第11話バレンタイン

 2月に入り教室は、いや、学校全体が浮つきだした。あちこちでカップルができ、仲の良い男女グループができていいる。何があるのかと思ったら今月はバレンタインがあった。男子はチョコレートを貰うために頑張っているようだ。

  僕は貰えるとは思ってないが毎年、無駄な期待はしてしまう。

 そんな男子達にはチョコをもらえる確率が上がる行事が行われる。

 「おーい席着けよー」

 担任の先生の言葉で友達と話していたクラスメート達は自分の席に座った。

 「えーまあ知っていると思うが、今月の第二土曜日11日に生徒会が主催する球技大会があるわけだがその競技のチーム分けをしなくてはならん。そのチームを今から決める。じゃあクラス委員、後は頼む」

 そう言って先生はクラス委員に進行を丸投げした。

 「えー先生が言ったと通り11日にある球技大会のチーム決めを今からします」

 そう我らがイケメン委員長が言った。

 「競技は全部で2つバレーとバスケこの中から好きな方を選んでチームを決めていきます人数は男子が8人ずつ女子が6人ずつになります」

 「ねね、西川君どっちにする?」

 そう明城さんは小さな声で聴いてきた

 「まぁ余った方かな」

 そうは言ったものの僕は中学時代部活で、バスケをやっていたので少しは役に立てるのではないかと思っていた。

 「じゃあまずバレーやりたい人ー」

 そう委員長が言うとちょうど8人手を挙げていた。これで僕は自動的にバスケをやることになった。

 「じゃあ男子の人数はこれで決定ということで次に女子の方決めていきたいと思います」

 委員長はテンポよく女子の方も決めていった。

 それから僕は練習などもせずに本番を迎えた。


 2月11日土曜日

 慣れない土曜日登校に違和感を覚えつつも朝の点呼に明城さんと一緒に来た。

 「西川君バスケの練習とかしたの?」

 「え、するわけないじゃん」

 「ちゃんとバスケできるの?」

 「まあやれるだけやってみるよ」

 僕は内心一応元バスケ部だから大丈夫だろうと思っていた。

 点呼も終わり準備体操などをして各々自分の競技会場に向かって行った。僕たちのクラスは第四試合で試合まで時間があるので先に試合のある女子チームを応援することになった。明城さんは女子のバスケに出るらしい。

 女子の試合が始まっても明城さんは試合に出ない。そのことに疑問を持ちつつも、後半に出るのかなと思った。

 「ヘイ、パス」「こっちこっち」「あ~ドンマイ」そんな女子の甲高い声が体育館に響いていた。

 前半が終わり後半が始まろうとしていても明城さんは一向に試合に出る準備をしない。そのまま後半戦が始まってしまった。試合結果は何とか勝つことができ次の試合に駒を進めた。

 明城さんが体育館を出ていくのが見えたので後を追て聞いてみることにした。

 「みょ、明城さん。なんでバスケの試合出なかったの?」

 「何でて私病気だし、学校にも事情伝えて体育は休ませてもらってるしクラスの子には体が弱いって言ってるし、」

 「そうだった明城さん病気だったねごめん明城さんいつも元気だから忘れてた」

 「え~忘れないでよ本当のこと知ってるの君くらいなんだよ?」

 「ごめんごめん」

 「おーい西川もうそろ試合始まるぞ」

 委員長が伝えに来てくれた

 「分かったすぐ行くよ」

 「じゃあ頑張ってね応援してる」

 「うん」

 僕達男子チームはやる気満々だった。初戦の相手は2年生でバスケ部のエースの人がいた。

 「はあ~初戦から中本先輩とか運悪よな~」

 「中本?」

 「知らねーの?俺のバスケ部の先輩」

 「委員長バスケ部なんだ」

 「委員長はやめてくれよ普通に小林か悟で良いよ」 

 「じゃあ悟で」

 悟は僕に対してフレンドリーに接してくれた。良い奴だと思った。

 「悟はこの球技大会優勝したいと思ってるの?」

 「ん?う~んまあできたら良いなとは思ってるけど難しいとも思ってる」

 「そっか」

 僕は少し本気を出そうと思った。こんな僕に優しくしてくれた人の願いをかなえてやりたいと思った。でも相手はバスケ部のエース僕なんかが本気出したところで何か変わるとも思わないけど。

 【よろしくお願いしまーす】

 両チームが一斉に挨拶をした。

 ジャンプボールから始まった。ジャンプボールは当たり前のように2年生が勝って僕たちはディフェンスから始まった。やはりバスケ部のエースは上手で味方に絶妙なパスを出し続けシュートチャンスを作っていた。作ったシュートチャンスを決めきれずに今度は僕たちの攻撃が始まった。でも両チームとも点が取れずに0対0で時間だけが過ぎて行った。

