12話 ホンマに、ありがとうな

 その日は仕事から帰って来た薫オトンも一緒に夕食を食べた。


 現役警察官の薫オトンは、とても大らかな人で、おれが割ったガラスの件も「子どもは元気が一番」と笑いながら許してくれた。




 風呂(旅館の大浴場)に入って、部屋に戻ろうとした時、薫に呼び止められた。


「秀、ちょっとええか?」


「え、うん、いいけど……」


 薫が、いつもの爽やか笑顔でないのが気になった。




「ここなら誰も来うへんやろ」


逢坂家から少し離れた山のふもとに連れて来られた。


「誰かに聞かれたくない話でもするのか?」


「……特に、美和子には聞かれたくあらへんね」


 薫の顔が今まで見たことも無いくらいに、シリアスであった。


 今までギャグばかりだったから、完全に油断していた。


 どうやら、シリアスパートに突入らしい。


「美和子は、楽しく学校に行ってるか?」 


 突然の質問だった。


「うーん、どうだろうな。アイツ、あまり自分のこと話さないからな。……でも、周りの奴らとはそれなりに仲良くやってるかな。最初は、黒魔導師ってことで浮いてたんだけど、白魔導師にジョブチェンジしてからは、段々とクラスに溶け込めるようになってきてさ。キャラが受けたのかな」


 薫が黙って聞いているので、おれは話を続けた。


「今じゃ、けっこう人気でさ。顔は可愛いのに、男子に媚びるとか彼氏作ろうとかしないから、女子に疎まれることもなくなったし。女子が白鳥に恋愛相談持ち掛けるのも多いし。……なんやかんやで、アイツけっこう人のこと見てるよ。アドバイスとか、的を射てるし。白鳥のお陰でカップル誕生とかも、多いんだぜ?」


 実際、クラスに溶け込むのに半年かかった。


 最初は、黒魔導師で「呪う」とか言って恐れられていたけど、最近はめっきり言わなくなったし。


 白鳥が変わったのと、おれの涙ぐましい努力で、今の白鳥人気は確立されたといっても過言ではない。


 自分から進んで、人の輪の中に入る奴ではないので、おれが何かとサポートしてやったりと。


「……それを聞いて一安心や。美和子が変われたんは秀のお陰やね。……ホンマに、ありがとうな」


 薫が和やかに笑う。

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