ただひたすら剣を振る、そして俺は合成魔獣と戦う。(3)
「まさかギルバートがこんなことになっているなんて……。念のためリトナを連れてきてよかったわ」
「面倒をかけてすまないな」
「少し楽にしていてくださいね。まずは
俺の体に手をかざし、リトナは魔法の詠唱に入る。
「異常を
たちまち俺は淡い光に包まれた。温かくて気持ちがいい。まるで風呂に浸かっているような感覚だった。
「どうですか?」
「……おお、楽になった」
気づけば頭痛や吐き気も治まっていた。
一時的に失っていた視力も戻り、彼女たちの顔もよく見える。
「よかったです。では、続けて治療します」
リトナはにっこり笑って、【
再び全身が淡い光に包まれ、見る見るうちに回復していく。
「ありがとうリトナ。心なしかいつもより体調がいい」
「ふふっ、それは気のせいだと思いますよ」
俺は立ち上がり、体の調子を確かめる。どこも痛くない。折れていた骨も元通りだ。
「驚いたわリトナ。あなた本当にすごいのね!」
「これでも治癒士を目指していますから。でも、まだまだです」
「そんなことないわよ! マルクス先生の傷も治しちゃうし、とんでもない才能よ」
「……そうだ、マルクス先生!」
俺はハッと思い出す。再び現れた魔物の群れはどうなった? みんなは無事なのか?
「な、なぁ二人とも、こっちにきて大丈夫なのか? みんなは?」
「安心しなさい。魔物はすべて撃退したわ。意識を取り戻したマルクス先生が片付けてくれたのよ。あっという間だったわ」
「マルクス先生が? 瀕死の重傷だったはずじゃ……」
「リトナの回復魔法のおかげよ。ね?」
リリアンの視線を追いかけて、俺もリトナの方を見る。
「はい。大事に至らなくてよかったです。Eクラスのみなさんも無事ですよ。今は休息を取っています」
俺の目を見ながら、しっかりとした口調で言う。
自信なさげに俯いていたリトナはもうどこにもいない。すごく頼もしかった。彼女も成長しているんだ。
「デュークが魔物になったことは、マルクス先生と連れてきたリトナにだけ伝えてあるわ。これ以上みんなを不安にさせるわけにもいかないし」
「そうだな。どのみち、あまり言いふらさないほうがいいかもしれない」
リリアンにそう言って、俺は足元の
「使う? アタシの
「ありがとう。でも大丈夫だ」
「けど、その剣じゃ……」
「まあ見ていてくれ。少し試してみたいこともあるんだ。うまくいけば、デュークを助けられるかもしれない」
目を閉じて深く息を吐く。
デュークが無理やり呑まされた小さな肉塊――アレだけをどうにかできれば、
「あなた、まだ助けるとかそんなこと言ってるの!? あいつは――デュークはもうッ、魔物なのよ!」
「…………」
俺が何も答えないでいると胸ぐらを掴んできて、
「戦って……殺すしかないのッ。もう、殺すしかないのよ……!」
リリアンは自分に言い聞かせるように言った。
「リリアン……」
今にも泣きだしそうな目をしている。こういう時、咄嗟に言葉が出てこない。
リリアンにどう声をかけていいか俺が悩んでいると――
「アハ、アッハハハハハ!」
聞こえてきたのは耳障りな笑い声だった。
俺たちは顔を見合わせ、大きな氷山を振り
「……そろそろアタシの魔法も限界のようね」
リリアンの【
「やってくれるじゃないか。えぇ? リリアンくぅん」
氷の中でダンタリオンが
「ガルゥァアアアアアアアアアアッ!!」
「まさか騎士学院の
氷の破片が降りしきる中、ダンタリオンは白衣の肩を手で払う。手足を拘束していた【
「でも、まだまだ未熟だ。この程度の魔法練度じゃ、ワタシとキマイラは止められないぞぉ?」
こちらを威嚇するように再びキマイラが咆哮を上げる。
俺に助けを求めていた時の不安定さはない。デュークの意識は感じ取れなかった。
「リリアン、リトナ、お前たちは下がっていてくれ」
二人を追い越し、俺は前に出た。
「……本当にデュークを助けられるの?」
リリアンが半信半疑の顔で問う。その頬には涙の跡が光っていた。
「まあ、やれるだけやってみるさ」
俺は笑顔でそう言って、リリアンの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「うん。……でも、いざという時は――」
「わかってる。ようやく、その覚悟もできた」
前方のキマイラを見据えて答える。もう迷わない。
「不思議ね。あなたなら本当に助けてしまうんじゃないかって気がしてきたわ」
「……あまり期待されすぎても困るぞ?」
「ふふ。デュークのこと、頼んだわね……じゃあリトナ、あたしたちは離れましょう」
「はい、リリアンさん」
と、リリアンに返事をしてから、リトナは俺の顔を見て、
「私もギルバート君のことを信じて待ってます。あの、安心してください。死ないかぎりはどうにかしてみせます……!」
なんとも心強い言葉をかけてくれた。
俺は「ありがとう」と返す。
「よし――やるか」
駆けていく二人の背中を見送り、俺は長剣を地面に突き刺した。
そして目を閉じる。吸い込んだ息を吐きながら、集中力を極限まで高めていく。
「強くイメージしろ。長剣の重さを、刀身の長さを、柄を握った感触を……」
たとえこの手に剣がなくとも、体がすべてを覚えている。
何千、何万、いやもっとか。数え切れぬほど振ってきた剣を、心が覚えている。
「――――見えた」
イメージでつくりあげた剣の柄を両手で握りしめる。
「はぁッ!」
残った魔力を振り絞り、見えない刀身に付与させた。
ドクンッ、と。
金色の
「……魔法剣、とでも今は呼んでおこうか」
静かに目を開けた俺の手には、魔力で形成された"
「そろそろいいかい? 待ちくたびれちゃったよ」
「ああ。悪いな」
半円を描くように右足を引き、握っている光剣の柄を右耳の横に持ってきて、その切っ先を魔怪獣の巨体に向ける。
「いいってことさ。それより頑張ってくれよぉ? ワタシはキマイラが戦っている姿をもっともーっと見たいんだ」
幸いダンタリオンが参戦してくる気配はない。
今は最高傑作だと豪語したキマイラの強さを、その性能を確かめたいのだろう。
「しかし驚いたよ。まさか
「いや、さっき思いついた。成功して内心ホッとしている」
「……ふぅむ。やはり面白い。あの
「それは死んでも
そこで会話が途切れ、辺りは静寂に支配された。
張り詰めた空気が重みとなって俺の肩にのしかかる。
「さあ行け、キマイラよ!」
ダンタリオンの命令を受け、魔怪獣が爆ぜるように飛び出した。
それに合わせて俺も動き出す。地を這うように森を駆ける。
「ッ――!」
数舜の後、俺たちは激突した。
光剣と鉤爪が交錯し、その衝撃は嵐となって吹き荒れる。
光剣越しにキマイラを見据えながら、俺はさらに魔力を金色の刀身に供給した。
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