第8話 魔石

 俺はその匂い肉の焼ける良い匂いに花をひくつかせた。

 クラウスが勢いよく扉を開ける。


「アイナ! セリスのよだれが止まらないぞ!」


 扉の奥は台所だった。

 土間になっていて、その突き当りに小さなかまどと、焼き場がある。


「あ、あなた!? ご飯まだだよ!」


「セリスが魔石で遊びたいんだとさ」


「え? こんな赤ん坊なのに?」


(そうだよ!)


「それはそうと……もう! セリスを勝手に部屋から出さないで。あなたはいつも身勝手ね!」


「何だと? 俺はいつもお前優先で行動してる」


「へぇ、そうかしら。私たちが十五の時だったよね。はじめてのデートで、街に行ってみようって話してたのに! あなた一人で森の方に行っちゃったじゃない!」


「よく覚えてるなお前」


 ケンカしながらも、仲がいい。

 二人は相当、お似合いだ。

 俺はそう思った。

 そして、仲の良い両親の間に生まれたこと俺は幸福だ。


「もう! あなたのご飯つくらないから」


「そんなぁ」


(クラウス、若干、尻に敷かれてるな)


 そろそろ許してやってくれよ。

 アイナ。


「……それで、セリスに魔石を渡したいのね?」


「そうなんだ!」


 俺はわくわくしている。

 いよいよ魔石とご対面だ。


「よーし! セリス。ちょっと待ってろ!」


 土間に降り立ったクラウスは、ドタドタ足音を立てながら、奥の引き戸を開ける。

 毛皮の上に敷き詰められているのは沢山の台所用品と……妖しく光り輝く魔石!


「俺のコレクションだ!」


 誇らしげに魔石の山を披露するクラウス。


「もう、あなたったら。魔石が好きだからって毎日の様に、森に行ってワイルドブルを倒しに行って! 私心配なんだからね! でも、そのお陰で、お肉と、お金には困らないからいいんだけど」


 クラウス……

 アイナを心配させんじゃねぇ。

 でも、好都合ではある。

 この魔石の山をいただければ、大幅なレベルアップが期待できる。


(ま、だけど、父親の宝物を盗むなんて親不孝な真似、できないぜ)


 小さい頃、現世の母親の財布からこっそりお金を盗んでゲームを買った。

 それがバレた時、怒られるかと思ったが、


「こんな子に育てた私がバカだった!」


 と大泣きされた。

 聞けばその金は、俺の将来のために貯金する予定のためだったらしい。


(魔石は自分で頑張ってゲットしよう)


 思い直す俺。

 偉いぜ。


 そして、クラウスの手元には、色んな色の魔石がある。

 赤、緑、紫、黄、橙、白……


 大きさは大人の手のひらに収まる程度。


「ほら」


 クラウスがそれを俺に握らせた。


(これが、魔石……)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る