第12話芽生えた思い

 明城さんからバレンタインのチョコを貰った翌日、学校に着くと、ところどころから「お前チョコ何個貰った?」「しっかりチョコ渡せた?」など聞こえてきた。そしてクラスの中に2,3組のカップルが出来上がっていた。その中に悟と南さんが目に入った。僕はその様子を見ていると、明城さんに話しかけられた。

 「どうしたの?西川君?鏡佳の方見て」

 「いや悟とあんなに仲良かったかなって」

 「あ~あの二人実は幼馴染なんだよ」

 初耳だった。悟も南さんもクラスではあまり話している所見たことがなかったのでまさか幼馴染だったとは思わなかった。

 「ヘ~そうだったんだ。じゃあ昨日から付き合い始めたのかな?」

 「そうそう鏡佳から告白したんだって。」

 「詳しいね、聞いたの?」

 「うん、恋愛相談にも乗ったしね。」

 そう言って悟たちを見る明城さんの目はどこか悲しそうで羨ましそうだった。

 

 チャイムが鳴り僕たちは自分の席へと帰って行く。


 その日の授業も無事に終わり帰り支度をして明城さんと学校を出た。


 「そういえば西川君って今まで彼女とかいなかったの?」

 急に明城さんが聞いてきた

 「急にどうしたの?」

 「いや~ちょっと気になって」

 「彼女なんていたことないよ。明城さんが初めて」

 「あ……ごめんね」

 そう言って明城さんは自分の顔の前で手を合わせて謝罪を表していた。

 「いや良いよ別に気にしてないし」

 「じゃあ好きな人とかはいなかったの?」

 「好きな人?どうだろいたことないかも。多分」

 「え!?いたことないの!?」

 「いや、今考えれば好きだったんだろうなって子はいるかな。小学生の時だけど」

 「ヘ~聞かせてよ」

 明城さんはそう言って目を輝かせていた。

 「そんな、人に話すようなことじゃないよ」

 「聞きたい!!」

 そう言って引かない明城さんに僕は折れて話すことにした。

 「小学校6年生の時に僕は一人の女の子から好意を向けられてたんだ」

 「それが好きだった人?」

 「そう多分。それからもその子とは卒業するまで仲良かったんだけど中学に入ってから喋らなくなたんだ」

 「うわーあるある」

 「それから小学校が一緒だった女の子からその仲良かった子が僕のことが好きだったことを教えてもらったんだ」

 「それからは?」

 「僕はこれを聞いて落ち込んだんだよ」

 「え?なんで?」

 明城さんは分からないといった様子で首を傾げていた。

 「何でって周りから付き合ってるんじゃないかと揶揄われくらい仲良かったのにその子の気持ちに気づいてあげられなかったんだ。近くにいる人の気持ちに気づけないことに落ち込んだんだよ」

 「でもそこまで気にしなくて良いじゃない?大抵の人は好きって気持ちを隠すんだから、気づかなくても仕方ないよ」

 明城さんはそう言って僕を励ましてくれた。でも

 「好意に気づけないだけならまだ良かったんだ。でも僕は好意だけじゃなくて人の気持ちに気づけないんだ。人が怒っていても何に怒っているのか何で怒っているの分からないだ」

 「人の気持ちに気づけない、それは辛いね」

 「うんしかも自分の気持ちも明確に分からないことが多いんだよね。だから本とか読んで人の気持ちを知ろうとしたんだ」

 「だから普段から本を読んでたんだ。」

 「うん。人の気持ちも理解できないなら人を好きになってもいいのかなって思って今まで恋愛とかしなかったし、人を好きならないようにしてきたんだ」

 「辛くないの?」

 「辛くはないよ、好きになった女の子を悲しませることの方が僕は辛いよ」 

 「西川君は優しいね」

 「そんなことないよ、僕が辛い思いさせて後悔するのが嫌んだよ。ていうか人を好きなるのが怖いんだよね」

 「人を好きなるのが怖い?」

 明城さんはまた首を傾げた。

 「人を好きなって、気持ちを理解できずに悲しませるのが怖いんだよ」

 「そっか」


 僕は明城さんに過去の恋愛を話して家まで送って自分の家まで帰った。初めてだった自分の過去を人に話したのは、何であんなに話したんだろう?今までの僕なら誤魔化していただろうに。やっぱり僕は人の気持ちも自分の気持ちも理解できない……そんな疑問を抱きながら僕は眠りに着いた。

 

 翌日もそのまた翌日もいつも通りの日常を送り学年末テストも無事に終え貰ったバレンタインのお返しも渡し3学期が終了し、春休み入った。


 春休みに入って事件は起こった。明城さんと連絡がつかなくなった。メールを送っても既読すらつかない。一日ぐらい連絡がつかなくても何も思わなかったがさすがに三日も続くと僕は何かあったんじゃないかと心配だった。

 僕はすぐに明城さんの家に向かった。

 僕は走って、走って、走って今までにないくらい必死に必死に走った。何でこんなに必死なのかも分からずに、でも明城さんに合ったら分かる気がした。

 明城さんの家に着き急いでインターフォンを押した。

 「はい」

 奥から明城さんのお母さんが鞄を持って出てきた。

 「君は美桜の……」

 「あ、初めまして西川隼人です。あ、今からお出かけですか?」

 「え?ええそうね。それで何か用かしら」

 「今って美桜さんいますか?」

 僕がそう聞くと明城さんのお母さんは顔を曇らせた。

 「今、美桜は……病院にいるわ」

 「え?」

 「今からお見舞いに行くんだけど来る?」

 そう明城さんのお母さんは僕のことをお見舞いに誘ってくれた。

 「え?良いんですか?」

 「良いのよ~美桜もきっと喜ぶわ」


 それから僕は明城さんのお母さんの車で病院に向かった。

 

