第7話 それでも桜庭佳南は
"幼馴染みざまぁ"を見届けた次の日、俺はいつも通り遅刻寸前に教室の前に着いた。
「っぶねぇ……」
少しだけ切れ気味な息を整えた後、俺は勢い良くドアを開けた。
「うぃーす──……?」
こうやってクラスの奴に挨拶出来るくらいには俺は友達が多い。
陰キャだと勘違いしてた奴は考えを改めるよーに。
と、そんな事を言ってる場合じゃないな。
クラスの雰囲気が少し異様だ。
原因は──あー……まぁ見ればすぐ分かる。
いつもなら担任が来るまで友達と騒がしくしてる佳南が、一人で自分の席に座っている。当然だが元気があるようには見えない。
それだけでこの"腫れ物に触るな"みたいな空気の原因が分かった。
……噂が回るのは本当早いこって。
俺は教室の空気を読みながら、静かに窓際の自分の席へ向かった。
そして席替えがあったってのにまた前後の席になった倉橋君に声を掛けた。
「ちょ、倉橋君何この空気。君皆にどんな説明したの」
俺が小声で聞くと、倉橋君も俺に顔を近付けて囁き声で答えた。
「あ、おはよう要君。それが……昨日あの後エミちゃんに『見事フッてやりました!!』って報告したら『じゃあ皆に広めてあの女一人にしてやろーよ』って言われて……」
「それ……許可したのか……!?」
「う、うん……でも僕からしたらそれくらいの報いは受けて欲しいよ。正直今気分が良いくらいなんだから」
「……まぁ……そうだろうな」
佳南がやらかした事を考えればそれは仕方ないとも言える。
これが倉橋君を中心とした何かの物語だと思えば、佳南の現状は寧ろ"ざまぁ見ろ"ってところだろう。
昨日までモブのような事をしていた俺が口を挟める状況ではない。
「高知君……!」
「ん?」
俺がどうしたものかと思案していると、お隣の席の天使──間違えた。美少女、
彼女は清純という言葉が良く似合う、この3ヶ月でささくれ立っていた俺の癒しだった。
見た目も綺麗な黒髪をややショートめに切り揃え、前髪を目に掛かるくらいで横に流した、正直普通の女の子だ。
だが俺の周りは変な奴が多いからこそ、この普通が癒しでもある。普通に可愛い。普通に美少女。ん?普通ってなんだ……?
ま、まぁいわば特徴が無いのが特徴って奴だな。うん。
「……何か失礼な事考えてない?」
「滅相もございやせん。で、どったの筑波」
「い、いや分かるでしょ?桜庭さんの事だよ。聞いた?」
「んーまぁ一応後ろの倉橋君からは」
俺が親指で倉橋君を指すと、困ったように倉橋君が笑う。
「あはは、迷惑掛けてごめんね筑波さん」
「迷惑……ではないけど……」
筑波は──こうやって呼び捨てにするくらいには仲が良い……筈だ──口元に手を当ててひそひそと、それこそ倉橋君にさえ聞こえない声で呟いた。
(高知君……桜庭さん何とか出来ないの?さすがに可哀想だよ……)
(お前……でも事情を聞いたならあいつも悪い事くらい分かってるだろ?)
(分かってるつもりだけど……でも……)
筑波はそう言った後、しゅんとなって落ち込んでしまった。
2年になって3ヶ月、幾度も話して来たから分かるが筑波珠奈とはつまりこういう女の子なのだ。
困ってる人が居たら手を差し出したいし、自分の犠牲を厭わない性格をしている。
ドブに落ちた友達のスマホを笑顔で拾って来るような場面を見たことだってある。な?天使だろ?
そんな子が俺なんかに佳南の心配をしてくるんだ。
きっと自分じゃどうしようも無いことを分かってるんだろう。
だからって何で俺なんだよ……と思いもするが、こういう時、女の子が女の子を助けるのは少々まずかったりする。
派閥という奴だな。男子にもなくはないが、女子のそれは男子の想像の遥か上を行く。
自分が気軽に手助けして、自分の友達に迷惑を掛ける事だってある。
筑波は今両天秤に掛けてどちらにも沈まないんだろう。
だから他人の助けが要る。見捨てりゃ良いのにな。どうせ悪いのは佳南だ。
俺はチラリと時計を見た。
時刻はもう今にでも担任が来る頃だ。
(筑波……悪いが今はどうしようもない。もう担任も来るだろうし)
(……そう、だね。ごめんね変な事言って……)
(あ、あぁ……)
あれれ、何か好感度がガクっと減った気がするのが気のせいか?
だが予想通りすぐに担任が来て、ホームルームが終わると同時に授業が始まった。
そこから昼休みまで、ずっと佳南は一人だった。
授業の間の10分休みも。いつもなら友達や倉橋君と過ごしている時間だ。
だが昼休みもそれではさすがにきついだろう。
ボッチ飯って奴の辛さは半端じゃない。俺も一度経験がある。
昼休みになり、クラス全員が各々の友人達と席を囲む中、いつもならその輪に居る佳南はやはり一人だった。
それを見て、もう居ても立っても居られなくなったのか、筑波が立ち上がりそうになったのを見て、俺は待ったを掛けた。
「高知君……?」
「……」
悪いのは本当に全部あのバ佳南だ。
それは依然として変わらない。
今この空気は倉橋君の言う通りあいつが受けるべき報いだろう。
──でも、それでも、今俺とあいつは協力関係にある。
俺はいつもなら倉橋君や他の男友達で集まって食う弁当を持って、一人ぼっちのクラスメイトの席へ向かった。
「おい、佳南。ちょっと付き合ってくれよ」
「……!要……?」
本当に驚いたようにアホ面を向ける佳南。
俺は固まって動けずに居る彼女の腕を無理矢理引っ張って教室を出た。
その時、誰かが俺の名前を呟いた気がした。
「高知君……桜庭さんの事名前で……?」
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