13話 まるで、別人だ。

「おれへの毒舌は変わらないけどな」


 これだけは、相変わらずだ。もう慣れたけど。


「美和子だって、秀が嫌いで罵倒してる訳ちゃうで。どっちかちゅうと、好きやと思う。いわば、愛ある罵倒やね。そのうち、罵られることが快感に変わるで、きっと」


「いや、それは絶対に無いから」


 それは、ただのドMじゃねえか。


「……秀に知っておいてもらいたい事があるんや」


 またもや、シリアスな顔になる薫。


「な、何だよ?」


 どうやら重い話らしい。


「……美和子のご両親が亡くなっとるのは、もう知ってるやろ?」


「ああ、白鳥が小学生の時に亡くなったって」


 それを少し寂しそうに話していた。


「……小六の冬頃やった。ご両親が突然の不慮の事故で亡くなったんや。美和子は二人のことが大好きやったから、それはもう大泣きやった。泣いて、泣いて、泣いて、見てるこっちまで辛うなった。……美和子はショックで何も口にしようとせえへんようになった。それを見兼ねたイギリスの祖母さんが、美和子をイギリスに連れ帰ったんや。で、二ヶ月くらい経って、帰って来た美和子は別人のようになってたんや」


 別人のように……。


 薫は、ポケットから一枚の写真を取り出して、おれに見せた。


「これは美和子が小六の夏、わいの家に遊びに来た時の写真や。ご両親も一緒に写っとる」


 写真の中の白鳥は、満面の笑みを浮かべていた。まるで、ヒマワリの様な笑顔だ。


 父親は薫の母の面影が感じられ、端整な顔立ちをしている。


 母親は銀髪で青い瞳で、かなりの美人だ。


「美和子のオトンは、わいのオカンの弟。オカンは弟の忘れ形見の美和子を溺愛しとる。美和子のオカンはハーフや。えらいべっぴんさんやろ。美和子は、この二人のええとこ全部貰うて生まれてきたんや」


 写真の中の三人は、幸せな笑顔を見せている。


「……白鳥、こんな風に笑ってたんだな」


 こんな笑顔は一度も見たことがない。


 微笑むことはあるけれど、こんな満面の笑みは本当に見たことがなかった。


 まるで、別人だ。


「……イギリスに住んどる美和子の祖母さんが、何かしたんやないかって、わいのオカンは言うとる」


「な、何かって?」


 白鳥が以前、イギリスの祖母は本物の魔導師だと言っていた。


 嫌な予感がした。それを聞いてはいけない。


「マインドコントロールによる、性格の書き換え」


 薫の声が、おれの頭の中に冷たく響き渡る。


「誰かと親しくなれば、その人を失った悲しみを感じる。美和子は心が優し過ぎたから、悲しみに耐えられない。だから、誰かと親しくならないように、悲しみを感じないように、心を閉ざした」


 薫の声は冷たい。怖かった。


「……それは、間違っているんじゃないか」


 それは、逃げではないか。


 おれは、震える声で言葉を発した。


「だって、それじゃ……」


 人生、楽しくないだろう?

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