11話 野球やったことあるん?

数十分後、薫は野球部のユニフォームに着替え、相方(キャッチャー)の到着を待っていた。


 ていうか、おれはそんな本格的な勝負だとは思っていなかった。遊びだよね?


「兄ちゃん、決闘でもすんのか?」


 勝也が楽しそうに聞いてくる。


 優と恵美も観戦に来ていた。


「いや、ただの遊びのはずなんだけど」


 薫が、何かガチだ。顔は笑ってるけど。


「おう、来たで~。あれが、わいの相方のポチや」


 ポチと呼ばれた小柄な少年は、頭を丸坊主にした「ザ・野球部」って感じの奴であった。


 そういえば、薫は坊主頭ではない。野球部=坊主というのは廃れているのかもしれない。


 というか、ポチという可哀想なニックネームの由来が気になる所だ。ポチって、犬かよ。


「薫~、この可愛い子、誰なん?」


「わいの従兄妹で、美和子っていうんや」


「わ~、よろしゅうなぁ、美和子ちゃん」


 おれは無視かよ。


「で、こっちの地味そうなのが勝負の相手なんか?」


「地味で悪かったな」


「そやで、秀っていうんや」


「ふ~ん。そんで、君、野球やったことあるん?」


「体育の授業で少しだけ」


 ちなみに、おれはサッカー派だ。中学の時は、もちろんサッカー部。ポジションはベンチ。


「あまり、運動神経は良さそうやないね」


 最近、運動してないしな。


「美和子ちゃ~ん、わい頑張るから、見ててや~」


「いや、お前、球受けるだけだし。おれが打ったら、仕事無しだし」


「キャッチャーなめたらあかんでえ」


「じゃあ、そろそろ始めよか」


 プレイボールだ。


 とにかく、投げたら打つんだよな。


 クラスマッチの時の、まぐれヒットを思い出せ。


 ピッチャーが振りかぶって、投げた。


 なんとなくの所で、バットを振る。


 「当たった……!」


 ボールが、けっこう高く打ち上がる。


 ガッシャーン。


「あ……」青ざめる薫。


「ホ、ホームラン?」現実逃避するおれ。


「いや、どう見たってファウルやろ」意外と冷静なポチ。




 その後、おれ達(主におれと薫)はガラスを割ったことで、薫オカンから大目玉を食らうことになった。

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