第9話 外に出れる!

 俺は両手に持った妖しく輝く魔石にうっとりする。


「やだ。あなたとそっくり」


 アイナの呆れ声が、俺の左耳を通って右耳から出ていく。


「なんだよ、ため息なんかついて」


「あなたも、そしてセリスまで魔石好きなんて……。その内、魔石を求めてモンスター狩りにセリスが行くと思うと心配なの」


(すまん、アイナ)


 母に心配かけちゃいかん。

 俺は心の中で謝るも、魔石の魅力に取りつかれていた。

 どんな宝石よりもきっと美しい。

 俺にとっては。


「ま、いっか」


「ん? なんだ?」


 アイナが鼻から息をつき、そしてにこりと笑う。


「考え方を変えれば、セリスが魔石好きなのはアジトン家そして、この村にとってはいいことね。だって、モンスターと戦って私達を守ってくれることになるのだから。あなたの様に勇敢にね」


 いい女だね。

 アイナは。

 最後には、ちゃんと夫であるクラウスを立ている。


 両親が仲がいいのは嬉しい。

 そして、この魔石。


(これで、この世界に魔石が本当にあることは確認できた。あとは、自分で立って歩けるまで成長するのを待って、モンスターを狩りまくって、魔石でスキルポイントを上げて、強くなって、この村で嫁でも見つけて、スローライフじゃ!)



 それから俺は五年の歳月をじっと、耐えた。

 日々、両親に隠れて木の魔剣を召喚する日々。


 我が子が日々魔力を高めていることに、クラウスもアイナも気づいていない様だ。


 そして、ある日。


「剣に触れてみるか? セリス」


「え?」


 突然のクラウスの提案。

 俺の気持ちは歓喜よりも驚きの方が勝った。

 今まで、クラウスはセリスを大切に育てて来た。

 だから、そんな素振りは無かったからだ。


「一緒に外に出ようか」


「うん」


 外出できる!

 おお、異世界を堪能できる。

 長かった家の中で過ごした五年間がやっと報われる。


「でも、セリス。外出していいのは、この家の周りの庭だけよ」


 アイナが釘を刺す。

 アイナは窓の外の庭を指差し、こう言った。


「あの柵を越えたらお尻ぺんぺんよ」


 お尻ぺんぺんって……

 何度もされてきた。

 俺が勝手にクラウスの魔石を触りに行った時に何度も。

 ハッキリ言って、美女のアイナにお尻を叩かれるのは、羞恥以外の何物でもなかった。


「なら、リズボットさんにあの柵をなおしてらわないとな」


 リズボットさんとは、この街の何でも屋のことだ。

 何度も家に来たことがある。

 家の屋根を修理したり、どこからか仕入れた武器を持ってきたりする。

 この村の人々はこの謎の爺さんに頭が上がらないところがある。

 が、本人はどこか飄々としていて、ニコニコしている。


(ゲームにいたかな?)


 俺のクリアしたルートにこんな人物はいなかった。

 そもそも俺はセリスでプレイしていない。

 もっとやり込んでおけばよかったなと思う。


「訓練は午後からはじめる。訓練用の木剣はそこで渡すからな」


 訓練!?


 振るだけじゃなくて、いきなり実践!?

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