第15話 俺達のノブレス・オブリージュ①
「……まったく……チソチソ出して、きゃっきゃっして……小学校低学年並みだな、お前の笑いのツボって」
ロイヤルルームの真ん中で姉ちゃんは腕組みして言った。
「誰もきゃっきゃっしてねーだろ!? さっきまでの丸出し祭りで、俺一度でも歯ぁ見せてたか!? 姉ちゃんはなにを見ていたの? ていうか、姉ちゃんが触手なんか出すからこうなったんだろーが!」
その触手も、俺のそれを弄ぶだけ弄んだあと、すでに消えている。
俺はそれをちゃんと鎮圧・収納してから、姉ちゃんに向き合った。
「こっちは姉ちゃんの所為でエロい目に遭った被害者なんだからな! どうしてくれるんだよ!?」
「どうってなにが?」
「あんな丸出しにされて見られてぬるぬるされたんだぞ!? 俺は辱められた……! もうお婿に行けない……っ!」
俺がさめざめと泣き崩れる。
少しでも姉ちゃんが良心の呵責に責めさいなまれるよう、盛大に泣いたるわ……!
と、姉ちゃんは嫌な匂いを嗅いだ猫みたいに顔をしかめた。
「おい……それって、わたしに責任取って結婚しろってこと?」
「……あ? いや、違う!? そこまで責任感じなくていいけど、反省してごめんなさいくらい言えって意味で……!」
「……うわ、お前、キモ過ぎ。……ああ、でも結婚できるならそれでもいいか」
姉ちゃん、一転して、ポンと手を叩いて納得。
口の片端だけ吊り上げて笑った。
「おう、責任取って結婚してやるから、お前も一生わたしのこと養う責任負えよ?」
「何度も言ってんだろ! 誰が姉ちゃんと結婚なんかするか!」
「……ちっ。わかったわかった。お前の精子から子供作ってできちゃった結婚するのは、あー、その、キモ過ぎるから諦めてやる。そこは譲歩してやるよ」
「……譲歩っていうか、それが当たり前なんだが……」
「その代わり、子供とか作らないままでいいから結婚しろ。愛の無い形だけの結婚でいいよ、養ってくれるなら」
「どっちにしてもそれかよ!」
このままだと、姉ちゃんに延々と結婚を迫られそう。
俺達の状況はそれどころじゃないのに……。
そうだよ、姉ちゃんも危機感を持つべきだ。
そう思った俺は、姉ちゃんを手で制した。
「ちょっと待ってくれよ、姉ちゃん。今は結婚とかの話をしてる場合じゃねーんだよ。俺達、やべー立場になってるって話、さっきしたろ?」
「……わたしが授業サボり過ぎて評判悪いって話? ……無視しとけばいいって言ったじゃん。出たくないんだから……」
姉ちゃんは不貞腐れたように呟いた。
「俺達の素行の悪さが改善されないなら退学もありうる、って理事長から言われてんだぞ? 大ごとだろ? これで親元に連絡行ったら……下手したら勘当される」
少なくとも俺、王国の第3王子であるジナン王子はバカ王子として碌な目にあわないだろう。
王族ってのも厳しい世界だ。
周囲が勝手に期待して失望して陰口悪口てんこもり。
俺の中のジナン王子の記憶がそう教えてくれる。
俺は暗い未来を思って身震いした。
「姉ちゃん、この世界でなんの後ろ盾もなく、放り出されることになったら……俺達、どうやって生きてくんだよ?」
「そんなこと有り得ないって。ゲームじゃそんなルート無かったもん」
「……俺達、もうゲームから逸脱してんじゃねーか? ゲーム内のルートとか関係なく、マズい行動ばっかしてたら普通に破滅するんじゃ……?」
姉ちゃんは煙たそうに眉を顰める。
だが、その目が落ち着かなげに揺れているのを、俺は見逃さない。
「……うるさいなあ……じゃあ、どうしろってのよ」
「少しでも素行を良くして、悪くなった評判を回復させとかねーか?」
「……ちっ、わかったよ……面倒くさいなあ、それで? なにしろっていうの?」
◆
放課後。
俺と姉ちゃんはずた袋片手に、魔法学園中庭に立っていた。
姉ちゃんの機嫌はすこぶる悪い。
「……これがお前の考えた破滅ルート回避法なの?」
「学園内で俺達の評判、上がりそうだろ?」
「……ゴミ拾いとか……生徒会活動かなにかかよ……」
「ただゴミ拾うわけじゃねーぞ? ゴミを拾いながら、みんなに一声かけて挨拶するんだ」
「……なんでだよ」
姉ちゃんの口から死んだ魚みたいな声が漏れてきた。
それくらいやりたくないらしい。
「学園内で最近、ポイ捨てされたままのゴミとか多いだろ? こういう清掃活動で理事長とか教師にゴマ擦っとこうって話さ。生徒達にも声かけて、好印象を与えられるようアピールしてこうぜ!」
「……舐められるだけだろこんなの……王族や大貴族がゴミ拾いとか、格式を大事にする連中からしたら禿げ散らかすくらい許されないことだって……」
「逆、逆! ノブレスオブ……リーチ? ってやつ? 上の立場にいる奴が率先して働けば、みんなの俺達を見る目も変わるもんだって!」
「……絶対、目の前でゴミ捨てられるって……笑われながら……早く拾えよ、とか言われてさあ……ああ、もう見えるわー、そんな未来……」
姉ちゃんはぶつぶつ文句を垂れる。
呪文は無詠唱なのに。
スタ袋をだらりと垂らして持った姉ちゃん、上目遣いで俺を窺ってきた。
「……マジでやるの……?」
「学園がキレイになったら気分もいいだろ? とりあえずここ、中庭のゴミだけでも全部片づけようぜ!」
「……面倒くさい……お前やっとけよ、弟だろ?」
「姉ちゃんもやるの!」
俺は姉ちゃんの尻を叩きながら、清掃活動を開始する。
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