第4話 王の愛妾?

 そうしてアキムは、セラを部屋に招くと、たくさんのお菓子でもてなした。


 並べられたスイーツは、どれも繊細な細工が施され、色とりどりに輝き、まるで宝物のよう。

 目を丸くしたセラは大喜びで、アキムの勧めるままに様々なお菓子を楽しみ……、その日から、セラにとって不思議なことが始まった。


 セラの部屋に、アキムからたくさんの贈り物が届くようになった。

 華麗な布地だったり、高価なドレスだったり、花に宝石にと、置く場所に困るほど積まれていく。


 そして散策するたびにアキムと偶然・・出会うのである。

 すると決まって彼はセラを誘い、散歩や食事などを楽しんで……、そうこうするうち二人ふたりの会話はいつも明るくはずむようになっていた。


 アキムと出歩くことで、城の人間やハルオーンの民たちと接する機会も増える。

 未来の王妃セラはあたたかく受け入れられた。


 丁重かつ細やかに接してくれる人々のおかげで、セラは早くも新しい環境に慣れ始めていた。

 若い順応力である。


 けれど依然として、海行きを許して貰えないという問題が、セラにはあった。


 猫かぶり総動員フルバージョンで頼み込んでみても、無理だった。

「あなたのために、庭に大きな池を作りますから」との代案なら出してくれたが。


 たまりかねて理由を尋ねてみたことがあった。


「海には良い思い出がないのです」


 そう答えたアキムがあまりに辛そうだったので、セラはそれ以上ねだれず、うやむやのままに一月ひとつきも過ぎたころ。



 ある日セラが歩いていると、宮の一角が騒がしい。


 なにやらたくさんの人夫たちが、調度品やら大物の家具を部屋に運び込んでいるようである。

 けれどセラの部屋ではないし、家具も揃って派手やかで、セラの好みではない。


(? なんだろう?)


 約束していたから、ちょうどアキムの部屋に向かうところだった。

 彼に聞いてみたら、すぐにわかる。


 そう思って。


 アキムの部屋前の廊下に進んだセラは、息をんだ。


「では陛下。よろしくお願いいたします」


 扉から出たところで、ひとりの女性が優雅に礼をとっていた。

 室内にいるアキムに退室の挨拶をしていたところだと察するが。


 そのまま彼女はこちらに歩いて来たので、自然、セラと会うこととなった。


「あら……。もしやセラティーア姫様ですか? スイハ国の」


 こくり。

 

 どうしたことか声が出ず、かろうじて頷くことで返事をした。


「わたくしはマリエラ・ミディスと申します。どうぞお見知りおきくださいませね?」


 妖艶、ともいえる美女の微笑みの前に、セラは完全に固まってしまった。


(身体が動かない。なんで?)


「ふふっ、お話しにお聞きしていた通り、お可愛らしい方ですこと」


 手に持つ扇子センスで優雅に口元を隠すと、マリエラという女性は軽く礼をして、そのまま歩き去ってしまった。


(え……、え……、いまのは、誰?)


 名はマリエラと言った。


 違う、そうじゃない。

 私が知りたいのはそうではなくて。

 誰??


 アキムに一言ひとこと聞けば済む。



(もし、望まぬ答えが返ってきたら?)



 後宮とは嘘で、アキムはは私だけだと言った!



(でも気が変わったとしたら?)



 とても美人だった! 胸も大きかった!! 香り立つような色気に包まれていた!!



 年上に見えた、華やかな顔立ちをしていた、ゆるやかな黒髪が長くて、すごく美しかった!!




 誰───────!!!!





 気がつけば、セラはきびすを返して、駆けていた。

 なぜかとてもショックを受けて、動揺して、一刻も早くその場から立ち去りたかった。

 マリエラの残り香漂う廊下から、離れたかった。


 セラは、王宮の外に出た。

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