ただひたすら剣を振る、迷い込んだ路地裏で共闘する。(1)
それからしばらく逃走劇が続いていたが、行き止まりに阻まれリリアンさんは足を止めた。
俺は建物の陰に身を隠し、助けに入るタイミングを窺う。
「どうやらここまでのようだな、リリアン・ローズブラッド。手間をかけさせやがって」
黒いローブの集団の先頭、リーダー格らしき奴が腰の剣を抜く。
「お前ら、この小娘をひっ捕らえろ。手荒くなっても構わん」
「アニキぃ。こいつ、話に聞いていた通り上玉だ。たっぷり楽しんでから引き渡しましょうよ」
リーダー格の斜め後ろ、手下と思わしき男が「ぐへへ」と
私服姿のリリアンさんは前にも増して妖艶だった。花柄のワンピースを豊かな胸が内側から大きく押し上げている。
入学試験の時よりも薄着だからか、スタイルの良さが強調されている気がした。
「……好きにしろ。殺さなければ問題ない」
「ヒャッホー! さすがアニキだ。話がわかるー。おいてめぇら、お許しが出たぞぉ! みんな仲良くスッキリしようぜ!」
黒いローブの集団が歓喜している。
下品極まりない一幕に腹が立ち、思わず腰に帯びた
「あら、あなたたち何か勘違いしてない?」
華麗に後ろを振り返り、リリアンさんが腰の剣を引き抜く。よく手入れされた
「……勘違い? どういうことだ」
「上手くあたしを追い込んだつもりでしょうけど、逆なのよ。ここで狩られるのはあなたたちの方なんだから」
挑発ともとれるリリアンさんの言葉に、黒いローブの集団が一斉に武器を構える。
殺気立っていた。そろそろ行くか。
「楽しそうだなリリアンさん。俺も混ぜてくれよ」
歩きながら抜刀し、自分の存在を主張するように言う。
黒いローブの集団を俺とリリアンさんで挟み撃ちするような形になった。
「っ。あなたは! ……ふふっ、いいわよ。一緒に楽しみましょ」
リリアンさんは驚いた顔で俺を見ていたが、すぐに調子を取り戻して剣を構える。
よかった。向こうも俺のことを覚えていてくれた。
「貴様、何者だ! 我々の邪魔をするというのか!」
「その子とは顔見知りなんでね。詳しい事情はわからんが、俺は彼女の味方として参戦する」
「フン! 学生風情が。我らを甘く見たこと、たっぷりと後悔させてやる……ッ!」
ああ、そっか。学院の制服を着てるんだった。まだ入学してないから学生じゃないんだが――細かいことは気にしなくていいか。
「その台詞、そっくりそのまま返してやろう」
「死ねぇええ! クソガキぃいいいいい!」
俺の言葉に我慢できなくなり、一人が独断専行で斬りかかってくる。
それを皮切りに戦闘が始まった。
「悪党とはいえ、殺すわけにはいかんよな」
殺到する黒ローブたちの動きを見切り、止まない攻撃を躱し続けながら、俺は父さんの言葉を思い出していた。
「むやみやたらに本気を出すな、か。どれぐらい手加減すればいいのかわからんぞ」
足を止め、顎に手を当て考える。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたぁ!? もう疲れちまったかよ!」
背後に回り込んだ奴が、細い短剣で突きを繰り出してくる。
考え込んでいた俺は無意識にそれを避け、振り向きざま袈裟懸けに斬る――
あ、ついやってしまった。
「……ふぅ。刃引きした剣でよかったー」
ピクリとも動かないが血も流れてないし生きてるだろう。
俺は安堵の息を吐いて、再び剣を構える。
「ん? どうした。かかってこないのか」
連中が急に俺を警戒し始めた。
さっきまで馬鹿みたいに突進してきたのに、一人やられたくらいで情けない。
「それなら、こっちから行くぞ」
言うや否や、俺は動き出す。
刃を落とした剣ならそこまで手加減しなくても死なないことがわかったので反撃開始だ。
「――よし。こんなもんか」
ドサリと音を立て、俺に襲いかかってきていた最後の一人が倒れる。斧が地面に落ち、鈍い金属音が路地裏の闇に吸い込まれる。
「リリアンさーん。俺の方は片付いたけど、一人で大丈夫か?」
リリアンさんはまだ戦っていた。といっても、残っているのはリーダー格のローブ男だけ。他の連中は折り重なるように倒れ伏していた。
「ば、馬鹿な! この短時間に全員やったのか……ッ」
俺の方をチラリと見て、リーダー格のローブ男が驚愕する。
「あら、もう終わったのね。でも、こっちはあたし一人で十分よ。悪いけど少し待っていてくれる?」
手助け無用とばかりに笑って、リリアンさんは片手半剣を引き絞る。
「ローズブラッド流剣舞――【
瞬間、超高速の三連刺突がリーダー格のローブ男に放たれた。
「ぅぐ……ッ!」
辛うじて一撃目を剣で防いで見せるが、抵抗もそこまで。
二撃目、三撃目を腹部に受け、ローブ男は前のめりに倒れた。
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