 それを打ち破るのはやはりバスケ部のエースだった中本先輩にフリーでボールが渡ってしまったそのボールを3Pラインから打った。その放たれたボールは綺麗な放物線を描いたがリングに嫌われしまった。その外れたボールが僕の頭上に振ってきた。僕はそのボールをしっかりとキャッチしてドリブルをした。すぐにディフェンスが来たが僕は広い方へドリブルしていった。次々に来るディフェンスを抜き去り最後中本先輩と一対一の状況になった。僕は中本先輩に向かってドリブルをした、そのままシュートをしようとしたが、当たり前のようにブロックしてくる中本先輩をダブルクラッチをしてシュートを決めた。

 体育館は静寂に包まれた。バスケ部のエースに、まぐれでも1年生が勝ってしまったのだからこんな空気になっても仕方ない。でもたった一人の声が聞こえた。明城さんだった。

 「頑張れーもっと決めろ~頑張れー西川く~ん」

 その声をきかっけに色々な所で声が聞こえてきた

 「おーい中本一年負けてんじゃねーよ」「切り替えてこ~中本君」「まだまだこれから」

 そのまま僕たちのクラスは流れを掴み6対0で前半戦を終えた。

 「おい西川なんだよあのシュートあんなんできるなら先言っとけよ~」

 悟が興奮した声で言ってきた。

 「マジそれな」違う男子がそう言ってきた。女子からも「あんなシュート初めて見た。かっこよかった」僕は「あ、ありがと」と照れながらそう言った。

 「ていうか後半戦どうする?」

 「やっぱり小林と西川は続けて出た方がよくね?」

  悟がその意見に賛成した。

 「そうだな。じゃあ俺たち2人と出てなかった3人で後半戦行こう。絶対勝つぞ」

 そう悟が言うと男子達は【おーー】と気合十分といったところだった。後半戦が始まるというタイミングで明城さんに声を掛けられた。

 「西川君バスケ滅茶苦茶うまいね」

 「ありがと。まああれは不意打ちみたいなところあったから後半戦からはうまくはいかないと思うけど頑張るよ」

 「うん‟私の分まで”頑張って」

 僕は‟私の分まで”という言葉が引っ掛かった。

 「西川多分後半戦からは中本先輩が本気で来るから俺と二人で挟むぞ」

 「ああ。分かった」 

 悟と中本先輩対策を即席で組んで後半戦に臨んだ。

 悟の言った通り中本先輩は本気でプレーしていた。ムキになって前半のように味方にパスなどはあまり出さずに一人でプレーしていた。僕は中本先輩のボールをカットし前を走っている子にパス出しその子がシュートを決めた。点差は8対0まで広がった。

 それでもやはりバスケ部のエースの肩書は本物で気を抜いた悟の方から抜かれ3Pシュートを決められてしまう。僕は悟からボールをもらい時間をかけてゲームメイクをする。パスを回し時間を使う作戦だ。でも中本先輩に見破られパスカットされてしまい中本先輩は連続3Pを決め会場を沸かせた。僕はまたパスを回しながらチャンスを伺う。悟がコートを走り回りディフェンスを躱しフリーになったそれを見逃さずに僕は悟にパスを出した。僕からのパスをキャッチしてシュートを打つ。そのシュートは綺麗な放物線を描きリングに吸い込まれるように決まった。シュートが決まって、タイミングよく試合の終わりを告げるブザーが鳴った。最終点数は10対6で僕たちの勝利だった。

 「君めっちゃうまいねバスケ部入らない?」

 中本先輩にそう言われた。

 「すみませんバスケをするならのびのびしたいので部活はちょっと……」

 「そっか君が居たら良いパスくれそうだったのに。まあいっか。来年は勝つ」 

 それだけ言い残して中本先輩は自分のクラスに帰って行った。

 それからも僕たちのクラスは男女ともに順調に駒を進めて決勝まで来ていた。

 「よーしここ勝てば男女両方優勝だ、絶対勝つぞー-」

 【【【おーーーーーーー】】】そう円陣を組んで士気を高めていた。

 「西川君頑張れ!!」

 明城さんにそう小声で言われた。

 僕たちは苦戦しつつもなんとか勝つことができた。女子の方も勝って男女両方優勝できた。それから成績発表や表彰式等をして、明城さんといつも通り帰った。

 

 帰り道

 僕たちはいつもよりも少し遅いペースで歩いて帰っていた。突然僕の足に激痛が走った。

 「いっっっった」

 僕はそう言って歩道に座り込んでしまった。

 「え?え?大丈夫西川君どうしたの?」

 「足、つった」

 「え!足?と、とにかくあそこのベンチで休憩しよ?」

 「うん」 

 僕はゆっくりと立ち上がった

 「ほら肩貸してあげるから」

 「あ、ありがと」

 僕は明城さんの肩を借りて公園のベンチで休憩した。しばらく休憩してから僕たちはまた歩き出した。また明城さんの肩を借りながら帰った。僕はドキドキしながらも平静を装い今日は僕が家まで明城さんに送られてしまった。


 日曜日も振り替え代休も少しも休めず僕は筋肉痛と戦っていた。休日の間明城さんに遊びに誘われたが筋肉痛を理由に行かないことにした。その埋め合わかは知らないが二日間通話していた。

