第10話誕生日

 年も明けて季節もすっかり冬になって雪も降りだしてきた今日この頃。教室を暖房の温かい空気が包む。午前中は雪が降るらしいが午後からは雪が止むらしい。僕たちはいつも通り一緒に登校した。もう、お馴染みになりつつある光景にクラスメート達は驚いたりはしなくった。本当は偽彼氏なので、本当に明城さんのことが好きな男子には申し訳ないと思ってる。

 始業式ということで授業などはなく課題を提出したり掃除したり諸連絡などをして下校となった。

 「はぁ~疲れた~」

 「うん。まだ正月気分だから余計に疲れた」

 冬休み明けの最初の学校ということで普段の学校よりも疲れた。

 「これからどうしようか?」

 明城さんが聞いてきた。

 「どうしようって寒いから真っ直ぐ帰宅するつもりだけど」

 「え~遊びに行こうよ~」 

 明城さんが駄々をこねた子供のように騒いだ。

 「じゃ、じゃあちょっとだけならいいよ。」

 僕たちは遊びに行くために駅に向かった。

 「何しようか?」

 明城さんがそう言った

 「そうだね。ゲーセンでも行く?」

 と僕が提案すると

 「良いねそれじゃ行こう。」

 僕たちはゲーセンに向かって歩き出した。

 「よし、あれで勝負しよう」

 明城さんは目の前にある格ゲーを指差した。

 「よしやるか」

 僕たちは時間も忘れて格ゲーをした。


 時刻は6時、冬ということもあってあたりは暗い。天気予報も外れ雪も降っている。僕たちは二人とも傘を持ってきていないので足止めを食らっていた。

 「あーこれじゃ帰れないね」

 「そうだね」

 僕たちの家は駅からは3kmぐらいあって歩いて帰るには少し遠い。

 「何しようか?」

 「まだ何かするの?」                                                                                              

 「だって暇だし。雪も止みそうにないし」

 「じゃ何するの?」

 「じゃあ何か食べようか、お腹減っちゃった」

 僕たちは何か食べるためにフードコートに向かった。

 時間も時間だったので夕飯を食べて行こうということになってフードコート内にある焼き肉屋に入った。

 「焼肉なんて久しぶりに来るなあ~」

 「確かに僕も久しぶりに来たなかも」

 僕たちは店員さんに席に案内された。それから店の利用方法などを聞いてから一番下のコースを二人分注文した。

 それから僕たちは焼肉を堪能してお会計に向かった。

 「はあ~美味しかったね。また来ようね」

 と元気よく明城さんが言った。

 「そうだねまたいつか」

 料金は二人合わせて5000円ぐらいだった。

 「じゃあ一人2500円だね」

 「そうだね。あ、」 

 「ん?どうしたの。もしかしてお金足りない?」

 「い、いやそうじゃないけど500円玉がない」

 「え~どうする?」

 「じゃあ僕が3000円出すから明城さんは2000円で良いよ」

 「そ、そんな悪いよ。私が3000円出すよ」

 「たまには格好付けさせてよ」

 「じゃ、じゃお願いしようかな」

 僕たちはお会計を済ませた。すると明城さんの財布から何か落ちたのが見えた。明城さんはそれに気づかずに店を出ようとしている。僕はその落としたもの拾い上げた。拾ったものは学生証だった。その学生証には学校名や個人情報がたくさん載っているので、すぐに返そうと明城さんを追いかけた。僕はその学生証で明城さんの誕生日が目に入った、1月20日だということ知った。

 「明城さんこれ落としたよ」

 僕はさっき拾った学生証を明城さんに手渡す

 「え?わぁ!ありがと」

 明城さんは僕が拾った学生証を大事そうに受け取った。

 

