第5話

おれは、電車のなかで、何か上手い言い訳はないかを考えていた。

「あのさ、白鳥。おれ、弟たちに昼飯作らなきゃなんないんだけど」

 今日までは午後カットなので、部活のある二、三年以外は皆、帰宅する。自転車で来る者以外は、ほとんどこの電車に乗るので、車内はかなり混んでいた。

 他の話し声にかき消されないように、白鳥が少し大きめの声で答える。

「だったら、昼御飯を食べた後に青山東駅に来なさい。もう一度言うけれど、拒否権は……」

「ないんだろ?」

「その通りよ。……ちなみに、来なかった場合は、あなたの一家全員を呪うわ」

「家族は関係ないだろ。行くから、呪うなよ、絶対に。……ったく、明日テストだぞ。勉強しなくていいのかよ」

 そう、明日はテストなのだ。国数理社英と五教科一気に。

 受験が終わった日から一度も勉強していないおれは、テストを受ける前から諦めている。

「私は勉強なんかしなくても、それなりにいい点が取れるからいいのよ」

 白鳥は、自信たっぷりに言った。

 同じ高校に受かったのだから、学力はそんなに変わらないはずなのに、この差は何だろう。元の頭の出来が違うのか。

 そうこう考えているうちに、青山東駅に着いた。

 ここまで来ると、車内はけっこう空いてきている。

「じゃあ、待ってるわよ」

 そう言って、白鳥は電車を降りていった。


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