第9話 外に出れる!
俺は両手に持った妖しく輝く魔石にうっとりする。
「やだ。あなたとそっくり」
アイナの呆れ声が、俺の左耳を通って右耳から出ていく。
「なんだよ、ため息なんかついて」
「あなたも、そしてセリスまで魔石好きなんて……。その内、魔石を求めてモンスター狩りにセリスが行くと思うと心配なの」
(すまん、アイナ)
母に心配かけちゃいかん。
俺は心の中で謝るも、魔石の魅力に取りつかれていた。
どんな宝石よりもきっと美しい。
俺にとっては。
「ま、いっか」
「ん? なんだ?」
アイナが鼻から息をつき、そしてにこりと笑う。
「考え方を変えれば、セリスが魔石好きなのはアジトン家そして、この村にとってはいいことね。だって、モンスターと戦って私達を守ってくれることになるのだから。あなたの様に勇敢にね」
いい女だね。
アイナは。
最後には、ちゃんと夫であるクラウスを立ている。
両親が仲がいいのは嬉しい。
そして、この魔石。
(これで、この世界に魔石が本当にあることは確認できた。あとは、自分で立って歩けるまで成長するのを待って、モンスターを狩りまくって、魔石でスキルポイントを上げて、強くなって、この村で嫁でも見つけて、スローライフじゃ!)
◆
それから俺は五年の歳月をじっと、耐えた。
日々、両親に隠れて木の魔剣を召喚する日々。
我が子が日々魔力を高めていることに、クラウスもアイナも気づいていない様だ。
そして、ある日。
「剣に触れてみるか? セリス」
「え?」
突然のクラウスの提案。
俺の気持ちは歓喜よりも驚きの方が勝った。
今まで、クラウスはセリスを大切に育てて来た。
だから、そんな素振りは無かったからだ。
「一緒に外に出ようか」
「うん」
外出できる!
おお、異世界を堪能できる。
長かった家の中で過ごした五年間がやっと報われる。
「でも、セリス。外出していいのは、この家の周りの庭だけよ」
アイナが釘を刺す。
アイナは窓の外の庭を指差し、こう言った。
「あの柵を越えたらお尻ぺんぺんよ」
お尻ぺんぺんって……
何度もされてきた。
俺が勝手にクラウスの魔石を触りに行った時に何度も。
ハッキリ言って、美女のアイナにお尻を叩かれるのは、羞恥以外の何物でもなかった。
「なら、リズボットさんにあの柵をなおしてらわないとな」
リズボットさんとは、この街の何でも屋のことだ。
何度も家に来たことがある。
家の屋根を修理したり、どこからか仕入れた武器を持ってきたりする。
この村の人々はこの謎の爺さんに頭が上がらないところがある。
が、本人はどこか飄々としていて、ニコニコしている。
(ゲームにいたかな?)
俺のクリアしたルートにこんな人物はいなかった。
そもそも俺はセリスでプレイしていない。
もっとやり込んでおけばよかったなと思う。
「訓練は午後からはじめる。訓練用の木剣はそこで渡すからな」
訓練!?
振るだけじゃなくて、いきなり実践!?
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