 時刻は7時30分

 外を見てみると雪は止んでいた。

 「雪止んでくれた~ねぇ」

 「そうだねこれで帰れるね」

 と僕が言うと明城さんは不満そうに

 「そんなに私と居たくないの?」

 と言ってきた

 「そうじゃないけど、女の子を夜遅くまで連れ回すのはよくないと思って」

 「え?あ、そ、そうだね女の子を遅くまで連れ回すのはよくないね、うん」

 そう言いながら明城さんは俯いていた。

 僕はいつも通り明城さんを家まで届けてから帰路に着いた。自分の家に向かっている間、僕は明城さんの誕生日に何かプレゼントをしてあげれないかと考えながら帰っていた。家に着いてからも僕は誕生日プレゼントについて考えたが僕が考える物はどれもパッとしない。ネットとかでも調べたが、手元に残らないものが良いとかいろいろ書かれていたが僕は今まで女の子にプレゼントしたことがないので、何をプレゼントすればよいか分からず、悶々と考えていたが埒が明かないと思い、明日南さんにでも聞こうと考え寝た。


翌日

 僕は放課後になるのを待った。今日は明城さんは風邪でお休みしていた。2学期の最後も、風邪を引いていたので僕は心配しつつも誕生日プレゼントについて南さんと話せるチャンスだと思った。

 「南さんちょっといい?」

 友達と話していた南さんを呼んだ。

 「何?」

 「ちょっと明城さんについて聞きたいことがあるんだけど」

 「美桜について?」

 「うん。もう少しで明城さんの誕生日だから何か贈りたいなって思って」

 「それで?」

 「僕、明城さんの好きなものあまり知らないから教えて欲しいなって」

 「美桜の好きなもの?彼氏なのにそんなことも知らないの?」

 南さんは僕に対して疑いの目を向けてくる。

 「彼氏と言っても付き合ってあまり時間も経ってないし」

 僕は南さんに苦し紛れの嘘をついた。バレていないことを信じた。

 「美桜の好きなものかあ~。何があるかな」

 「僕的にはあまり手に残らない物の方がいいのかなって思ってるんだけど」

 僕は昨日、僕が頑張って絞り出し、たどり着いた結論を南さんに話した。南さんも僕の考えに賛成してくれた。

 「確かに手に残るものより消耗品とかの方が良いかもね」

 「例えば何があるかな?」

 「そうだね、香水とかハンドクリームとかが良いじゃないかな」

 南さんは僕なんかでは考えつかないような女の子目線の案を出してくれた。

 「香水かハンドクリームか。もし香水にするとしたらどんな匂いのものが良いかな」

 「女の子に人気の匂いはフローラルとか石鹸、柑橘系とかかな。まああとは自分で考えてみて」

 南さんは僕に女の子が好きな匂いを教えて友達と一緒に帰って行った。

 「ありがとう南さん」

 南さんは僕の言葉に反応しなかった。

 僕は次の休みに香水を買いに行くことを決めた。


 1月14日土曜日

 僕は明城さんの誕生日プレゼントを探すために駅まで来ていた。と言っても何を買うかはもう決まっているので、お目当てのものからどれにするのかまた選ぶのだ。

 僕は香水が売っているお店に向かった。お店にはやはり女性が多くおそらく男性は僕一人だろう。お店に男性がいることが珍しいのか店員さんに声をかけられた。

 「何かお探しでしょうか」

 「え?あ、いや誕生日プレゼントに香水をプレゼントしようかと思って」

 そう僕が言うと店員さんは目を輝かせながら

 「まあ~それはいいですね。どのような匂いにしようとか予算額などはおいくらでしょうか」

 「そうですね匂いはフローラルか石鹸、柑橘系のどれかにしようかと思ってます。予算は3000円ぐらいですね」

 そう僕が言うと店員さんは少し考え、僕が欲している物の売り場に連れて行ってくれた。

 「こちらに並んでいるものが良いかと思います」

 と店員さんが見せてくれた香水は僕が提示した匂いと値段に合ったものだった。

 「女性はどんな匂いが好きなんですかね?」

 僕はこの前、南さんにした質問と同じことを聞いた。

 「そうですね先ほどお客様がおしゃっていたフローラル、石鹸、柑橘系この三つが女性から人気で男性人気も高いですね」

 そう言われて僕は考えた。明城さんの好きな匂いなんて僕は知らないし、どうやって決めようか迷った。僕はこの三つの香水の匂いを一通り嗅いだ。その中で一番良い匂いの香水を渡そうと思った。僕の好みで良いのかとも思ったが、仕方ない。