 病院に着いて明城さんのいる病室に来た。僕は明城さんのお母さんの後ろで深呼吸をしてから病室に入った。病室に入ると明城さんはベッドに座り本を読んでいた。僕たちに気づくと、本を閉じこちらを向いた。

 「あ、お母さんと西川君!?な、何でいるの?」

 「心配だったから。」

 僕は思っていること包み隠さずに伝えた。それから明城さんのお母さんは医者に呼ばれてどこかに行ってしまった。

 「何でお母さんと一緒に来たの?」

 「心配で明城さんの家に行ったときにお母さんが病院に行くって聞いて一緒に来る?って誘われたから」

 「ヘ~西川君心配だったんだ」

 明城さんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら僕を見てきた。

 「そりゃ3日も連絡つかなかったら誰でも心配するよ。それに目覚めたんだったら、連絡返してよ」

 「それはごめんね。でもなんて言えばいいか分からなくって」

 「それもそっか、それで体の調子はどう?」

 「うん、今は大丈夫」

 「それでいつまで入院するの?」

 「3月いっぱいは多分入院かな」

 明城さんは少し寂しそうな顔をしていた。

 「そっかじゃあお見舞い、来るよ。来れるときは毎日。それで退院したら遊ぼ。映画でも遊園地でも水族館でもどこでもいいから遊びに行こう」

 「うんうんそうだね」

 明城さんの目には涙が溜まっていた。

 それからも他愛もない話をした。初めて出会ったときのように自分の好きなものを語ったりした。そうして30分ぐらいしてから明城さんのお母さんが目を腫らして帰ってきた。

 明城さんのお母さんは明城さんに、荷物を預けた。それから色々話していた。僕はそっと席を立って外で待つことにした。

 少ししてから明城さんに呼ばれた。僕たちの関係を明城さんのお母さんに根掘り葉掘り聞かれた。

 それから夕食の時間が来たタイミングで僕たちは帰ることになった。

 

 僕はまた、明城さんのお母さんの車に乗せてもらい家まで送ってもらった。帰宅中の車内で明城さんのお見舞いに一人で行ってもいいか聞き許可を貰えた。

 

 家に着き僕は明城さんが入院中にできそうなものを、考えた。

 漫画、ラノベ、ゲーム、勉強、……

 色々ある中で僕が知っている明城さんの好きなものはこれくらいだ。勉強は分からないけど勉強はやっていて損はないだろう。とにかく明日は漫画かラノベを持っていこう。

 

 次の日

 僕はまた病院に行き、明城さんの病室の前に着いた。僕はまた深呼吸をしてから、ノックをした。しかし、返事がない。それでも僕はドアを開ける。

 「明城さん来た、よ?」

 明城さんはベッドの上で寝ていた。机の上には一枚の紙が置いてあった。

 僕は明城さんを起こさないように、静かに腰を下ろした。持ってきた漫画やラノベを棚の上に置いた。それから紙を一枚取り出した。

 【明城さんへ。入院中、暇だと思うから僕のおすすめの作品を何作か持ってきたよ。よかったら読んでください。】

 と書いて紙袋の下に挟んだ。

 

 それから僕は少しの間明城さんが起きるのを待った。机の上にあった紙が気になった。その紙は二つに折られており、内容が分からなかった。見ない方が良いのは分かっているけど僕はその紙の内容を見てしまった。紙には死ぬまでにしたいこと、と大きく書かれていた。その下には

・大学に行ってみたい

・海外旅行に行ってみたい

・アルバイトをしてみたい

・お酒を飲んでみたい

・自分でお金を稼いで両親を旅行に連れていきたい。

 そして最後に

・大好きな人と本当の恋がしたい

 明城さんがやりたいことはどれも、普通に生きている人なら通るであろうことばかりだった。この紙に書いてあることを僕はおそらく願わなくても努力すれば叶えられてしまうことばかりで本当に明城さんが病気であることを理解させられ、寿命も短いということを思い知らされてしまう。

 僕はその紙をそっと元の場所に戻した。それから寝ている明城さんに声を掛けて病室を後にした。


 家に帰っている間、明城さんの寿命が短くもう少しで死んでしまうという事実を受け止められなかった。俺はもう多分明城さんのことが……

 

家に着きご飯を食べ、お風呂に入り自分の部屋に行き小説を開く。でも全然内容が入ってこない。ずっと、病院であの紙を見てしまったときからずっと考えてしまう。

 俺はきっと明城さんのことが好きになってしまっている。明城さんの偽の恋人になるときに約束したお互いを好きにならないという約束を破ってしまっても、あんなに魅力的な女の子がそばに居たら好きになっても仕方ない。明日自分の気持ちを伝えよう。たとえこの偽の関係が終わり明城さんとの関りがなくなってしまっても今俺が一歩踏み出さなきゃ絶対にこれからの人生で後悔する。だから思いを伝えよう。でないと明城さんが死んでしまう。

 『西川君来てくれてありがと。私寝てたかな?それから漫画とかもありがと。今も読んでるよ~』

 『どういたしまして。うん気持ちよさそうに寝てたよ。また続き持っていくよ』

 そうメールを送って俺は固い決意を胸に抱いて眠りに着いた。


 


 

 

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