第13話 あんぱんが基本でしょう
次の日は、土曜日だった。
せっかくの休みくらい、家でゆっくりしたいものだが、おれと白鳥は刑事ドラマでよく見る張り込みをしていた。
しかも、待つ相手は犯人ではなく、霊である。
あの後、とにかく霊からの何らかのメッセージがないと、どうしようもないということになり、今日の朝八時から張り込んでいるのだ。
張り込みの現場はいつもの公園。黒歴史をベンチの上にページを開いて置き、石で重しをし、丁寧にペンまで添えて、おれたちは茂みの中に隠れて、霊の登場を待っていた。
「なあ、白鳥。本当に霊は現れるのか?」
「張り込みで大切なのは根気よ。ここで諦めるなんて出来ないわ」
こんな会話が何十回と繰り返された。
しかし、実際に現れたのは皆、生きている人間ばかりだった。
誰かが黒歴史に近づく度に、おれが、それには触らないようにと注意しに行った。
おれの服装は普通だが、白鳥は全身黒ずくめで、マスクと帽子、それにサングラスまで身につけるという、かなり怪しい格好をしていた。
こいつは、何か勘違いをしてるのではないだろうか。
こんな格好では、余計目立つのに。
傍からみれば、怪しい輩が怪しいことをしているようにしか見えないので、そのうち通報されるのではないかと、心配だった。
「なあ、白鳥、もう一時過ぎたぜ。そろそろ、休憩した方がいいんじゃないか?」
昼飯が食べたかった。
土曜は、母が居るため、弟たちに飯を作る必要がなかった。だから、朝から張り込みに付きあったのだ。
いつもだったら、もう昼飯を食っている時間なのに。
「そうね、そろそろ昼御飯にしましょう」
「待ってました!」
「私は『ふわふわ イチゴのムース』と『プレミアム ティラミス スペシャル』が食べたいわ」
「はあ? なにそれ」
「ここから一番近くのコンビニに売っているから、買って来なさい。スプーンも忘れずに貰ってくるのよ」
なんか、パシリみたいだな。……まあ、使い魔なんだけど。
「このお金で、あなたの分も買ってきなさい」
そう言って、白鳥はおれに二千円を渡した。
「余った分は、あなたが好きに使っていいわよ」
意外と太っ腹だ。
「でも、やっぱり悪いし。……自分の分は自分で払うし、余った分も返すよ」
女子におごってもらうなんて、情けなかったから。
「あら、意外と律儀なのね」
白鳥が感心したように言った。
「じゃ、行ってくる」
そう言って、数歩行ったところで、おれはあることに気付いて戻った。
「……あのさ、もう一回商品名、教えてくれ」
白鳥は呆れながらも、教えてくれた。
昼飯を買って戻ると、白鳥は嬉しそうだった。
そんなに、このムースやティラミスが好きなのだろうか。
白鳥は、おれがおにぎりを食ってる横でティラミスを幸せそうに食べていた。
へえ、こんな顔もするんだ……。
「あ、あなた、何でおにぎりなんて食べているの?」
「何だよ。何か悪いのかよ」
「張り込みは、あんぱんが基本でしょう」
それは、常識なのだろうか。
「ティラミス食ってるお前に言われたくない」
「うるさいわね。私は別にいいのよ」
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