第10話 家族だよ、家族!
白鳥に連れられて着いた所は、昨日と同じ公園だった。
幸い、今日は公園内に誰もいなかったので、すんなりと入ることが出来た。
白鳥がベンチに座ったので、おれも隣りに腰を下ろした。
もし、誰かがおれたちを見れば、カップルだと思われそうだが、実際は黒魔導師とその使い魔である。おそらく誰も想像できないだろう。
「それで、私たちの初めての仕事はこれよ」
そう言って白鳥が取り出したのは、表紙がおどろおどろしい文字で書かれた分厚い本……もとい日記だった。『黒歴史』である。
「黒歴史がどうかしたのかよ。……それよりも、今おれたちがやろうとしてることは仕事なのか?」
「黒魔導師は立派な職業だから、仕事をするのは当たり前でしょう」
立派かどうかは分からないけど。
「それで、仕事の内容なんだけれど……。私の個人的なものなのよ」
「それに黒歴史が関係してるってことか」
「ええ。……この私の黒歴史に落書きをしていった不届き者がいるのよ」
落書き⁉ なんか、子どものイタズラみたいだな。
「落書きかよ。もっと深刻なことかと思ったのに」
「でも、これはとても深刻なことなのよ」
白鳥は顔を強張らせて言った。
「この黒歴史は私が肌身離さず持ち歩いているから、一般人が簡単に触れることは出来ないわ。それに、その落書きは私が家に居るときにいつの間にか書かれていることが多いの。しかも、気配を少しも感じさせることなく―――。これは、つまり―――」
白鳥の顔が更に強張る。
「私よりも強力な霊の仕業ということよ」
「霊って、ユーレイのことか?」
「そうよ」
ユーレイ。おれは今までそんなものに出会ったことがなかった。怖い話の本やテレビで見たことはあるけど。
「あのさ、本当にユーレイの仕業なのか?」
「もちろんよ。それ以外に有り得ないわ」
即答された。
でも、本当にユーレイの仕業だろうか。もっと身近でイタズラが可能な人物は……。
「あっ! そうだよ、いるじゃないか! 落書きが可能な人物が」
「だから、霊でしょう」
「違うよ。……家族だよ、家族! ほら、弟とか妹とかのイタズラだったんだよ」
おれも昔、弟の勝也に教科書をお絵かき帳にされたことがあった。
白鳥の家族構成は聞いたことないが、可能性としてはこれくらいだ。霊というのは白鳥の思い込みだろう。
「……私には、弟も妹もいないわ。一人っ子よ」
―――そうなると……。
「じゃあ、お父さんかお母さんの仕業か。……少年少女のイタズラ心を持った親御さんだな」
「……父も母もいないわよ」
「え? それは、どういう……」
「……父と母は私が小学生の時に亡くなったわ。イギリスに祖母が、大阪に伯父と伯母と従兄妹がいるだけよ」
父と母が亡くなった⁉ じゃあ、こいつは今どこで暮らしているんだ。
「じゃあ、今お前はどうやって生活してるんだよ?」
父母、祖父母が健在で弟妹もいるおれにとって、白鳥の生活が想像出来なかった。
「両親の残した家で、一人で暮らしているわ。……今は霊も住み着いてしまっているから、二人暮らしかしらね。……まあ、金銭面は親の遺産や仕送りがあるから、全く問題ないわね」
それを話している白鳥は少し寂しそうだった。
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