第10話 大陸

「じゃ、ちょいと行ってくる」


 クラウスは鉄のロングソードを背に扉の前に立つ。

 午前中は狩りに行くのが彼の日課だ。


「行ってらっしゃい、父さん!」 


「あなた、気を付けてね!」


「おう! 今日も頑張ってモンスターを狩ってくるからな!」


 元騎士の爵位を持つクラウスだが、貴族らしさはない。

 田舎のお兄さんって感じかな。

 貴族らしいことといえば、年に数回、村を治める男爵とやり取りすることくらいだ。


 このときばかりは、明るいクラウスも緊張でこわばっている。

 普段はモンスターを狩ることに勤めており、その時は活き活きしている。


 騎士をやめたのも城での堅苦しい仕事から逃れたかったのかな……


 俺はそう推測する。


(村の安全と収入のためか)


 クラウスがモンスターを狩ることで、村の収入も増え財政も良くなる。

 何より土地が肥沃ではないこの村では、農業では生計を立てることが難しい。


(移住はしないのだろうか)


 俺はそう思う。

 だが、自分に置き換えると、そう簡単に生まれた場所は離れられない。

 友達や慣れた場所は、理屈だけではどうしようもない。

 だから、ここで生きる。


「俺は書斎で勉強してきます!」


「あら、偉いね」


 アイナに見送られた俺はキッチンを後にして、書斎へ。

 クラウスの本が書庫に並べてある。

 蔵書量は大したものではない。


 それでも、俺にとっては数少ない知識の宝庫だ。

 アイナから文字を教わった俺は、その日からここに通ってる。


「よし」


 書斎には片側の壁一面の本棚が一つと、窓際に机だけ。


 俺はその机に向かい、丸椅子に腰を下ろす。


「でかい大陸だな……」


 地理の本を手にし、そう思う。


 ゲームの説明書に書かれた地図と同じだ。

 最初のページに書かれているのは、この世界にある大陸についてだ。

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