 「じゃあこの石鹸の香水をお願いします」

 僕は三つの中で一番好きな匂いのものを買うことにした。

 「はいありがとうございます」

 僕は店員さんとレジに向かった。

 「これプレゼント包装にしてもらてもいいですか?」

 「分かりました」

 店員さんは快く僕が買った香水をプレゼント包装してくれた。僕は店員さんが包装してくれた香水を持って店を出た。店を出る直前に店員さんが「ありがとうございました。またお待ちしております」とお辞儀をしていた。僕は軽く会釈をした。

 

2023年 1月20日

 今日は明城さんの誕生日だ。いつも通り僕と、明城さんは一緒に登校していた。教室に着くとクラスメート達が明城さんに駆け寄ってきた。

 「美桜、誕生日おめでとう」「明城さん誕生日おめでとう」クラスの男女関係なしに明城さんの誕生日を祝っていた。僕はその光景に圧倒されながらもなんとか自分の席に着いた。

 僕は授業中ずっと、どうやって明城さんにプレゼントを渡そうか考えていたらいつの間にか放課後になっていた。

 僕が帰り支度をしていると先に帰り支度を済ませた明城さんが両手に紙袋を持って立てていた。

 「帰ろ西川君」

 「うん」

 僕たちは二人並んで帰っていた。僕は明城さんと会話を交わしながら歩いていたが内心とても焦っていた。どこで渡そうか、どうやって渡そうか頭の中で考えていた。そんなことを考えていると、明城さんの家がもう目の前に来ていた。

 「じゃあ、また明日ね」

 明城さんが自分の家に入ろうとしていた。僕は慌てて明城さんを呼び止めた。

 「みょ、明城さんちょっと待って」

 明城さんはキョトンとした表情で立っていた。

 「じ、実はこれ明城さんにと思って、ほら今日明城さんの誕生日でしょ」

 僕は先日購入した香水を鞄から出した。

 「え、そうだけど、なんで西川君私の誕生日知ってるの?」

 「この前明城さんの生徒証を拾ったときに見えちゃって、いつも話してもらってるからなんかプレゼントしたいなって思って」

 「そっかありがと。中見て良い?」

 「うん良いよ」

 明城さんは包装を丁寧に解いて中身を見た。

 「これって香水?」

 「うん。嫌だった?」

 明城さんは首を横に振った。

 「ううん。嬉しい。この匂い私好きだからとっても嬉しい」

 明城さんは香水を少量手に出しながら言った。

 「そっかよかった。明城さんの好きな匂いとか知らないから勘だったんだけど好きな匂いならよかったよ」

 「じゃあ次は私の番だね」 

 「え、次って?」

 「だから次は私が西川君に誕生日プレゼントをあげる番てこと。西川君の誕生日っていつ?」

 「3月6日だよ」

 「あと2ヶ月くらいだね期待して待っててね」 

 「うん期待しとく」

 「それじゃあ香水ありがと大切に使うね、また明日」

 「うんまた明日」

 僕達は手を振り、お互いの家に帰った。


 翌日

 僕はいつも通りに明城さんを迎えに行った。インターフォンを押し明城さんを呼んだ。

 「おはよ~」

 明城さんは目を擦りながら出てきた。

 「もしかして目不足?」

 「うんちょっとね。学校行こっか」

 「うん」

 そう言って僕の隣を歩く明城さんからは石鹸の匂いがした。

 

 

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