 

 2月14日

 僕は球技大会の疲れがまだ体にに残りつつも明城さんを迎えに行く。インターフォンを押し明城さんを呼ぶ。

 「おはよ。西川君」

 「おはよ」

 挨拶をお互いに交わし、学校に向かう。

 「おはよー」

 明城さんが教室にいる人に元気よく挨拶をした。

 「美桜おはよー」そんな声があちこちから聞こえた。でも今日は普段は聞こえない声が聞こえた。

 「西川もおはよー」そんな声が少なからず聞こえた。その声を無視していると、明城さんが

 「ほら西川君も返してあげなよ」

 「え、あうん。おはよ」

 僕はそう短く言って自分の席に座った。

 今日は教室がとても浮ついていた。そういえば今日はバレンタインだったことを思い出す。男子達は女子の方をちらちらと横目で見ていた。女子の方は友達同士でチョコを渡し合っていた。例にもれず僕も教科書を入れるふりをして机の中にチョコがないか確認した。チョコは無かった。

 放課後になり掃除当番だった僕は掃除をしていた。ごみ捨てを頼まれ僕はゴミ捨て場に向かっていた。ごみ捨て場に向かう道で誰かの声が聞こえた。

 「こ、これ良かったら受け取てもらえますか?」

 男子の声が聞こえた。今日は女子から男子に送る日ではなかったのかなど思いつつも最近は逆チョコというものもある。これから告白でもするのかと思い、僕はその場を離れようとしたその時、聞き慣れた声が聞こえた。

 「えーありがとこれ逆チョコってやつなのかな?」

 「う、うんそうなんだ。今日は明城さんに伝えたいことがあって……。明城さんのことが好きです。」

 明城さんの声と男子の告白を聞いて僕は何故か胸が痛くなった。

 「あ、ありがとでも私……」

 「うん知ってる。西川と付き合ってるってこと。でも好きて伝えたかった。ごめんね迷惑だったよね。それじゃ」

 そう言って明城さんに告白した男子は走って去って行ってしまった。僕は明城さんが去るのを待とうとその場に立っていると明城さんがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。僕は慌てて隠れようとしたが、周りに隠れることのできる場所はなかった。

 「何やってるの西川君」

 「……」

 僕はごみ袋を壁に体を丸めて隠れていた

 「西川君もしかして見てたの?」

 「い、いや見たというか見えてしまったというか……」

 「まあいいけど。言い触らしたらダメだよ」

 「それは安心して僕学校で喋れるの明城さんぐらいだから」

 「それ自分で言ってて悲しくならないの」

 悲しいに決まってる

 「そんなことより。何で告白断ったの?」

 「今は君の彼女だし、それにたとえ付き合ったとしてもあと2年ぐらいしか私、生きられないし。悲しませることになるの目に見えてるから断ったんだ」 

 明城さんは淡々と言い放った。

 「……そっか。じゃあ僕ごみ捨てるから」

 僕はごみを捨てて教室に戻った。教室に戻ると明城さんが待って行った。

 「あ戻ってきた。」

 「先帰っててよかったのに。」 

 「渡したいものがあるから待てたんだよ」 

 「渡したいもの?」

 「うんこれ」

 明城さんは少しもじもじしながら自分の鞄から小箱を取り出した。

 「は、はいこれ。」

 「なにこれ?」

 「見てわからないの?今日は何の日?」

 「?バレンタインだけど?」

 「それ分かってたらこれが何かわかると思うけど?」

 明城さんがそう言うっとさすがの僕でも理解できた。

 「え?ほんとに?」

 「うんいつもお世話になってるから。」

 「僕こそいつも明城さんにはお世話になってるよ。いつもありがと」

 「いいよそんなの。それよりも受けっとってくれますか」

 なぜか明城さんは敬語になっていた。照れてるんだろうと思った。僕もきっと顔が赤くなっている。

 「はい。」

 僕は明城さんから小箱を受け取った。

 「じゃ、じゃあ私はこれで」

 そう言って明城さんは自分の鞄を持って走って帰ってしまった。

 僕も帰宅しご飯を食べ、リビングでもらったものを開けるのは恥ずかしかったので自分の部屋に行き、明城さんからもらった小箱を開けた。

 中に入っていたものは色々な形をしたチョコと一枚の紙だった。その紙には

 『いつもありがと。』

 と書かれていった。僕は今日の放課後に感じた胸の痛みを再び感じた。チョコはとても美味しかった。

 

 翌日

 今日も明城さんを迎えに行く。明城さんの家に着き、インターフォンを押した。

 「お、おはよ」

 「おはよ。昨日のチョコ美味しかった。ありがと」

 「ホント?よかった~」

 僕は昨日見た紙については触れなかった。

 「ホワイトデーは期待してもいいのかな?」

 「うん期待してて」

 そう言った僕たちは肩が触れ合う距離で並んで登校した。

 

 

 

  

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