第14話 地獄の魔物召喚②

「も、もうやめよーぜ、姉ちゃん? こんなこと……」


 触手に自由を奪われながら、俺は必死の説得を試みる。

 冗談じゃねーぞ……。

 なにが悲しくて、俺が触手からエッチなことされなきゃならねーんだよ!

 まだお昼だぞ!?

 そんなことを思いつつ、俺は平静を装う。


「だ、大体、俺は触手なんかになにされても効かねーからな? 気持ち悪りーだけで……やるだけ無駄だって。だから、もう止めよ? な?」

「触手なんかに俺は負けないっ……てことか? へっ、みんなそう言うんだよ」

「……みんなって誰だよ?」


 姉ちゃんまさか……。

 既に何人かやってんのか!?

 なんて胸の奥がざわっとしたが、違った。


「昔読んでたファンタジー系BLの薄い本でたまによく聞くセリフだったからな。久々に聞き飽きたわー」


 やべえ。

 姉ちゃん腐ってた。

 そんな家族の性癖、聞きとうなかった……。

 そして浮かぶ、姉ちゃんの腐った笑み。


「……へへ……おとなしく精子搾り取られればすぐ終わるんだから、協力しろよ。お前の情けないさま、見ててやるからさあ」

「見てんじゃねーよ! ていうか、なんでちょっと興味あり気なの!?」

「ば……っ! バカじゃないっ!? 誰がお前のなんか興味あるかっ!」

「じゃあ、なんで見ようとする!?」

「これは、その……お、お前みたいなド変態なら、見られてる方がより興奮するだろうが! そういう配慮とか思いやりで見ててやろうって言ってんの! むしろ、お前のためなんだから感謝しろよ!」

「姉ちゃんに見られたいわけねーだろ!? てか止めろって!」


 姉ちゃんは一瞬取り乱したのを取り繕って、すまし顔になる。

 クールで下ネタなんかには動じないって面構え。


「まったく、なにもったいぶってんだ。こっちはお前が小さい頃から見慣れてるんだからな。今更見たいとか思うわけないし、見てもなにも感じないっての」

「そっちがなにも気にしなくても、見られる方は嫌に決まってんだろ!?」

「……そんな御大層に、見るな見るなって……お前、気にしすぎなんだよ。わたしのこと意識しすぎ……? 逆にキモイわ」

「でもやっぱりおかしいって! こんな」

「もういい、やれ」


 姉ちゃんが親指を下に向けて、ぐっと下げる。

 と、それを合図にローパーの触手が俺の股間にダイレクトアタック!

 チソチソで受ける!

 隙間へにゅるにゅる入り込んできて、うわ、お前ええええええっ!?

 ぬるぬるがっ! ぬるぬるがっ!

 こんなのいやあああっ!?

 あへえっ!?

 まさかこいつ服だけ溶かすタイプの触手!?

 

「……しかも、なんでチャック下ろそうとしてくんの!?」

「そりゃ、精子を搾り取るために特化したローパーを召喚したんだから、当然だろ。取り出しやすくしてるんだよ」

「取り出すって……チソチソをか!?」

「騒ぐな。どうせ大したことないおチソチソ……」


 ぼろん。

 すでにそのとき、それは触手に導かれてまろびでていた。

 姉ちゃんと俺、ともに一瞬凍り付く。


「……え゛……?」

「……ぎゃあああああ! おいっ!? これ、シャレになんねーだろおおおっ!? やめさせろって! しまええええええっ!?」


 俺の悲鳴は学園中に響いたと思う。

 一方、姉ちゃんは呼吸がおかしい。


「な……おま……ぜ、全然、違……え、待って……」


 震え声。

 目は見開かれ、口はパクパク。


「……わ、わたしの知ってるのと違う……」

「あほか!? この体はジナン王子のものなんだぞ!? 俺の、しかもガキの頃のチソチソと全然違うに決まってんだろーが!」

「そ、それにしたって、こんな……こんな形に……ていうか、これって、あれだよ、な?」

「くっ……!」

「……え? おま……なんだ、それ……そんなもんわたしに見せつけて、こ、興奮……してん……の?」

「触手が! 触手の所為だから! これは無理やり……見ないで!」


 そのタイミングで触手がびゅるるる~と伸びて絡みつく。

 俺の衣を裂くような悲鳴!


「いやあ! ぬるぬるいやあ! ああ! そんな! オスぱっくんされるぅ! 食べられるぅ!」


 湿った音が俺の下半身から奏でられ始める。

 ぎゃあああああ!


「は、はわ……わ……わぁ……」


 凝視しながら震える姉ちゃん。


 く、くっそ……!

 こ、こんなもんで……こんなもんで自由にされてたまるかああああっ!


 俺はなんとか触手から逃れようと身をよじる。

 こんなに俺が悶えているのに、姉ちゃんは棒立ちだ。

 唖然として、俺の俺を見ていた。

 その表情や仕草に、俺ははっとする。


 ……姉ちゃん、もしかして、ドキドキしてんのか?


 姉ちゃんは顔を真っ赤にして、自分を守るように口先に手を当てている。

 のけ反るように身を引いて、だが、逃げるでも止めさせるでもない。

 視線を逸らすこともない。

 息を荒げていた。


 ……弟のあそこを見て!?

 そうなのか!?

 こ、これは……とんでもねえド変態が身近に居やがったぜぇ……。


 そのド変態姉ちゃんが熱に浮かされたように呟き出した。


「そ、そうだよな……お前はジナン王子で……タカアキじゃないんだ……こんな気持ちになっても、へ、変じゃない……よな?」

「ね、姉ちゃん……? な、なに言って……?」

「……い、いや! でも中身はタカアキだし! ……い、きっ気持ち悪ぅ! わたし、なにを……! きも! きもきもきもきもっ! 変態野郎がっ! んなもん見せつけて気持ちよくなってんじゃないよ! 弟のくせによぉっ!」

「だっ、誰のせいでこんなんなってると思ってんだ!? この触手出したの姉ちゃんじゃねーかっ!」

「うるさい! こんなもん消したるわ!」

「うぎゃ!?」


 唐突に触手の魔物ローパーが消え去り、絡めとられていた俺は床に落下した。

 姉ちゃん、またも無詠唱で退去魔法を……!?


 姉ちゃんが吠える。


「さっさとそのグロイものをしまえよ! ド変態がよぉ!」

「そんなこと言われる筋合いあるぅ!?」

「勃起チソチソ見せつけられた傷は深いんだよっ! ああ、不快! まったく下品で最低なキモ男だよお前は!」

「普通に勃起とか言うなよ!? ほんと姉ちゃんは下品だなああ!」


 俺はいそいそと仕舞いながら言い返した。

 服は溶けてなかったみたいでよかったです。

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