしまった。

 「え、なんで?」

 当然の疑問だった。普通ならこの関係を終わりにして悲しまない道を選ぶだろう。でも俺はもう、明城さんが好きで好きでたまらなかった。ずっと一緒にいたいと思うほどに明城さんの虜になっていた。今しかない。自分の気持ちを伝えるなら今しかない。

 「約束を破ることになるけどさ、俺はもう明城さんのことが好きなんだ。ずっと一緒に居たいと思うほどに、明城さんのことが好きだから俺は終わりにしたくない。偽の恋人じゃなくて俺は本当の恋人になりたい。」

 多分初めての対立だった。今までは俺も明城さんも考えることは一緒で意見が対立することなんて一度もなかった。

 「なんで?なんで?私から離れてくれないの?今ならまだ悲しまずに済むのにもう恋愛で悲しい思いしなく済むのに……」

 明城さんは泣きながら俺に訴えかけていた。俺のことを気遣ってくれていることも分かっている。けど…

 「それでも俺は明城さん、いや美桜とこれからも一緒にいたい。」

 俺は真っ直ぐ美桜の目を見て言った。

 「私だって、私だって一緒に居たよ!!大好きな隼人君と一緒に…でも、でも私と居たら絶対悲しい結果になる。」

 「そんなの関係ない。悲しむとか悲しまないとかそんな理由で一緒に居たいわけじゃない。俺は好きな人と一緒にいたい。美桜は違うの?」

 「ううん違わない。本当に私と一緒に居てくれる?最後の時まで一緒に居てくれる?」

 明城さんは、涙を拭いながら言った。それでも目からは涙が溢れていた。

 「うんずっと、ずっと一緒に居よう」

 俺も自然と目から涙が溢れてきた。

 俺が泣くのはお門違いだと思うが目からは涙が止めどなく溢れてきた。

 しばらく俺たちは泣いた。二人の思いが通じ合ったことが嬉しくて、でもそれと同じぐらい悲しくて泣いた。

 それからどちらからともなく俺たちはハグをしてキスをした。 

 

 

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