第11話 怖くないのか?

少しの沈黙の後、おれは訊いた。

「怖くないのか? ユーレイと同居なんて。おれだったら、耐えられないぜ」

「全く怖くないわね」

 きっぱりと言い放った。少し格好よかった。

「何で?」

 なぜ、そう言い切れるのか。

「元々、霊は黒魔導師より力は弱いのよ。でも、今回の霊は私よりも強力な力を持っている」

「それじゃあ、お前、負けちゃうんじゃないか?」

「黒魔導師が霊如きに負けるなんて、絶対に有り得ないわ」

「絶対にか……。かなり自信があるようだな」

「ええ。そもそも、霊というのは人間の思念の塊でしかないの。だから、自分が強い意志を持っていれば、霊に負けることはないわ」

 強い意志か……。白鳥は常人の何倍も強そう。

「でも、何で思念の塊でしかないものがお前より強い力を持っちゃったんだ?」

「単純に、その人の思いが強いだけよ。思いが強ければ強いほど、大きな力になる……。けれど、どこまで強くなっても思いはただの思いのままで、人間に重い怪我を負わせるほどの危害を与えることは出来ないのよ。……まあ、自分の思いを伝えようとすることはできるけれどね」

「それで、お前の黒歴史にメッセージを残したってことか。……あ、でも、お前は落書きって言ってたな」

 文字ではなく、絵で伝えたのだろうか。

「ええ、かなり乱雑に書かれていたから。あれは文というより落書きに近いわ」

 そう言うと、白鳥は黒歴史を開いて、おれに見せた。

 人の日記を見るのは、少々気が引けるけど。

「……えっ⁉」

 中を見た瞬間、こんな声を上げてしまった。

「うわっ、筆記体、スゲー」

 これなら読もうと思っても読めない。

「そんなに驚くことでもないでしょう。筆記体くらい普通よ」

「い、いや。普通じゃねえよ。……おれ、筆記体なんて読めないし、書けないし」

 さすが、イギリス人の血が流れているだけのことはある。DNAとかに組み込まれているのだろうか。 

「それは、あなたが勉強不足で阿呆なだけ。……まあ、そんなことはどうでもいいわね」

「どうでもよくないぞ。筆記体読めないだけでアホだったら、全国の筆記体読めない奴を全員アホ呼ばわりだぞ!」

「うるさいわね。……ああ、ここよ、ここ」

 白鳥は黒歴史の一部分を指差した。

 おれの主張はスルーしたようだ。

「これが落書き……って、落書きも筆記体かよ」

 ユーレイは外国人さんだったのか。

「……なあ、この黒く塗りつぶされてるとこは?」

 気になったので、訊いてみた。

「あなたが、消してくれって言ったじゃない」

 おれへの呪いの言葉が書いてあったとこね。

「ああ、そういえばそうだった」

 呆れたという仕草をした後、白鳥はもう一度、ユーレイの落書きを指差して言った。

「見ての通り、かなり乱雑に書かれているでしょう」

「……おれ、筆記体の字の上手下手の区別つかねえし」

 同じようにしか、見えないのだけれど。でも、ユーレイが書いたらしいところの方が文字は薄かった。

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